キリアン・マーフィーが原作に惚れ込み、自ら製作・主演を務めた意欲作がついに公開。 静かな決断の行方に迫るとともに、彼がこの物語に込めた想いをインタビューから紐解きます。(文・デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:『決断するとき』より © 2024 ARTISTS EQUITY. ALL RIGHTS RESERVED.

イントロダクション

第96回アカデミー賞主演男優賞に輝いた『オッペンハイマー』の後、キリアン・マーフィーが次なる挑戦として選んだ意欲作。原作は『コット、はじまりの夏』の原作者としても知られる、クレア・キーガンのベストセラー小説「ほんのささやかなこと」。この物語に深く惚れ込んだマーフィーは、自ら映画化を熱望し、『オッペンハイマー』の撮影中にマット・デイモンへ企画を持ちかけ、ベン・アフレックも製作に参加。さらに「ピーキー・ブラインダーズ」(S3)のティム・ミーランツを監督に迎え、マーフィー自身も初めてプロデューサーとして名を連ね、キャスティングにも参加している。

アイルランドに実在した“マグダレン洗濯所”の闇を背景に、マーフィーが演じるのは石炭商として働く一家の父。修道院で目にした惨状を前に、「一人の市民としてどう振る舞うべきか」と葛藤する姿を、深い眼差しと佇まいで体現する。セリフを削ぎ落としたからこそ際立つその静かな熱演は、観る者の良心を静かに揺さぶり、深い余韻を残していく。

共演陣には、修道院を支配する院長役でベルリン国際映画祭助演俳優賞に輝いたエミリー・ワトソンや、主人公の妻役を演じるアイリーン・ウォルシュが集結。特にウォルシュは、かつて同じ収容施設の問題を描いた映画『マグダレンの祈り』(02)にも出演しており、時を経て再びこの題材に向き合う姿は大きな意義を持つ。脚本は、1996年の舞台「Disco Pigs」以来、マーフィーと20年以上の親交がある劇作家エンダ・ウォルシュが担当している。

見て見ぬふりをすれば、今まで通りの日常が続くが…。

あらすじ

1985年、アイルランドの小さな町。炭鉱商人として家族を支えるビル・ファーロングは、クリスマスを目前に控えたある日、地元の修道院へ炭鉱を届けに訪れる。そこで彼は、凍えるような場所に身を置く一人の少女から「ここから出してほしい」と切実な願いを託される。

それをきっかけにビルは、修道院が隠し続けてきた、行き場のない女性たちが虐げられている過酷な現実に直面する。町全体を支配する「共犯的な沈黙」と、愛する家族への想い。その狭間で揺れ動きながら、彼は逃れられない問いを突きつけられる。見て見ぬふりが賢明だと理解しながらも、良心の呵責に悩むビルが、ついに下す決断とは?

逃げ場なき修道院で、踏みにじられる少女の抵抗。

一人の市民として、父として、ビルの良心が試される。

登場人物

平穏を守るか、良心に従うか。 ビルの決断を揺さぶる者たち

ビル・ファーロング(キリアン・マーフィー)
5人の娘を持つ炭鉱商人。修道院の闇に直面し、家族の平穏と自身の良心の間で激しく葛藤する。

ビル・ファーロング(キリアン・マーフィー)

シスター・メアリー(エミリー・ワトソン)
修道院の院長。慈善の仮面の下で、ビルの娘の将来を盾に沈黙を強いる、町の絶対的な権力者。

シスター・メアリー(エミリー・ワトソン)

アイリーン(アイリーン・ウォルシュ)
ビルの妻。家族を守るため、不都合な現実には目を瞑り、波風を立てずに生きることを夫に説く。

アイリーン(アイリーン・ウォルシュ)

サラ(サラ・デブリン)
修道院に収容されている少女。過酷な環境から自分を救い出してほしいとビルに切実に懇願する。

サラ(サラ・デブリン)

決断するとき』の背景にある
マグダレン洗濯所(Magdalene Laundries)とは

19世紀から20世紀後半までアイルランドに存在した、カトリック修道会運営の女性収容施設。「更生」や「慈善」を名目に、未婚の妊婦や社会から「素行が悪い」と見なされた女性たちを収容し、洗濯作業などの過酷な無償労働を強いた。

施設名の「マグダレン」は、聖書に登場するマグダラのマリアに由来し、女性に一方的な「罪」を背負わせる当時の宗教的価値観を反映している。

収容者に外出や通信の自由はなく、本名の使用を禁じられることもあった。こうした厳しい規律と虐待に近い管理下で、生涯をこの場所で終えた女性も少なくなかった。

長らく社会の「沈黙」によって黙認されてきたが、1990年代に実態が表面化。2013年にはアイルランド政府が公式に謝罪を行った。現在は、国家と宗教が招いた人権侵害の歴史問題として記憶されている。

キリアン・マーフィー インタビュー

「この物語は、映画が終わった“その先”から本当の物語が始まる構造なんです」

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──クレア・キーガンの小説「ほんのささやかなこと」を最初に読んだのは?

「2020年に出版されたときに読みました。衝撃を受けましたね。ただ、映画にしようと思ったのは1年後です。ティム・ミーランツと一緒にやる企画を探していた時期で、この本のことがずっと頭から離れなかった。最終的に『この小説はどう?』と言ったのは、実は妻でした。しかも奇跡的に、まだ映画化権が残っていたんです」

──マット・デイモンとベン・アフレック共同設立のArtists Equityが製作に参加していますが、『オッペンハイマー』での共演がきっかけですか?

「僕のプロデュース・パートナーであるアラン・モロニーが、マットとU2のドキュメンタリーを作っていて、そこから話がつながりました。『オッペンハイマー』の現場で、彼から会社の理念を聞いて『この脚本、きっと合うと思う』と渡したんです。彼らは映画作りを理解している人たちなので、こちらが作りたい映画を、そのまま作らせてくれました。それが本当に大きかった」

──実話に基づく物語です。なぜビルは、目を背けられなかったのでしょう?

「彼をヒーローとして演じないことには、とても気をつけました。あの行為は表面的には英雄的に見えますが、私は“神経の限界に追い込まれた男”だと思っています。理屈ではなく、身体と本能に突き動かされている。過去、社会、45年間生きてきた重みが、彼をそこへ連れて行ったんです」

──この作品は議論を呼ぶと思いますか?

「ぜひそうなってほしいですね。この物語は、映画が終わった“その先”から本当の物語が始まる構造なんです。エンドロール後に何が起きるのか、観る人それぞれが考える。楽観的な人もいれば、悲観的な人もいる。でも、観終わった後も心に残り続ける。それが好きなんです」

Profile)

1976年5月25日生まれ、アイルランド・コーク出身。『28日後...』で脚光を浴び、以後『バットマン ビギンズ』、『インセプション』などクリストファー・ノーラン監督作品に出演。『オッペンハイマー』ではアカデミー賞主演男優賞を受賞した。本作のミーランツ監督とは「ピーキー・ブラインダーズ」S3、Netflix映画『スティーヴ』に続くタッグとなる。

『決断するとき』
2026年3月20日(金)公開
2024年/アイルランド/1時間38分/アンプラグド配給
監督:ティム・ミーランツ
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ワトソン、アイリーン・ウォルシュ、サラ・デブリン、ミシェル・フェアリー、クレア・ダン、ヘレン・ビーハン

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