話題のホラー・シリーズ『28年後…』。その2作目『28年後… 白骨の神殿』に主演して、あっと驚く演技を披露しているレイフ・ファインズ。最近は大ヒット作『教皇選挙』の悩める枢機卿の役で、3回目のアカデミー主演男優賞候補となった。現代の英国を代表する演技派男優のひとりでもあるが、『教皇選挙』のように安定感のある役だけではなく、『28年後… 白骨の神殿』のように謎を秘めた役も得意。レイフにインタビュー経験もある筆者が彼のキャリアをたどり直してみた。

ここまでやるか! 『28年後…白骨の神殿』の医師、ケルソン役

昨年、『28年後…』(25)が公開された人気ホラー・シリーズの第二弾『28年後… 白骨の神殿』が全米では注目を集めている。監督は前作のダニー・ボイルからニア・ダコスタに変わったが、ボイルは製作を担当し、脚本はどちらもアレックス・ガーランドが担当。

この2作を通じてひときわ目立っているのが、レイフ・ファインズ演じる医師のケルソンだろう。危険な菌の感染予防のため、全身にヨードチンキを塗り、長年、森の中でひとり暮らし。

前作では狂った男と周囲には思われていたが、主人公の少年、スパイクが会ってみると、実は人間性を失っていない哲学的な人物像であることが分かる。

スパイクの母親の病気が末期ガンで、死期が近いことが分ると、静かに安楽死の措置を行う。その弔いの後は頭蓋骨を息子のスパイクに渡し、白骨の塔で祈りを捧げる(すごく切ない場面だった)。

『28年後...』デジタル好評配信中 主人公の少年スパイクは病気の母と共にケルソンに会う。
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「メメント・モリ」(死を思え)という哲学を幼い少年に伝える屈折した人生の師。ケルソンは知的なレイフ・ファインズの演技力を得ることで深みと説得力がある人物像になっていた。

前作のケルソンは脇役だったが、今回は主役扱い。そして、危険なカルト集団、ジミーズのボス、ジミー(ジャック・オコンネル)とケルソンとの心理戦が後半の見せ場となる。

ケルソンのいる世界には凶暴化するウイルスに感染した人間があふれているが、感染者となった大男サムソンの狂暴なパワーをモルヒネの力で弱め、彼の人間性を取り戻そうと試みる姿にはささやかな人類の希望も発見できる。

シリーズ前作はスパイクとケルソンのふれあいの中に人間的な感情が流れていたが、今回はサムソンとのケルソンの静かな交流が温かみを生んでいる。

画像: 2作目『28年後…白骨の神殿』で感染者となったサムソンとの交流を試みるケルソン(レイフ・ファインズ)

2作目『28年後…白骨の神殿』で感染者となったサムソンとの交流を試みるケルソン(レイフ・ファインズ)

孤高の世界に生き、感染者の生態を研究し、スパイクやサムソンに希望を託す。そんな風変わりの医師の役が、本当にレイフ・ファインズにぴったり。

音楽を楽しむ時はアナログのレコード盤に針を落とし、デュラン・デュランやレディオヘッドなどを聞いている。

後半では、彼を悪魔の化身と信じる悪役ジミーのために、顔を白塗りにして“悪魔の舞”を披露。そこで流れるのがアイアン・メイデンのヘビメタ。

『28年後… 白骨の神殿』でアイアン・メイデンのヘビメタに乗せてケルソンは”悪魔の舞”を披露する

レイフ自身は知的で静かなイメージがあるので、レディオヘッドの内省的な曲は彼の雰囲気に合っているが、そんな彼が狂暴なヘビメタで踊る場面にはびっくり。

これがもう、どこまでも、ふりきった演技で…(ここまでやるのか!)。

彼は『ハリー・ポッター』シリーズ(出演は05~11)の白塗りの悪役、ヴォルデモートも怪演していたので、こういう役にも抵抗がないようだ。孤独な変人で、ヨードチンキでいつも全身を赤く塗っているので確かに悪魔にも見える。

こういう役は一歩間違えると、安っぽいマッド・ドクターにもなりかねないが、レイフの怪演のおかげで、映画に厚みを与える人物像になっている。

90年代『シンドラーのリスト』の悪役で認められる

レイフ自身は、英国の名門、王立演劇学校を卒業後、ロイヤル・シェイクスピアなどの舞台で演技力を磨いた演劇エリート。エミリー・ブロンテの名作小説の映画化『嵐が丘』(1992)で暗い影を背負ったヒースクリフを演じて映画界でのキャリアをスタートさせた。

