〜今月の3人〜
大森さわこ
映画評論家、ジャーナリスト。敬愛するダニエル・デイ=ルイスの復帰作『アネモネ』。日本公開を願っています。
金子裕子
映画ライター。チャン・イーモウ監督の『満江紅 マンジャンホン』で “匠の技”を堪能し、久しぶりにワクワク。
松坂克己
映画ライター・編集者。デル・トロの『フランケンシュタイン』がさすがで、映像化を熱望して来たのも納得。
大森さわこ オススメ作品
『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』

人間の複雑な心理や不可解さを目撃することで
心動かされるマイク・リー監督作
評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽3
あらすじ・概要
ロンドンに住む中年女性のパンジーは家族や周囲の人々に怒りをぶつけている。そんな彼女を妹のシャンテルは優しく受けとめる。ふたりが母の墓参りに行った時、パンジーの心の秘密が遂に明かされる。
90年代の傑作『秘密と嘘』で知られる英国の巨匠監督、マイク・リーが6年ぶりの新作で力を見せる。家族をテーマにした映画が得意だが、今回も一筋縄ではいかない骨太の個性を発揮。主人公は現代のロンドンに住むアフリカ系英国人の中年女性。いつも心に怒りを抱え、寡黙な夫やひきこもりの息子、さらに店や病院の人々に当たり散らす。主人公の妹は姉とは真逆のポジティブな性格のシングルマザーで、姉にも温かい眼差しを向ける。

とにかく、主人公(『秘密と嘘』のマリアンヌ・ジャン=バプティストが熱演)が強烈で、どんな行動を取るのか先が読めず、映画の緊張感が続く。なぜ、彼女はいつも怒っているのか? その心の秘密が解き明かされる。こうした家族物は和解や再出発にたどりつくことが多いが、そうならないのがリーの作品。ひねったユーモアをまぶしつつも、感傷は抜きで、主人公の怒りの向こう側にある屈折した孤独や痛みを見せる。即興演出を重ねることで生まれる人物たちのリアルな感情にふれるうちに、人間の複雑な心理や不可解さを目撃して、心を動かされてしまう。
公開中、スターキャットアルバトロスフィルム配給
©Untitled 23 / Channel Four Television Corporation / Mediapro Cine S.L.U.
金子裕子 オススメ作品
『ローズ家〜崖っぷちの夫婦〜』
幸福だった夫婦がパワーバランスの逆転で
“命がけの離婚騒動”に発展!?

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4
あらすじ・概要
ロンドンで恋に落ちた建築家テオと料理家アイヴィは、アメリカ西海岸に移住。順調な結婚生活を送っていたが、テオの事業が破綻したことから夫婦関係が崩壊し喧嘩の日々。やがては銃まで持ち出す離婚騒動に発展するが。
マイケル・ダグラス&キャスリーン・ターナー共演の『ローズ家の戦争』(89年)を、現代風にアレンジ。幸せな結婚生活を送る夫婦がある出来事からパワーバランスが逆転して “命がけの離婚騒動”が勃発。
コメディの名手ジェイ・ローチ監督だけにほっこりした笑いもあるが、それより『哀れなるものたち』(23年)で高い評価を得たトニー・マクナマラのダークで容赦のない脚本が際立つ。たとえば“ウィットに富んだ英国人”を自認する夫婦が応酬する激辛ウィット(暴言)。巧妙かつあからさまに相手を揶揄する言葉にはたっぷり毒があり、笑いながらも背中が泡立つ。しかも演じるのが、ベネディクト・カンバーバッチとオリヴィア・コールマンという英国の名優2人。テンポと間合いの良さはバツグンで、さすがでございます!

いつしか思いやりを忘れ、無限にふくらんでいくエゴと競争心……。いくつもの小さな火種がチロチロ燃え続け、クライマックスの大乱闘に誘うプロセスは巧妙だけど、リアルすぎて笑ってばかりもいられない。
公開中、ウォルト・ディズニー・ジャパン配給
©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
松坂克己 オススメ作品
『Mr.ノーバディ2』
すべてが前作よりスケールアップ!
本当の職業を知った家族と共に大暴れ!

評価点:演出4/演技5/脚本5/映像4/音楽4
あらすじ・概要
家族関係がサイアクになった殺し屋が、一家を引き連れバカンスに。だが訪れたのは最狂の女ボス率いる犯罪集団の支配する地で、ハッチら一家はトラブルに巻き込まれ、全面戦争にエスカレートしていく。
一見平凡な中年男、しかしてその実体は凄腕の殺し屋…という設定と男の暴れっぷりがサイコーだった前作から4年、よりスケールアップした続編がやって来た。
いまや借金返済のために休日返上で仕事に励んでいたが、おかげで家族関係は最悪で、その解消のため一家は夏のバカンスに出かけることになる。ということで訪れたしょぼいリゾート地で、ハッチをはじめとする一家が大トラブルに巻き込まれるのだが、その相手は冷酷非情な女ボスに率いられた凶悪集団。同行した祖父や助けにやって来た兄弟も交え、アクションの大盤振る舞いが楽しい。ボブ・オデンカークら一家のキャストはそのままで、今回のヴィランにはシャロン・ストーンが扮している。

今回は最初から家族がハッチの本当の仕事を知っているので、それも含めて家族関係が笑わせてくれるし、後半になると家族も一緒になってのアクションを展開してくれる。コニー・ニールセン、クリストファー・ロイド、RZAら共演陣も楽しそうに暴れ回る。更なる続編が見たくなるほどだ。
公開中、東宝東和配給
©2025 Universal Studios. All Rights Reserved.


