『ロゼッタ』『ある子供』など数々の傑作で国際的に知られるベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。そんな2人の最新作『そして彼女たちは』が現在好評公開中。本作のキャンペーン来日した兄弟にこの話題作についてインタビューを敢行!

カンヌ国際映画祭で脚本賞とエキュメニカル審査員賞をW受賞

『そして彼女たちは』
3月27日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

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 第78回カンヌ国際映画祭で脚本賞とエキュメニカル審査員賞をW受賞したベルギーの名匠ジャン=ピエールとリュック・ダルデンヌ兄弟監督最新作。若くして妊娠した女性を支援する施設で共に暮らす5人の少女たち。彼女たちには頼れる人もなく、家族に問題があったり、貧困に苦しんだりしながら、難しい育児に向き合おうとしている。孤独や絶望に呑まれそうになりながら、時に周囲のサポートを受けつつ、それぞれ自分の歩むべき道を見つけていこうとする姿を描いた希望の光を感じさせる感動作。(配給:ビターズ・エンド)

画像2: カンヌ国際映画祭で脚本賞とエキュメニカル審査員賞をW受賞

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演: バベット・ヴェルベーク、エルザ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン、リュシー・ラリュエル、サミア・イルミ
ⓒLes Films du Fleuve - Archipel 35 - The Reunion - France 2 Cinéma - Be Tv & Orange - Proximus - RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus

若い少女たちがどうやって母親になっていくか、その過程に惹かれたんです

 前作『トリとロキタ』以来、3年ぶり10回目の来日を果たした名匠ジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟。今回は最新作『そして彼女たちは』の日本公開キャンペーンと本作がクロージング上映された第33回フランス映画祭に参加するための来日で、この待望の新作についてSCREENONLINEのインタビューに応えてくれた。

 今回『そして彼女たちは』で描かれるのは、若くして妊娠した女性たちを助ける母子支援施設を舞台に、そこで共に暮らす5人の少女たちのそれぞれの問題、そして多くの困難に悩みながら自身の道を見つけ出していく姿。

──まずはこうしたテーマを描くことになった経緯を教えてください。
ジャン=ピエール「実は元々別の映画を作るつもりでしたが、その中で母子支援施設が出てくるシーンがあったんです。その取材をするために私たちの事務所の近くにあった施設を訪ねることになったんですが、そこで長時間リサーチをするうちにいろいろな人々に会うことができました。こういう施設があることは何となく知っていたんですが、詳しいことは知りませんでした。ここで支援を受けに来るのは未成年の女性がほとんどで、彼女たちから話を聞くことは禁止されていたので、カウンセラーやセンター所長、支援スタッフの方たちに少女たちの状況などを聞いたんです。そうするうちにこの施設がどのように機能しているかとか、少女たちが抱えている様々な問題と闘っていることなどを聞き、最初に書いていた脚本のことを一旦忘れ、彼女たち複数の話を組み立てるような新しい脚本を書き始めました。なぜかそうしたかと言われれば、この施設で過ごした長い時間がそうさせたんです。この場所が私たちを魅了したんだと思います」

──複数の主人公を描くスタイルはお二人の作品では初めてのように思えますが、そのスタイルに至った取材体験をもう少し話していただけますか。
リュック「先ほどもジャン=ピエールが言ったように、未成年者に直接話を聞けないので、施設で働く様々なスタッフ、20人から30人くらいに自身の体験談や利用者の話を聞きました。ただこうしたことは普通の生活をしていても耳に入ってくることもあるので、全く知らないことではありません。彼女たちは貧困に苦悩し、あるいは暴力的な環境から抜け出せないということはある程度わかっていたことです。私たちがここで惹かれたのは若い少女たちがどうやって母親になっていくか、施設の人に教えてもらいながらいかにして母親になっていくかという過程です。特に興味を持ったのは身体的な身振りですね。例えば赤ちゃんを入浴させる方法を教えてもらったり、グループになって今日は誰が食事を作って、誰が買い物に行くか決めるなど、日常がどのようにオーガナイズされているか、そうしたことは実際に施設に行って初めて知りました」

