第98回アカデミー賞®9部⾨ノミネート
作品賞、監督賞(ジョシュ・サフディ)、主演男優賞(ティモシー・シャラメ)、脚本賞、撮影賞、編集賞、美術賞、キャスティング賞、衣装デザイン賞
「等身大」を突き抜けたヌルさ無縁の主人公像

どこまで主人公に共感できるか? それが映画を楽しむためのひとつのポイントなのは間違いない。では、多くの人にとって等身大のキャラが理想的かといえば、そんなこともない。主人公の行動や言葉が真っ当すぎると、逆に“ヌルい”映画と感じる人も増えるからだ。この『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、そんなヌルさとは無縁! すでに観た人は、主人公マーティ・マウザーの、あまりに自己チューで無鉄砲な性格、そして自分の目標を達成するためにはルールもモラルもまったく無視という行動力に、呆気にとられながらも魅了されたのでは? そんな不思議なマジックが、本作には働いている。
マーティの“許しがたい行動”は列挙したら止まらない。仕事場の靴屋の金庫から大金をせしめ、卓球大会では勝手に高級ホテルのスイートルームに宿泊。恋人(しかも別の男の妻!)の妊娠が発覚したら、自分の子じゃないとごまかす。極め付けは、スポーツマンシップが試される国際試合で、自分が負けた際に、相手のラケットに不正があったとの言いがかり。これって、まるでワガママな子供じゃないか!? 最初はイラッとくるかもしれないこれらの行動や態度も、マーティの性格を素直に受け止められれば、むしろ「次は何をしでかすか」と期待が膨らんでしまう。
宿敵エンドウとの再戦とカタルシス満載のクライマックス
前半のロンドンの大会で、対戦相手の日本人選手エンドウに対するマーティのブチギレは、終盤での2人の再戦でも繰り返される。しかしこの時のマーティのクレームは真っ当なもの。それまでアンチヒーローだった彼が、カッコいいヒーローに少しだけシフトし、しかも宿敵との卓球の決着で異常レベルのカタルシスが届けられる。「映画らしいクライマックス」として最高の流れが完成されたのだ。
そのラストの卓球決戦は、東京・上野の恩賜公園野外ステージで撮影が行われた。このステージは周囲が木々に囲まれ、大がかりなロケにも最適だったはずだが、はたしてこのシーンのためだけに日本ロケを行う必要があったのか? しかし映像を観れば、垂れ幕やポスター、エキストラの人たちの髪型や衣装によって「日本で撮られた意味」を実感。1950年代とはいえ、日本の雰囲気がしっかり再現されたのは、現地ロケならではの効果。その他にもエンドウ選手が日本に凱旋した際のモノクロのニュース映像や、アメリカのシーンで卓球のラケットと一緒に机に置かれた日本の広告(胃腸薬のビオフェルミン)など、日本人が観てもまったく違和感のないディテールに感心させられる。
映画ファンを唸らせる豪華すぎる「隠し味」のキャスティング
前半のロンドンでの世界大会で、審判の声を任されたのはロバート・パティンソン(ジョシュと弟のベニー・サフディが監督した『グッド・タイム』で主演)で、マーティに愛犬を連れ去られる老人役が、インディーズ映画の鬼才として知られるアベル・フェラーラ監督だったりと、キャスティングの隠し味も本作の魅力。グウィネス・パルトロー演じる大物女優がNYで新たに挑む舞台のシーンでは、演出家役がアメリカ演劇界の重鎮、デヴィッド・マメット(映画では『アンタッチャブル』などの脚本を手がけた)で、マーティにダメ出しされる共演者役が『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』などで大躍進中のフレッド・ヘッキンジャーだったりと、1回観ただけで気づきづらいチラ見せのゲスト出演は、ぜひ2回目鑑賞のお楽しみに!
この『マーティ・シュプリーム』、上映時間が149分と長めで、物語からしたらもっとコンパクトにできた気もする。しかしひとつひとつのエピソードが面白いので、まったく飽きさせない。ジョシュ・サフディ監督は、各シークエンスをオチまで描かず、編集で豪快にぶった切ったりもするが、それによって次々と新たな事態が起こるテンポの良さが生まれた。じつは計算して、観ているこちらの心を掴んでいるわけで、そんなサフディの自由な演出の下、ティモシー・シャラメが文字どおり“暴走”しながら、生き生きとマーティに同化する。その光景を観ているだけで幸せな気分になってしまうのだ。
公開中
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
監督:ジョシュ・サフディ
出演:ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロウ、オデッサ・アザイオン、ケビン・オレアリー、 タイラー・オコンマ、アベル・フェラーラ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

