遂にシリーズの完結編が登場!
英国のテレビ・ドラマ『ダウントン・アビー』は20世紀初頭を舞台にある貴族の一家とそこで働く使用人たちの人間模様を描き出した大河ドラマ。テレビ版はシーズン6まで作られ、その後は3部構成の映画となる。
新作『ダウントン・アビー/グランドフィナーレ』はシリーズの完結編。テレビ・シリーズ以降、15年間に渡って同じキャストがさまざまなドラマを見せたが、このシリーズを愛し続けた人には、深い余韻が残る見事な最終章となっている。

ダウントン・アビーの舞台となるハイクレア城は人気観光スポットとなった
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映画版の2作目も撮ったサイモン・カーティスが監督を続投。カーティスは英国演劇界で実力を磨き、映画の世界ではミシェル・ウィリアムズとエディ・レッドメイン共演の『マリリン 7日間の恋』(2011)、ヘレン・ミレンが主演の『黄金のアデーレ 名画の帰還』(2015)などで”知られざる歴史の裏側”を描き出し、その手腕が注目された。
2025年12月末に行われたサイモンとのズーム・インタビューではこの最終章の製作背景、コーラ役を演じ、私生活上のパートナーでもあるエリザベス・マクガヴァンの演技観、映画2作目までヴァイオレット役を演じていたマギー・スミスの思い出などを語ってくれた。
途中で3部作へと変わった映画版
——『ダウントン・アビー』の映画版は最初から3部作でしたか? 最初の映画版は別の監督ですが、その後の2本にかかわったいきさつは?
「実は最初から3部作の映画にするつもりではなかったようですね。1作目の成功に驚いて、その後、3部作にしたようです。私が2作目『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』(22)の監督に選ばれたのは、出演者のひとりと結婚していて、この作品の周辺事情に詳しいという理由もあったようです。実際、私がこのシリーズのファンであることをみんなが知っていて、すごく自然な流れで監督になり、3作目にも参加しました」
母のコーラ(左)と次女イーディス(右)。コーラを演じるエリザベス・マクガヴァンはサイモン・カーティス監督の私生活でのパートナーでもある。
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——ご結婚されているのは、コーラ役のエリザベス・マクガヴァンさんですね。彼女は本当にすばらしい女優です。彼女がコリン・ファースと共演した舞台「スリー・デイズ・オブ・レイン」(1999)をかつてロンドンで見たことがあります。
「あの舞台を見ているんですか? それは驚きました。ロングランではなかったのですが、すごくいい舞台でしたね。彼女は女優として実力があり、『ダウントン・アビー』の長いシリーズを通じて、コーラ役をより深めるために力を尽くしたと思っています。アメリカから英国の貴族の家に嫁いだ役ですね。彼女には機知があり、知的なところが魅力だと思います」
脚本家、ジュリアン・フェロウズの群像劇
——このシリーズは脚本家、ジュリアン・フェロウズの力が大きいですね。あなたは以前から友人だそうですが、彼のどんなところが優れていると思いますか?
「彼の作品がいつも好きでした。彼はどんな人物も人間的な魅力を込めて描くことができる。群像劇を描かせると最高のライターだと思います。だから、同じように群像劇がうまいロバート・アルトマン監督と組んだ『ゴスフォード・パーク』(2001)で最初に認められたのも納得できます」
——あの映画でジュリアンはアカデミー脚本賞を受賞しましたね。マギー・スミスもすでに出ていました。『ダウントン・アビー』も群像劇。そこでは家族の意味、人間関係、愛と死が描かれ、ひじょうに普遍的な内容ですね。
「本当にそうです。同じ屋根の下で、さまざまな年齢の男女が共に暮している。このひとつ屋根の下の人々というコンセプトが受け入れられたのだと思います。

