ハリウッドサインを臨むネットフリックス社のLAスタジオ
パラマウント社のロゴがマークの給水塔
パラマウントがこだわった
ワーナー買収の裏にあった事情とは
SCREEN本誌2026年3月号で、大手配信会社ネットフリックスによるワーナー・ブラザース・ディスカバリー(以下WBD)買収のニュースをレポートしたが、その後、ネットフリックスに代わりパラマウント・スカイダンス(以下パラマウント)がWBD買収契約を勝ち取る展開となった続報をお伝えしよう。
2025年12月、ネットフリックスはWBDと買収契約を交わし、2026年2月3日には同買収に関してアメリカ合衆国上院の独占禁止法・競争政策・消費者権利司法省委員会がネットフリックスCEOのテッド・サランドスを問いただす聴聞会も開かれた。一方、パラマウントはネットフリックスと競って何度も買収をオファー。最終的にはネットフリックスよりも250億ドル以上高額のオファーを提示したが、敵対的買収だったこともあって、WBDの取締役会から拒絶されていた。
しかし、WBD側も投資家たちからプレッシャーをかけられ、2月17日にパラマウントとの買収交渉を再開。同月24日、WBDはパラマウントから新たなオファーが提示されたと発表。26日には、そのオファー額が1110億ドルだったこと、ネットフリックスが「パラマウントのオファーを超える額の買収ではもはや財政上の魅力は無い」と判断して買収を辞退する決定を下したことが報じられ、パラマウントによるWBD買収が成立した。
ネットフリックスとWBDの間には12月に交わした契約があったため、パラマウントはネットフリックスに対して28億ドルの違約金を支払わねばならない義務も生じたのだが、そこまでしてパラマウントがWBD買収にこだわった戦略には、近年の映像エンターテイメント・ビジネスならではの背景がある。
ホワイトハウスに呼び出されたネットフリックスのCEOテッド・サランドス
倍増が見込める製作力、膨大なライブラリー、
さらに配信面でも集客力が増す
まず、大手映画会社、パラマウントとワーナーの映画・TV番組製作力と世界的な配給網がつながることによって、20世紀フォックスを買収したディズニーと同様か、それ以上の市場力を獲得することができる。2025年のアメリカ及びカナダでの興行収入に基づいた市場シェアを見てみると、2019年に20世紀フォックスを買収したディズニーがトップで27.5%、次点はワーナーで21%。パラマウントは僅か6%で最下位に就いているが、ワーナーのシェアを手に入れることによって1位のディズニーと並ぶパワーを獲得することができる計算になる。
倍増するのは製作力だけではない。ワーナー・ブラザースはサイレント映画時代から映画製作を続けてきた老舗スタジオゆえ、膨大な量のフィルム・ライブラリーを所蔵する。映画では『カサブランカ』や『ブレードランナー』、『マトリックス』といった過去の名作・人気作や、DCユニバース作品や「ハリー・ポッター」シリーズといった近年のヒット・フランチャイズ作品、TVではHBO製作の「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」や「ゲーム・オブ・スローンズ」といった名作ドラマから成るIP(Intellectual Property=知的財産)も手中に収められる。
こうして倍増したコンテンツの配信も、それまでのパラマウント+に加えてHBOの受信視聴者たちも取り込めることになり、配信面でのビジネスも大きな飛躍が見込める。また、パラマウントは、WBDを包括的に買収する契約を交わしているため、WBD傘下のニュースネットワーク局、CNNも獲得。パラマウント傘下のCBS(米国三大ネットワーク局の1つ)に加えてニュースの発信源も増える。特にCNNは日本も含む200以上の国と地域で視聴可能なので、その影響力は海外にまで及ぶことになる。
映画・TV製作の強化、所有コンテンツの増強、配信・報道の拡大と、パラマウントは、WBD買収によって巨大メディア企業の構築を図っていくことは間違いないが、同時に2社を合併することによって、運営費の削減も達成できるとも言われている。

