1960年代のアイコンをテーマにした2本目の作品
ドキュメンタリー『ツイッギー』は女優のサディ・フロストのドキュメンタリー映画である。彼女はかつてフランシス・コッポラ監督の『ドラキュラ』(1992)にも出演して、ウィノナ・ライダー扮する主人公の友人役を演じた。また、『ショッピング』(1993)ではジュード・ロウと共演し、私生活では彼と結婚。ふたりの子供も生まれている(その後、離婚)。
子供の頃から芸能界にいて、モデルや女優として活動後、『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』(2021)で監督デビュー。『ツイッギー』は監督2作目となっている。フロストは気さくな口調でこの新作のことを話し始めた。
「今回の映画はイギリスでは成功し、ヨーロッパの他の国でもいい反応でした。観客の年齢層も幅広かったんです。長いキャリアを歩み、素晴らしいカルチャーを作り上げた女性の記録として受け入れられたようです」

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1960年代に16歳でモデルとなり、世界中がツィッギーの新鮮な魅力に恋をした。
前作で描いたデザイナーのマリー・クワントは1960年代に若い女性のための機能的なファッションを作り上げ、ミニスカートの女王となった存在。一方、今回の映画で描いたツイッギーも、同じ時代に登場し、そのキュートで新鮮な魅力で新時代を代表するモデルとなった。この2本の監督作に関して、フロストはこう振り返る。
「ふたりのアイコン的な英国女性をこうした映画で描くことができて、本当にすばらしい経験だったと思います。ふたりは永遠に続くレガシーを作り上げた女性たちで、その時代背景も描くことができて、すごくいい勉強になりました」
子役としてキャリアをスタートさせたフロストだが、映画界で長いキャリアを積んだ後、レインダンス・フィルム・スクールで改めて映画作りについて学んだ。
「違うカテゴリーのことを勉強したくて、この素晴らしい学校に入りました。おかげで新しいキャリアに踏み出すことになりました」
今回の映画の企画はツイッギーのポッドキャストに出演したことがきっかけで始まったという。

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現在、70代を迎えたツィッギー。英国ではデイムの称号も獲得している。
「前作『マリー・クワント』の宣伝の一環でツイッギーのポッドキャストに出演しました。次はどんな映画が作りたいですか、と聞かれたので、あなたのことを描きたいです、と半ば冗談のようにいってみたら、本当にそういう流れになり、ツイッギーとランチに行き、映画化の話が本格化しました」
前作ではマリー・クワインは映画に出演していないが、今回は現在のツイッギー本人が出演している。
「クワントはツイッギーよりも年齢も上なので、本人は出演しなかったのですが、そのかわり膨大なアーカイブ映像を持っていました。ツイッギーの方は本当に活動的で、元気いっぱい。この映画に出演したいといってくれました。ツイッギーは常に変化し続けた女性です。そして、自分の娘のことを何よりも大切にしてきた人でもあります」
ツイッギーがモデルとしてデビューした頃は16歳だったが、現在の彼女は70代半ば。かつてのボーイッシュで、スレンダーなイメージは消えているが、そのかわり、とても優雅で、品のいい英国のレディになっている。今も笑顔がステキで、ポジティブに人生を生き抜いた女性の魅力が伝わる。
「現在の彼女も本当に素晴らしいと思います。今回の映画では彼女の写真、インタビュー、手紙やダイアリーなども使って物語を作り上げていきました」
ミュージカル『ボーイフレンド』で女優として認められる
16歳でモデルとして爆発的な人気を得たものの、4年で引退。1971年にはケン・ラッセル監督のポップなミュージカル映画『ボーイフレンド』で女優デビューを果たして、その歌と踊りが絶賛され、ゴールデン・グローブ賞の主演女優賞も獲得している。その後、彼女は歌手活動も始め、舞台女優となり、テレビの人気ショーも持つことになる。