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——あなたの映画版にはテレビになかった映画独自の魅力も加わっていますね。
「それはもちろん、すべてシナリオのおかげで、ジュリアンのアイデアです。ただ、映画版に関しては、キャラクターをもう一度組み立て直し、これまでと違う状況や場所におきたいという思いがありました。テレビ版でもロンドンは出てきますが、そういう場所の見せ方も、映画版ではもっとスケールの大きな見せ方を考えました。たとえば、3作目のロイヤル・アスコット(王室主導の競馬)の場面は、テレビ版で描くことはできなかったと思います。予算も製作日数も、テレビだとこれほど余裕がないですから。ここは映画ならではの見せ場にしたいと考えました」
——CGを使っているとも聞いていますが。
「実はCGのおかげでエキストラの数を多く見せることができました。何百人の単位だったのが、何千人もいるように見せることができたんです」
女性たちの新しい力を見せる
——映画には特に印象的なセリフが登場します。クローリー家のかじ取りを任された長女、メアリーは時代の変化を意識しながら言いますね――「私たちのような家族は生き残るために前に進み続けるしかない」。
「これは映画全体のテーマを象徴するセリフにもなっていると私は思います」
——離婚を経て、さらに強く生きようとするメアリーは、舞台となる1930年という時代の中で、新しい女性の生き方を示していると思いますか?
「本当にそうだと思います。映画全体を通じて女性たちの強い力が強調されています。若い召使のデイジーはコミュニティの中で新しい役職につくし、クローリー家の次女のイ―ディスもかつてより強い主張ができる女性になっています。世代が上のイザベラやコーラも以前よりも影響力を見せます。女性たちの新しい台頭もこの映画の重要なテーマのひとつだと思います」
クローリー家の長女メアリー(左)と次女イーディス(右)も自分たちの道を歩む
――舞台となる1年前の1929年に英国の進歩的な女性作家、バージニア・ウルフが『自分ひとりの部屋』という女性の立場を主張する本も出しています。そういう文学界の動きとも連動していますか?
「そうだと思います。英国文化がまさに新しく生れ変わろうとしていた時代が、今回の映画では舞台になっているんです」
――1930年といえば、劇中にも登場する英国の人気劇作家、ノエル・カワードの時代でもあったのでしょうか?

当時の人気作家、ノエル・カワード(中央)の粋な姿も描かれる。実在のカワードは劇作家・脚本家・俳優・演出家、作詞作曲家など、多彩な才能の持ち主で、デイヴィッド・リーン監督とも組んでいた。
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「実はこの30年間、私はノエル・カワードに関する作品を作りたかったんですが、やっと彼を出せる作品に巡り合えました。この映画の中でノエル・カワードが生きていることにすごくスリルを感じました。冒頭では彼のオペレッタ『ビター・スイート』が上演され、クローリー家がウエストエンドでその舞台を見て、華やかな夜を過ごす。そんな場面が作りたかったんです」
――あなた自身も舞台出身の演出家ですね。ダニー・ボイル監督(『トレインスポッティング』『28年後…』)とも、かつてロイヤル・コート・シアターで一緒に仕事をしていますね。
「ボイルは本当に並外れた才能を持つ演出家です」
他界したヴァイオレット役、マギー・スミスのすばらしさ
――今回の映画を見ても、あなたは俳優を大切にする演出家に思えますが。それは舞台という俳優が重要な役割を背負った世界で育ったせいでしょうか?
「私は俳優たちとの仕事が本当に好きなんです。彼らとアンサンブルのキャストと組む時も、今回のゲスト的なポール・ジアマッティ(『ホールド・オーバーズ 置いてけぼりのホリディ』)やジョエリー・リチャードソン(『チャタレイ夫人の恋人』)との仕事も印象に残りました」
――俳優といえば、『ダウントン・アビー』ではヴァイオレット役で人気を得ていたマギー・スミスが2024年に他界しましたが、彼女との忘れがたい思い出がありますか?
「それはもう本当に多くの思い出があります。実は約30年前に『デビッド・コパーフィールド』(ディケンズ作)のテレビシリーズ(1999、BBC)でもマギーと一緒に仕事をしました。子役でダニエル・ラドクリフも出ていました。彼女は歴史的に見ても、最高の女優のひとりで、彼女がセットいるのを見ると、大きな手ごたえを感じました。1960年代から数多くのテレビや映画に出演し、『ハリー・ポッター』シリーズ(2001~11)にも出ていましたね。彼女は出演作に素晴らしいウィットと知性をもたらすことのできる稀有な女優でした」
前作で他界したヴァイオレットは肖像画として登場
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――マギー・スミスも出演していたジェームズ・アイヴォリー監督の『眺めのいい部屋』(86)は日本でも大ヒットし、英国のコスチューム物がこの頃から注目されました。こうしたアイボリー監督の作品をどう思いますか?
「彼がイスマール・マーチャント(製作者)と組んだかつてのコスチューム劇は『ダウントン・アビー』のような映画にもつながっていると思います。そして、英国内では、こうした流れがその後、しばらく続きましたが、一方、それだけが英国映画と思われたくない、という動きも出てきたんです。コスチューム劇にもそれまでと異なる感覚や斬新な物語性が求めらるようになりました。そんな中、『ダウントン・アビー』のシリーズは、クラシックな物語が骨格にありながら、脚本家ジュリアン・フェロウズによって、新しい要素が加わった作品になっていると思います」

