(ベネディクトとオリヴィアは)それぞれがユニークな個性の持ち主ですね
お互いのコミカルな部分を引き出しあっていました

ジェイ・ローチ監督
──この企画を持ち込まれた時、カンバーバッチとコールマンの出演は決まっていたようですが、作品のどこにひかれましたか?
「今回の脚本は『哀れなるものたち』(23)のトニー・マクナマラなんですが、私はもともと彼のファンでした。すこしダークな要素も入れつつ、人間のうまくいかない部分をユーモアもまじえて描ける素晴らしい脚本家です。しかも、主演はオリヴィアとベネディクト。断るなんてありえない話に思えました」

──ふたりの英国俳優はいかがでしたか?
「それぞれがユニークな個性の持ち主ですね。オリヴィアはとても寛大で親しみやすい。いたずら好きで、元気いっぱいです。彼女はエゴが強く出た設定ですが、そんな役も変に考えすぎず、軽々と演じられる。しかも、リアリティも出せる。本当にファニーな人でした。ベネディクトは自分のことをファニーと思っていないはずですが、オリヴィアと一緒にいると独特の雰囲気が生まれる。お互いのコミカルな部分を引き出しあっていました。彼はすごくオープンで、私とは役について前向きに話し合えました」
──ダニー・デヴィート監督の『ローズ家の戦争』(89)がベースになっていますね。
「彼は私の『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』(02)にも出ていて、友人でもあります。事前に今回の映画化の話をして『前作とは、まるで違うものになるだろう』と伝えてありました」
──前作は離婚の話題が後半の中心テーマですが、今回はお互いのキャリアをめぐる葛藤もありますね。夫は建築家で、妻はシェフと“作ること”が仕事です。
「でも、結局、夫は仕事を失って家庭を守り、妻の方は途中からただのシェフでいることに飽き足らず、レストラン帝国を作ろうとする。だんだん彼女のエゴがふくらみ、家族が犠牲になっていく。これは現代の家庭にもありそうな設定で、最後はとんでもない方向にシフトしていくわけです」


──彼が作る邸宅にはHALという名前のAIも設置されていましたが、キューブリックの映画を意識しましたか?
「確かに彼の『2001年宇宙の旅』(68)へのオマージュです。HALは実は危険なキャラクターでもあるので、今回の夫婦にとって脅威となる設定も盛り込みました」
──夫婦はアメリカに住む英国人という設定。アメリカ人のあなたにとって英国のユーモアはどう映りますか? 『オースティン・パワーズ』はボンド映画の風刺でしたね。
「若い頃から英国のコメディにすごく親しみを感じていました。大学時代にオタクっぽい友人たちがいて、みんなでモンティ・パイソン関連の映画を見ていたんです。英国のユーモアはダークで、少しとがった印象があります。『オースティン・パワーズ』ではマイク・マイヤーズがカナダ人としては最高に英国的なセンスを発揮しました。彼は英国好きなのに、その文化をからかう面も持っていて、そんな彼に私も刺激を受けました。私自身は英国男優のマイケル・ケインも大好きです」
──新作のふたりだけではなく、ロバート・デ・ニーロ、ニコール・キッドマンなど、大物俳優も起用していますが、映画でいい演技を引きだす秘訣とは?
「そうですね。まずは素晴らしい俳優をキャスティングすることが大事です。それで99%の仕事は終わったも同じ。こちらは必死に働く必要がないんです(笑)。私は俳優たちを大事にしています。彼らはこちらを信頼しているので、思いっきり役に飛び込む彼らをしっかり受け止めたいと考えています」
ジェイ・ローチ プロフィール
1957年6月14日、米ニューメキシコ州生まれ。監督作の一つ『ミート・ザ・ペアレンツ2』(04)は世界興収5億ドルを超える大ヒット。「オースティン・パワーズ」シリーズなどのコメディから、『スキャンダル』(19)など社会派作まで手掛けている。
『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』
2025年10月24日(金)公開
アメリカ=イギリス/2025/1時間45分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:ジェイ・ローチ
出演:オリヴィア・コールマン、ベネディクト・カンバーバッチ、アンディ・サムバーグ、ケイト・マッキノン
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