障がい者とその介助者に間違われた宝石泥棒の親子が障がい者のサマーキャンプに紛れ込み、警察の追手から逃れるようとするが…。フランスで大人気のコメディアン・俳優・作家であるアルテュスが監督と脚本、主演を務めた『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』はフランスで 2024 年年間興行収入ランキング No.1を記録した作品である。公開を前にアルテュス監督にインタビューを敢行。企画のきっかけから脚本執筆、演出について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

健常者と障がい者の境界を問い直す


──本作の企画のきっかけからお聞かせください。

「障がいを持った人たちを前面に出し、みんなで一緒に笑うことを描きたい」というのが出発点で、最初は「サマーキャンプの話」だけがありました。そこに後から「父と息子の関係」が加わっていったのです。

物語において、もともとネガティブだった人が変わっていく――たとえば父親がそうですが――そうした変化には物語としての面白さがあります。また、パウロも自分が想像していたのとは違う“家族”と出会い、人と人との関係は思っているよりも簡単に築けるものだと知っていきます。

もうひとつ描きたかったのは、「誰が健常者で、どこからが障がい者なのか」という境界を問い直すことでした。作中の“健常者”たちも、どこかしらおかしい。施設の支援員として登場するマルクは人と上手くコミュニケーションを取れず、セリーヌは少しクレイジーです。それでも彼らは障がい者とは呼ばれない。では、その線引きを誰が決めるのか――。そうした問いを作品全体に込めています。もしかすると、一番苦しんでいるのは父親なのかもしれません。

画像1: 健常者と障がい者の境界を問い直す

──父親の描き方には、監督のお父様が反映されているのでしょうか。

いえ、それはありません。幸いにも私の両親はとても愛情深く優しい人たちですので、この作品の父子関係とは関係がありません。

画像2: 健常者と障がい者の境界を問い直す

──実際に障がいのある11人のアマチュア俳優の方々をオーディションで選び、彼らの個性を脚本に取り入れたそうですね。

一人ひとりのために“あて書き”をしています。例えば、アルノーはフランスの国民的歌手として知られるダリダの大ファンで、腕にあるダリダの顔を描いたタトゥーは本物。そしてパウロがダリダの顔がアップで描かれたTシャツを着ていますが、アルノーが貸してくれたものです。実際に「Tシャツを貸す」場面も撮影していたのですが、編集でカットしました。このようにそれぞれの個性を活かした脚本にしています。

ただし、現場では予定していなかった即興的な瞬間も多くありました。たとえばマリが自分の過去を語り出す場面は、彼女が突然話し始めたものです。スタッフには「いつでもカメラを回せるように」と伝えていたので、その瞬間を捉えることができました。

ほかにも、サッカーのシーンでボールがマリに当たるというハプニングもありました。偶然でしたが本人にケガはなく、キャラクターの流れとして自然に活かすことができ、結果的に印象的な瞬間になったと思います。

リメイクの話もいただいていますが、この作品はキャストと脚本が強く結びついているので、リメイクは簡単ではないと思います。

画像3: 健常者と障がい者の境界を問い直す

──監督は脚本だけでなく主演も務めています。演じながら監督することの難しさはありましたか。

意外にも難しくはありませんでした。私にとって重要だったのは、みんなと“共に演じる”ことです。ただ指示を出すだけではなく、同じ立場で表現する。それが自然な関係をつくると感じていました。

また、撮影前からプロデューサーに「時間をかけたい、無理に進めたくない」と伝えていたので、キャストの気分が乗らない日は無理をせず、リラックスした環境で撮影しました。フランスでは珍しいやり方ですが、結果的に予定より早く終わる日も多かったです。

私の目的は、美しく完璧な映像を撮ることではなく、「率直で正直な作品」を残すことです。ですから、照明が完璧でなくても、内容が良ければそのテイクを採用する。全体を通して、そうした姿勢で臨みました。

画像4: 健常者と障がい者の境界を問い直す

──本作はコメディとしての軽やかさと、登場人物の繊細な感情が見事に共存しています。そのバランスは現場で自然に生まれたのでしょうか。それとも編集段階で意識されたのですか。

自然に生まれたものです。出演者たちは本当に率直で、気分がいい時はいい、悲しい時は悲しいと、感情をそのまま表現してくれました。現場でもその瞬間ごとに自然なバランスが取れていったんです。

今の時代、私たちは常に「元気で」「安定して」いなければならないと考えがちです。でも、本当は「今は元気じゃない」と言ってもいい。自分の本当の状態を隠さずに言葉にすることは、決して悪いことではありません。

私は、誰もが「本当のことを言う権利」を持っていると信じています。それがこの作品の根底にあるテーマでもあります。

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<PROFILE> 
アルテュス 
1987年8月17日生まれ、ル・シェネ出身。2011年、スケッチコメディ番組「On n'demande qu'à en rire」に出演し、コメディアンとして注目を集める。その後、2012年から2013年にかけて一人芝居「Artus de A à S」でフランス各地をツアーで回り、2014年にはパリの劇場ル・スプレンディッドでワンマンショー「Al Dente」を成功させる。俳優としては2017年、マチュー・カソヴィッツ主演の人気TVシリーズ「Le Bureau des Légendes」(15–20)、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の「ベルナデット 最強のファーストレディ」(23)などに出演。『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』で第50回セザール賞優秀初監督作品賞にノミネートされた。

『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』2025年12月26日(金)全国ロードショー

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<STORY> 
宝石店に泥棒に入ったパウロ(アルテュス)とその父親(クロヴィス・コルニアック)。警察の追跡から逃げるふたりは、ひょんなことから障がい者とその介助者に間違われ、障がいのある若者たちのサマーキャンプに身を隠すことに。とりどりの個性を持つ彼らとの笑顔にあふれたドタバタでにぎやかな日々は、やがてふたりの心をやさしく解きほぐしていく。しかし、そんなゆかいな逃避行も長くは続かず……。果たして、泥棒親子の運命は⁉ そして、彼らが見つけた本当の宝物とは—

<STAFF&CAST> 
監督:アルテュス 
脚本:アルテュス、クレマン・マルシャン、ミラン・モージェ 
原案:アルテュス 
出演:アルテュス、クロヴィス・コルニアック、アリス・ベライディ、マルク・リゾ、セリーヌ・グルサール、アルノー・トゥパンス、マリ・コラン、 テオフィル・ルロワ、ルドヴィク・ブール、ソフィアン・リブ、スタニスラス・カルモン、マヤヌ=サラ・エル・バズ、ボリス・ピトエフ、 ギャッド・アベカシス、ティボー・コナン、バンジャマン・ヴァンドワル 
配給:東和ピクチャーズ 
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