キャッシー役はフランスの女優、ジュリエット・ビノシュ。幼い頃から一緒に育つが、孤児のヒースクリフは屈折した性格。ふたりの恋もすんなりとはいかない。

海外の記事によると、監督のスティーヴン・スピルバーグはこの映画のヒースクリフは「野生児がそのまま大人になったような人物」に見えたそうで、そこが気に入り、彼を『シンドラーのリスト』(1993)でナチの将校役に抜擢した。

ユダヤを迫害する立場の将校でありながら、愛してはいけないユダヤ人の女性を愛してしまい、その歪んだ関係に悩む。そんな屈折した悪役ぶりは鮮烈な印象を残し、初のアカデミー賞(助演男優賞)候補となる。

『イングリッシュ・ペイシェント』で2度目のオスカー候補

その後はロバート・レッドフォード監督の『クイズ・ショウ』(1994)のような話題作にも主演。クイズ番組でスターになるが、やがては八百長にも手を染めて失脚する名門の大学教授役。

どこか矛盾や秘密を抱えた役がレイフは昔から得意で、2度目のアカデミー賞候補となった『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)では、アフリカで人妻と不倫の関係になり、不幸な運命をたどる男の役。

事故のせいで、全身にやけどを負い、包帯だらけの体で、かつての甘美なロマンスの思い出を看護婦に話す(『嵐が丘』で共演のビノシュと2度目の共演)。ぴかぴかのイケメンだったはずが、恋を回想する彼は全身に火傷を負っている。そのギャップにインパクトがあった。

取材中に語った「天使と悪魔」の顔

私がレイフに取材したのは1999年の秋。彼が製作も担当し、姉のマーサ・ファインズが監督の悲恋映画『オネーギンの恋文』(1999)で来日した時のこと。

この映画でも屈折した恋愛が描かれていたが、「あなたは悪魔と天使が合体したような役が得意な気がします。そのふたつの間で揺れる役が似合いますね」といったら、笑い出し、「そういう役にひかれるんですよ」と言っていた(当時の音声を聞き直してみたが、照れつつも大声で笑っている。ツボの質問だったのだろう)。

少し前に見た『オスカーとルシンダ』(1997)という映画の話をして、「この映画の主人公は牧師なのに、ギャンブルが大好きという設定です。こういう自身の内側に煩悩をかかえたり、矛盾があるキャラクターにひかれるんですね」と切り出したら、こんな答えが返ってきた。

『28年後… 白骨の神殿』のカルト集団のリーダー、ジミー(右・ジャック・オコンネル)はケルソン(左)を悪魔の父と信じ込む。ケルソンはレイフ・ファインズの複雑な感情表現が生きる役。

「俳優業は肉体や感情を使う仕事で、頭脳を使いつつ、本能的な部分も刺激されるんです。そして、物語こそが観客をひきつけるわけですが、いくつかのアイデアが集まって物語が生まれ、それぞれのアイデアは人物の抱える矛盾した感情を通じて生まれいくのではないかと思います」

矛盾の中に物語や人物像が浮かび上がる。そう考えるレイフは、前述の『嵐が丘』、『シンドラーのリスト』、『クイズ・ショウ』、『オスカーとルシンダ』はもちろんのこと、殺人犯役の『レッド・ドラゴン』(02)や精神が分裂した役の『スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする』(02)、謎めいたホテルの支配人役の『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)、近年の『28年後...』シリーズまで、人間の複雑な感情を見事に演じてきた。

話題作『教皇選挙』の枢機卿役で、3度めのオスカー候補

近年の代表作となったのは、日本でも大ヒットした『教皇選挙』(24)の枢機卿の役だ。この作品で28年ぶりにレイフはオスカー候補となった。

画像: バチカンが舞台の社会派ミステリー『教皇選挙』。レイフ・ファインズは3度目のアカデミー賞候補となった。 © 2024 Conclave Distribution, LLC.

バチカンが舞台の社会派ミステリー『教皇選挙』。レイフ・ファインズは3度目のアカデミー賞候補となった。
© 2024 Conclave Distribution, LLC.

