華やかな賞レースの裏側にある、表現者たちのリアルな想いとは? アカデミー賞作品賞にノミネートされている3作品の監督・キャスト総勢11人が、完成までの道のりとそれぞれの挑戦を語ります。最初に登場するのは、シェイクスピアの名作誕生の舞台裏を描く『ハムネット』の3人です(デジタル編集・スクリーン編集部)。
Christian Tierney for Focus Features

画像: Christian Tierney for Focus Features

Christian Tierney for Focus Features

第98回アカデミー賞8部門ノミネート

作品賞、監督賞、主演女優賞(ジェシー・バックリー)、脚色賞、衣装デザイン賞、作曲賞、美術賞、キャスティング賞

ジェシー・バックリー
呼吸するための酸素を求めるように原作を夜通し読み続けたんです

ポール・メスカル
いかに芸術が生まれるのか、この映画は説明してくれると思います

クロエ・ジャオ
観客には登場人物の中に自分自身を重ね合わせてほしいです

──『ハムネット』を監督した理由として「まるで物語が私を選ぶように人生に現れた」とおっしゃっていましたが、原作のどのような点に惹かれたのでしょうか。

クロエ・ジャオ「原作を読んでいる最中、強い没入感がありました。とても直感的な体験であり、詩的な体験でした。まるで詩を読んでいるようで、まさに私が愛する映画的な言語です。読んでいると、映画監督として、あるリズムで映像が積み重なっていくのが見えました。この本には、映画監督としての私の鼓動と同じリズムがあると感じ、ストーリーも気に入りました。私は常に、極めて具体的でありながら普遍的な物語を探し求めていますが、この本はまさにそれです。この物語は死や無常や悲しみに触れながら、創造性と想像力の働きが、人生で経験する避けられない苦しみにどのような意味を与えることができるかについても語っているので、とても興奮しました。こういう原作があれば、もう最高です」

── 劇作家のシェイクスピアと妻アグネスの関係を、非常に興味深いアングルから探る内容が素晴らしいですが、あなたの演じるアグネスの魅力とは?

ジェシー・バックリー「アグネスは自分自身のアイデンティティと肉体に深いつながりを感じている女性で、そこに一切妥協しない点が魅力だと思います。逆にそのせいで社会から仲間外れのように扱われているのも事実。彼女がシェイクスピアと出会うことで、ありのままの自分を受け入れる存在ができて、二人は人間としての可能性を果てしなく開花させていく。そんな彼女をカップルの一人として演じることができたのは、やりがいのあること、パワフルな体験だったと思います。アグネスは足が地にしっかりとついていると同時に、目は地平線に向いているんです。生命と死の現実、未知の可能性を両方理解できていて、その間を行き来できるような人間。そんな心が開けている女性である彼女を演じるのは心臓がどきどきし汗が湧くような体験でした。彼女のことがとにかく大好きになりました」

── 脚本を読む前に原作を読む機会はありましたか?

ジェシー・バックリー「原作を読んだのは、クロエ・ジャオ監督と本作についてのミーティングをした後のことで、役を引き受けるからには原作をまず読まなければと思いました。読んでとても感動しました。読み始めたら止まらなくて、夜通し読み続けたんです。呼吸するための酸素を求めるように…」

── ウィリアム・シェイクスピアと言えばイギリス人で最も有名な人と言えるほどで、それにもかかわらず実像はほとんど何も知られていない。そんな人物を演じた感想は?

ポール・メスカル「事実が知られていないから何もかもが想定なのです。どんな人物だったんだろう、と想像しただけ。それだけに、いったん演じるとなったら、そういった想像を信じるなんてできませんし、演じるうえで助けになりません。だからこそ、脚本だけを信じて演じることに決めました。ジェシーとクロエの助けを借りて役づくりをしました。あと役に立ったのはシェイクスピアの執筆した作品、戯曲ですね。どれも非常に異なっていて個性的で、読んでいると、この男の頭の中にはとんでもない会話が常に飛び交っていたんだろうなとつくづく痛感しました。彼が生み出したキャラクターすべては、彼が理解できるような類の人物だろうし、それはたぶん自分だったりアグネスのような身近な存在だったんだろうと。ただ性別は変えている場合もあるだろうな…と想像したり、それが僕なりに理解したことです。演技する上で意図したことは、これがシェイクスピアの視点であり、彼の意味する人間性であるのだ、という点でしょう。それは素敵なほどロマンティックで時には残酷でもある。多くの死や荒廃、絶望や愛やロマンスが渦巻いている世界です。この世界に『ハムレット』という戯曲が存在することに感謝しています。彼の残した遺産を、僕らがこうやって発掘できることのすばらしさ。いかに芸術が生まれるのか、という問いかけに対し、この映画は説明してくれると思います。彼のような偉業をなしとげることは、それほど簡単なことではない、常に代償が伴うのだとも教えてくれると思います」

── シェイクスピアを演じるにあたり、彼のゆかりの地を訪ねましたか?

ポール・メスカル「はい。ストラトフォード・アポン・エイヴォンに行って、歩いて回るシェイクスピアゆかりの地ツアーに参加しました。アグネスの家からシェイクスピアの家まで歩いてみました。更に巡礼の意味もこめて、シェイクスピアのお墓参りもしました。そして信仰心があまりない僕が、神に祈ったんです、どうかシェイクスピアのスピリットを与えてくださいと。とても特別なところでした。あそこで彼らは出会い、恋に落ち、家族として生活していたのですから」

── この作品を観客にどのように受け取ってもらいたいですか。

クロエ・ジャオ「観客には、登場人物の中に自分自身を重ね合わせてほしいです。観客の心を開き、解きほぐして、登場人物たちの感情を一緒に感じてもらえるようにしたいんです。私たちやキャラクターと一緒に観客が波に乗れば、カタルシスを経験できる。それが常に私の映画創作の目標です。カタルシスを経験すれば、登場人物たちと同じように、困難な人生の状況に意味を見いだせる。映画を観るという体験を通して、より自分自身に充足感を持てるといいと思っています」

『ハムネット』

2020 年に発表され、英女性小説賞・全米批評家協会賞を受賞したマギー・オファーレル著の小説「ハムネット」を『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督が実写映画化。第50回トロント国際映画祭にて観客賞(最高賞)を受賞した。

不朽の名戯曲「ハムレット」がどのように誕生したか、その裏側にあるシェイクスピア夫妻の知られざる愛と喪失を描く。アグネス・シェイクスピアを演じるのは『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のジェシー・バックリー、ウィリアム・シェイクスピア役には『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のポール・メスカル。

画像: アカデミー賞候補作はいかにして生まれたか 栄光の最前線に立つ“主役たち”11人の証言(1)『ハムネット』

『ハムネット』
4月10日(金)公開
監督:クロエ・ジャオ
出演:ジェシー・バックリー、ポール・メスカル、ジョー・アルウィン、エミリー・ワトソン
配給:パルコ ユニバーサル映画

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