ワーナー製作の往年の名作『カサブランカ』のポスター

「マトリックス」や「ハリー・ポッター」シリーズもワーナーの製作作品
噂されるデメリット面、
政治的な面で危惧されることも…?
もちろん、WBD買収にはマイナス面や難題もある。最大のデメリットは、WBDが抱える800億ドルという巨額の負債を引き継ぐ結果になることだろう。パラマウントがネットフリックスの買収条件を凌ぐ条件を出し、ネットフリックスが交渉から手を引いた際の声明文には「この取引は適正価格なら成立が嬉しいものではあるが、いくら出しても良いような取引ではない」と述べられており、WBD買収の財政上のメリットには限界があることを示している。(ちなみに、この買収契約が何らかの理由で頓挫した場合、パラマウントはWBDに対して70億ドルのキャンセル料を支払う義務があるとのこと。)
パラマウントによるWBD買収が直面することになりそうな難題では他に、カリフォルニア州司法長官、ロボ・ボンタが中心となった独占禁止法違反審査がある。ネットフリックスがWBD買収契約を交わした際に合衆国上院による聴聞会が開かれた事は前述したが、“親トランプ政権”だとされているパラマウントに対しては、共和党優勢の上院や合衆国司法省は厳しい審査を行わないのではないかと言われている。
それに対し「待った」をかけようとしているのが、民主党派のボンタである。パラマウントの本社はカリフォルニア州ロサンゼルスに在るが、WBDの本社はニューヨーク州ニューヨーク・シティに在るため、ボンタはニューヨーク州の司法長官、レティシア・ジェームズと連携を取りながら、この買収契約が独占禁止法違反に該当しないかどうか、審査を試みるだろうと、2026年3月20日付でニュース・メディアのポリティコが報じている。
前記のポリティコの記事は「競争相手であるパラマウント・スカイダンスが約1100億ドルでの買収に合意したメディア・エンターテイメント複合企業、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの一部の従業員たちにとって、ロブ・ボンタは単なるカリフォルニア州司法長官ではない。彼こそが最後の防衛線なのである」と始まっているが、重複する運営部門の削減に伴う従業員のリストラは必至だとみなされている。
言うまでもなく、パラマウントによるWBD買収の影響はそれに留まらず、大手映画会社2社の合併によって製作される映画の多様性が失われる可能性も指摘されている。特に、巨大化したメディア複合企業の下では、大人の観客をターゲットにした中規模予算の作品や、オリジナル脚本に基づいた作品などの製作本数が減り、手堅く“商売”できるとみなされているシリーズ物や、コミック、ビデオゲームなどの他媒体からの翻案物の大作の製作が増える傾向が加速するのではないかという声もある。
配信業の方でも、パラマウント+とHBO Maxの合併によって、Huluを取り込んだディズニー+や先駆者のネットフリックスを交えた配信競争が激化すると予想されている一方で、配信の統一が進むことによって配信料の値上げも見込まれており、消費者側としては、単価の安い配信サービスを複数視聴する代わりに高額な“配信チャンネル・セット”一択を迫られることになりかねない。
一方、TVビジネスでは、トランプ大統領から敵視されているCNNが、トランプ政権を揶揄した司会者のトークショーをキャンセルしたCBSのように、同政権に“忖度”して自立性を失うのではないかと危惧されている。
ハリウッド黄金時代に「ビッグ5」と呼ばれていたパラマウント、ワーナー、20世紀フォックス、MGM、RKO、「リトル3」と呼ばれていたユニバーサル、コロンビア、ユナイテッド・アーティスツのいずれも、消滅あるいは統合されたり他業種会社が所有している。2019年のディズニーによる20世紀フォックス買収に続く、パラマウントによるWBD買収で、ハリウッドのメディア企業の巨大化は今後いっそう進むのかもしれない。

『罪人たち』のプレミアに出席したワーナーのCEOデヴィッド・ザスラフ(右)
ラスベガスでイベントに出席したパラマウントのCEOデヴィッド・エリソン(左はマイルズ・テラー)
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