人物たちの優雅で豪華なコスチュームも大きな魅力になっている
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――あなた自身が影響を受けた映画監督がいますか?
「ロバート・アルトマン(『ナッシュビル』『ゴスフォード・パーク』)がすごく好きです。彼は群像劇を好みますが、私自身も群像劇が好きなんです。今回の新作もアンサンブルで見せる作品ですが、役を深く理解している俳優たちとの仕事は本当に楽しかった。こうした機会は監督への贈り物だと思い、その特権的なチャンスを楽しみました。他に影響を受けた映画は……ええっと、有名な作品で、アンソニー・ホプキンスの出演作ですが…」

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――それは…『日の名残り』(1993)ですか?
「そうです! マーチャント=アイボリーのコンビ作です。実は今回の新作をどう終わらせるのか、ずうっと考えていたんです。メアリーを軸にしつつ、少し彼女の若い時代のことも考えたかった。そんな時、『日の名残り』は参考になりました。原作(カズオ・イシグロ)も、映画もどちらもすばらしいと思います」
歴史と人間を見つめる作品への興味
――今回の映画の終盤を見ていて、私はあなたが以前撮った『黄金のアデーレ 名画の帰還』を思い出しました。この映画には、ヘレン・ミレンが過去に出会った人々を追想する場面がありますが、今回のメアリーの描写にも通じる場面でしたね。
「その指摘をしたのは、あなたが初めてです。でも、実際、そうなんです」
――これまでの監督作、『マリリン 7日間の恋』や『黄金のアデーレ 名画の帰還』、そして、2本の『ダウントン・アビー』。どれも人間と歴史の関係を描いていますね。
「私は人間の物語を歴史的なことを背景にして描くことにすごく興味があるんです」
英国で行われた『ダウントン・アビー/グランドフィナーレ』のプレミアでのサイモン・カーティス監督
Photo by StillMoving.Net for Universal Pictures
――『ダウントン・アビー』のシリーズはこれで終わりますが、本当に美しい最終章を作られたと思います。
「ありがとう。これまでのシリーズの映像も使える素晴らしい機会にも恵まれたので、いろいろ考えてみました。実は10年ほど前にテレビ・シリーズのセットを訪ねたことがあります。その時は一家や召使たちが踊っている場面が撮影されていて、それが『ダウントン・アビー』シリーズの“ハート”に思え、すごく印象に残りました。そして、その感覚をもう一度、よみがえらせたくて今回の後半を作りました。このシリーズは、本当にスケールの大きな家族ドラマで、見た人がそれぞれ、お気に入りのキャラクターを見つけることもできます。だから、そういう人々に会うことをひとつの習慣として世界中の人々が楽しんだのではないかと思います」
けっして饒舌ではないが、言葉を選びつつ『ダウントン・アビー』シリーズの魅力を静かに語ってくれたサイモン・カーティス監督。彼が深い思いを込めて作り上げた最終章をぜひ多くの人に見届けてほしい。

『ダウントン・アビー/グランドフィナーレ』TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国公開中
監督 サイモン・カーティス 脚本 ジュリアン・フェローズ
プロデューサー ギャレス・ニーム、リズ・トルブリッジ プロダクションデザイン ドナル・ウッズ 衣装デザイン アンナ・メアリー・スコット・ロビンス メイク・ヘアデザイン アン・ノシュ・オールダム
出演 ヒュー・ボネヴィル エリザベス・マクガヴァン ミシェル・ドッカリー ローラ・カーマイケル ペネロープ・ウィルトン ジム・カーター フィリス・ローガン ポール・ジアマッティ ドミニク・ウエスト ジョエリー・リチャードソン他
原題:Downton Abbey: The Grand Finale
2025|イギリス|124分|カラー|シネスコ|字幕翻訳:牧野琴子|配給: ギャガ
公式サイト: https://gaga.ne.jp/downton_abbey_the_grand_finale/
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