──施設の少女たちを演じる若手俳優の演技がとてもリアルで自然でしたが演出はどのように行ったのですか。
ジャン=ピエール「今回私たちは5週間かけてリハーサルを行いました。実際に撮影を行うセットの中で彼女たちと私たちで最初から終わりまで全部のシーンをやってみました。それは自由に演技ができる時間で、とても貴重な時間です。その間に彼女たちも悪い恐怖感のようなものや演技プランへの不安などを拭い去ることができる期間になります。そして特に注意するのはものを手に取ったりするような身振り、身体的な動きです。5週目になると本物の赤ちゃんたちが来て実際に演技をするところから雰囲気が変わってきます。赤ちゃんが突発的に何かしたら彼女たちが瞬時にそれに対応することにしていました。そこで真の演技のリズムが生まれてきます。そして何よりも彼女たちが私たちを信頼してくれることが大事なんです。プロもアマチュアも関係なく、オーディションで選ばれた才能ある人が私たちを信頼して、こちらも彼らを信頼すれば大体うまくいくんです」

画像1: 若い少女たちがどうやって母親になっていくか、その過程に惹かれたんです

──少女たちも印象的ですが、赤ちゃんの捉え方も自然で、ある意味客観的ですよね。
ジャン=ピエール「赤ちゃんについては何も事前に決めることができません。注意を払ってはいましたよ。特に母親役の女性たちが赤ちゃんを実際に腕に抱いた時、よりリアル感が加わります。彼女たちは腕の中の赤ちゃんの重さを実感して演技するんです。ある意味フィクションの中のドキュメンタリーとでもいいましょうか。なので赤ちゃんと女優たちの関係は重要でした。緊張感のあるシーンの撮影で赤ん坊はそれを感じているような場面もありました。映画の中である少女が娘を車に乗せる時、娘が笑うシーンは奇跡的でしたね。撮影前にあの赤ん坊は寝ていたので起きるのを待って、栄養を取ってしばらくしてからカメラを回したんですが、素晴らしいシーンが撮れました。なぜあの時赤ん坊が笑ったのか私たちもわからないんですが、推測すると、あの撮影はあの子にとって最後の日だったので喜んでいたのか? 母親役の女優が好きだったのでそれで笑ったのか? 車に乗るのが好きでどこかに行けると思ったのか?まあ私たちとしては赤ん坊がよそ見せず母親役の女優の目を見てくれればOKを出すつもりでした」

──少女たちの家族のなかには訳ありの母親についても描かれている例がありましたが、そのあたりにはどのような思いがあったのですか。
リュック「この施設に来る女性のうち10人に9人は自分の母親と同じことを繰り返しているような状態でした。殴られて育った娘はやはり自分も子供を殴ってしまったり。実際に60年も勤めているベテランの心理カウンセラーから聞いた話では、5世代にもわたって負の連鎖が続くという例もあったそうです。家庭がある意味で牢獄のような環境で育つんです。それを断ち切るために、たとえばこの映画のなかのアリアンヌは自分と母親と子供を切り離そうという重い決意をするんです。あるいはジェシカは自分で子供を育てていこうとしますが、彼女の母はやはり若いころジェシカを産んでこのような施設に娘を残していきました。その母親が若かった時は、まだ未婚の母は世間が認めてくれず、地域によっては売春婦扱いを受けるような時代だったんですね」

──この映画が描く問題はベルギーだけでなく日本でもありうる話で、国を問わず重要なテーマだと思いますが、日本の観客にどのように見てほしいですか。
リュック「私たちには特別なメッセージがあるわけではないんですが、この5人の少女たちに興味を持って見てほしいということですね。如何にして彼女たちが今置かれている環境から抜け出すのか、その抜け出す方法もそれぞれが違います。ある場合は自分を捨てた本当の母親を見つけ出し、気遣うような声をかけてもらうことが彼女にとって大きな救いになります。他にも姉と暮らすことにした者や、子供を里親に出して自分は学業に復帰する者、子供を育てながら自分の仕事を見つける者、パートナーとアパートを探し、子供と3人で生きようとする者とそれぞれの解決法を見つけていきます。若い人だけでなくすべての年齢層の観客に、少女たちが悪い環境を断ち切って生きていこうとする姿を見て一緒に祝福してほしいと思います」

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 ちなみに本作のプロデュ―サーに同じベルギーの若き才人ルーカス・ドン監督(『CLOSE/クロース』)が名を連ねているが、その馴れ初めを2人に聞くと「実は私たちの会社の代表と、ルーカスの兄弟が経営する会社と話し合って決まったということで、実際にルーカスと会ったことはないんです。もちろん彼の映画には敬意を持っていますが」と明かしてくれた。また本作には『トリとロキタ』のロキタを演じたジョエリー・ムブンドゥも登場するので、前作と全く違う姿の彼女を探してほしい。

インタビュー・文/米崎明宏  撮影/久保田司

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