マッツ・ミケルセンの60歳の誕生日を祝して、日本劇場初公開の貴重な作品を含む7作品を一挙上映する「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」が開催中。その見どころとマッツの演技の魅力を北欧映画鑑賞家・米澤麻美さんに解説してもらいました。(文・米澤麻美/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:『アフター・ウェディング』より © 2006 Zentropa Entertainments16 ApS. & After the Wedding Ltd./Sigma Films III Ltd. All rights reserved 2006

デンマークでは10年ごとの誕生日が特別な祝いの節目とされる

1965年11月22日デンマークのコペンハーゲンに生まれたマッツ・ミケルセンは、2025年の今年60歳を迎える。デンマークでは、10の倍数の歳になる誕生日はrund(ロン) fødselsdag(フッスルスデイ)(直訳すると丸い誕生日)と呼ばれ、他の誕生日よりも盛大にお祝いされる。そんな少し特別な誕生日を迎えるマッツを日本でもお祝いしようと、「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」として代表作7作品が上映されている。この7本は、日本では上映される機会が少ないデンマークの作品でデンマーク語を話すマッツが堪能できるラインナップとなっている。

本上映の注目ポイントは、厳しい眼差しで現実を映し出そうとするリアリズム映画と、現実を皮肉ったおとぎ話のような非リアリズム的な映画を見比べられることだ。困難に直面した人間が見せる複雑な感情、現実世界にはいないような変わった人間の滑稽さ、はたまたロマンティックな香りがする歴史上の人物の儚さなど、住む世界も時代も異なる人物を演じるマッツの変幻自在ぶりをスクリーンからぜひ感じてほしい。

まずリアリズム映画としては、スサンネ・ビア監督の『アフター・ウェディング』(06)とトマス・ヴィンターベア監督の『偽りなき者』(12)がある。これらの作品ではマッツが表現する繊細な目の演技が見逃せない。ビア監督とヴィンターベア監督は、ともに人間の顔に表れる微妙な感情の変化をクロースアップで丁寧に捉えることを得意とする監督である。特に『アフター・ウェディング』では、マッツ演じるヤコブの目のクロースアップが随所にちりばめられており、台詞には表れない心の奥底にある感情が彼の目を通して感じられる仕掛けとなっている。スクリーンに映し出されるマッツと視線を合わせて、彼が表現しようとする人間の複雑な感情を存分に味わっていただきたい。

マッツ演じるヤコブの目のクロースアップが随所にちりばめられている『アフター・ウェディング』
© 2006 Zentropa Entertainments16 ApS. & After the Wedding Ltd./Sigma Films III Ltd. All rights reserved 2006

『偽りなき者』もマッツが表現する繊細な目の演技が見逃せない
© 2012 Zentropa Entertainments 19 ApS and Zentropa International Sweden.

次にリアリズムと非リアリズム的な映画の中間として、ニコライ・アーセル監督の『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)がある。マッツ演じる侍医ストルーエンセをはじめとする登場人物のほとんどは実在した歴史上の人物であり、実際に起きた事件に基づいた物語であるが、当時の時代背景を忠実に再現しているわけでない点には気をつけたい。しかし、マッツの演技から立ち現れる劇中のストルーエンセは、実際のストルーエンセもこんな人物であったのかもしれないと思わせるほど、魅力的で人間味あふれる人物になっている。また、宮廷舞踏会のシーンは元ダンサーであるマッツの腕の見せどころとなっており、アリシア・ヴィキャンデル演じる王妃カロリーネと踊るしなやかなで優美なダンスは必見だ。

『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』の宮廷舞踏会のシーンは元ダンサーであるマッツの腕の見せどころ
© 2012 Zentropa Entertainments28 ApS, Zentropa Entertainments Berlin, Zentropa International Sweden and Sirena Film Prague

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