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ツィッギーの女優としての転機となったケン・ラッセル監督のミュージカル『ボーイフレンド』
『ボーイフレンド』の製作時にラッセル監督は周囲の反対を押し切って、ツイッギーを起用したが、結果は大成功となった。そんな彼を”メンター”(師)として慕うツィッギーの姿も映画の中では描かれている。
「ケン・ラッセルが彼女を女優として発見して、チャンスを与えました。彼女を信じていたんです。ラッセルは彼女にとっては大切な人物だし、ふたりはいい関係を築き上げました。だから、彼への賛辞は惜しまないのでしょう。私も子供の頃、『ボーイフレンド』を見て、とても好きな作品となりました。他にも『恋する女たち』(1969)など、ラッセルには素晴らしい映画があります。彼は反逆児で、他の監督とは違う側面を持っていましたね」
こうしたラッセルに対するコメントは、長年、この監督を応援してきた筆者には本当にうれしかった。キュートなミュージカル『ボーイフレンド』は日本では現在、ソフトが発売されていないが、ぜひ、リリースを望みたい。
また、今回のツイッギーのドキュメンタリーには、ミュージシャンのポール・マッカトニーとデザイナーのステラ・マッカートニーの親子、俳優のダスティン・ホフマンなど、さまざまなゲスト・コメンテイターも出演している。
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『卒業』『クレイマー、クレイマー』などで知られる名優のダスティン・ホフマンがコメンテイターとして登場。
「私自身もいろいろな人々とコネクションがあり、一方、ツイッギーは多くの人にリスペクトされていたので、こうしたゲストの出演も実現しました。俳優のロバート・パウエル(注:ケン・ラッセル監督の『マーラー』(1994)に主演)から、女優のシエナ・ミラーまで新旧の世代が出演しています。どういうドキュメンタリーなのか、その方向性を見極めて、語ってほしいことをいってもらうことで、作品のストーリーが形作られていきました」
さらにアニメーションなども取り入れることで、広がりのある構成が実現している。特にポール・マッカトニーのビートルズ時代の曲「ブラックバード」にのせて、アニメが登場する場面は印象的だ。
「アニメをいれることで、映画の色彩、ユーモア、スタイルなどを他の場面と変えることができます。今回の映画ではアニメーターが2週間、徹夜に近い状態で作業をしてました。前作より予算もあったので、こうした場面も入れられました」
女優としての経験も生きた映画作り
これまでのフロストの女優としての活動が、監督としての映画作りにも生きているようだ。
「映画作りには、長年、かかわってきたので、そのセットにいる楽しさや心地よさも知っています。それぞれの違うプロセスも理解しています。俳優も、監督も、ストーリーを語るという役割を背負っている部分は共通しています。ストーリーテリングという表現を担っているわけです」
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2本の監督作は女性の生き方に関する意欲的なドキュメンタリーだが、”me too"運動なども経て、現在の女性の立場に関してどう考えているだろう。
「女性がここまで来るのは、すごく大変だったと思います。”me too"運動もありましたが、その前から少しづつ変わっていったと思います。今はかつてよりも良くなりましたが、映画の中で昔の記録映像も取り上げることで、かつての女性に対するひどい扱いもふり返ることができますね」
マリー・クワントやツイッギーのように社会に影響を与えた女性たちのドキュメンタリーを作ることの意義についてはこう語っていた。
「こうしたドキュメンタリーを作ることで、もう一度、彼女たちの仕事ぶりを紹介できて、本当にうれしいです。彼女たちの仕事は、えてして忘れられがちな傾向もありますが、ドキュメンタリーを作ることで、その偉業に新たな理解を深めることができます。ファンション界だけではなく、歴史やカルチャーに関しても、得るべきものが多いのではないでしょうか」
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現在、製作中なのが、ザ・フーが70年代に発表したロックの金字塔的なアルバム『四重人格』(映画版は『さらば青春の光』)をめぐるドキュメンタリーだ。この作品は2025年にバレエとしても舞台化され、本国では評判となっていた。
ザ・フーはモッズ・ファッションを代弁するバンドとしても知られていた。「ピートとの仕事は本当にすばらしいです」とフロストは言っていたが、この映画が公開されれば、きっと、英国の音楽、ファッション、風俗などに関する新たな視点が広がるだろう。
ザ・フーのファンである筆者にとっても、本当に楽しみな企画だ。2026年夏までに完成させることが目標だという。他にも女性とファッションに関する新たなドキュメンタリー、60年代のバンド、スモール・フェイセスをモデルにした劇映画など、監督予定の作品が目白押しだ。

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若い頃はモデルとして日本でも活動していたことがあったというフロストは、自身のブランド、フロスト・フレンチを成功させた実績もある。
そして、中年になってから監督業にも手を広げ、クリエイターとして新たな才能を開花させている。その歩み方は中高年になってから新たなキャリアを模索する人々にも勇気を与えるのではないだろう。
日本でも人気のあるデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドのモデルをつとめたこともあったので、「彼女のドキュメンタリーを今度は作りませんか?」と聞いてみた。
「実は親しい人間を素材にするのは、なかなか大変なんです。ヴィヴィアンの場合、彼女の家族も知り合いですからね。そういう家族にも納得してもらえる作品でないとだめだと思います」
私生活では4人の子供たちの母でもあり、家族との絆も大切にしている彼女らしい返答に思えた。よき家庭人であり、監督業に本腰を入れながら、第二の人生を歩む。それがサディ・フロストの現在形だ。

『ツイッギー』全国の劇場で公開中
監督:サディ・フロスト 製作:サイモン・ジョーンズ ニック・ハムソン 撮影:ダイアナ・オリフィロヴァ ルーカス・タックナット
出演:ツイッギー ブルック・シールズ ダスティン・ホフマン ポール・マッカートニー ステラ・マッカートニー シエナ・ミラー
2024年/イギリス/英語/97分/原題:TWIGGY/ 配給:アンプラグド
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ホームページ https://unpfilm.com/twiggy/





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