劇中の彼は良心的な枢機卿の役で、次のローマ法王を選出する緊迫したバチカンの礼拝堂の中で、観客を映画の世界へ導く人物像を演じている。

ただ、キャラクターはまっすぐだが、彼のいる世界は混沌に満ちていて、どこか謎めき、迷路のような空間だ。

こういう世界をさまよう役も、レイフの得意なパターンで、かつては『ナイロビの蜂』(05)で妻の死の謎を追求する役を演じた。また、「007」シリーズ(出演は12~21)ではボンドの上司のM役も演じている。

自身の中に謎や矛盾を抱えるか、謎や矛盾があふれた世界に巻き込まれてしまうか。とにかく、先が読めない世界に身を置く役が得意で、矛盾した感情や葛藤がそこに浮かび上がる。

画像: 『教皇選挙』は閉ざされたシスティーナ礼拝堂が舞台。右は選挙を進める枢機卿役のレイフ・ファインズ。 © 2024 Conclave Distribution, LLC.

『教皇選挙』は閉ざされたシスティーナ礼拝堂が舞台。右は選挙を進める枢機卿役のレイフ・ファインズ。
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『教皇選挙』はドロドロした野心と出世欲が渦巻く中で、最後は誰がローマ法王になるのか、最後までハラハラさせられる作品で、『裏切りのサーカス』(11)の脚本家、ピーター・ストローハンの手腕が光った(この脚色でアカデミー脚色賞も受賞)。

観客が感情移入できる語り部として、レイフは温かく、落ちついた味わいを見せていた。

画像: 今後への期待を抱かせる『28年後…』シリーズ。製作総指揮はかつて『28日後…』に主演したキリアン・マーフィー。

今後への期待を抱かせる『28年後…』シリーズ。製作総指揮はかつて『28日後…』に主演したキリアン・マーフィー。

一方、『28年後…』、『28年後… 白骨の神殿』では怪しい外見の持ち主ながら、世界の果てで、最後まで人間の尊厳を守ろうとする役。

今回の2作や『教皇選挙』を見ていると、善良な役も、怪しい役も、自然にこなし、役者として、いま、すごくいい状態にいることが分る。

私が会った時、「いつか監督作を作りたい」と言っていたが、その後、『英雄の証明』(11)や『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』(18)等の監督作を作ったことも、演技にいい影響を与えているのかもしれない。

この人がいると、映画の格が1枚上がるような安心感があるし、それでいて意外性のある役も得意だ。

信頼できるロングランナーの演技派として、今後もその歩みをやめることはないだろう。

画像: 話題作『教皇選挙』の枢機卿役で、3度めのオスカー候補

『28年後… 白骨の神殿』全国の映画館で公開中

監督 ニア・ダコスタ 製作 ダニー・ボイル 脚本 アレックス・ガーランド
製作総指揮 キリアン・マーフィー 撮影監督 ショーン・ボビット
出演 アルフィー・ウィリアムズ ジャック・オコンネル レイフ・ファインズ
2026年/アメリカ・イギリス映画/1時間49分/英語/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題:28 Years Later:The Bone Temple

画像: 『28年後… 白骨の神殿』全国の映画館で公開中

『28年後…』デジタル好評配信中

監督 ダニー・ボイル 脚本 アレックス・ガーランド 製作総指揮 キリアン・マーフィー
出演:ジョディ・カマー アーロン・テイラー=ジョンソン ジャック・オコンネル アルフィー・ウィリアムズ レイフ・ファインズ
2025年/イギリス・アメリカ映画/英語/1時間55分/原題:28 Years Later
© 2025 28 Years Later Limited. All Rights Reserved.

画像: 『28年後…』デジタル好評配信中

『教皇選挙』ブルーレイ好評発売中

価格 6600円(税込) 
発売元 株式会社キノフィルムズ/木下グループ 販売元 ハピネット・メディアマーケティング
監督 エドワード・ベルガー 脚本 ピーター・ストローハン 原作 ロバート・ハリス
出演 レイフ・ファインズ スタンリー・トゥッチ ジョン・リスゴー イザベラ・ロッセリーニ
イギリス・アメリカ映画/2時間/英語/原題:Conclave
© 2024 Conclave Distribution, LLC.

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