
大型連休が終わり、少しずつ日常のリズムが戻り始める5月。新しい環境や慌ただしさに慣れてきた頃だからこそ、ふと立ち止まって、自分自身の感情や価値観を見つめなおす瞬間も増えていく。そんな時期にこそ、観る者の内面を静かに揺さぶるサスペンス作品が深く響くのかもしれない。単なる刺激や恐怖だけでは終わらない、“観た後に考えが残り続ける”3作品をピックアップ。
『廃用身』は、異人坂クリニック院長・漆原(染谷将太)が提唱する「Aケア」を軸に描かれる衝撃作。高齢者の“廃用身”(麻痺などにより回復の見込みがない手足)を切断することで介護負担の軽減を目指すという医療行為を通して、観客に倫理的な問いを突きつける。劇中では、手足を失いながらも穏やかな表情を見せる高齢者たちの姿が描かれる一方、「こんな姿になるなんて思っていなかった……」と戸惑いを口にする家族の声も映し出される。何が正しく、何が誤りなのか――簡単には答えの出ないテーマを観る者に投げかける一作だ。
『未来』は、湊かなえによる同名小説を原作に映画化された話題作。複雑な家庭環境の中で生きる少女が、“未来の自分”から届いた手紙をきっかけに、閉ざしていた感情や過去と向き合っていく。希望のように思えた“未来からの言葉”は、やがて現在を揺るがす違和感へと変わり、静かな不安が観る者を包み込んでいく。優しさと残酷さが交錯する物語の中で浮かび上がる問いは、観客の心にも長く余韻を残す。
『名無し』は、俳優・脚本家としても活躍する佐藤二朗が主演・脚本を務め、『悪い夏』の城定秀夫監督が手がけるサイコバイオレンス。昼下がりのファミリーレストランで発生した不可解な事件をきっかけに、“触れただけで人を死に至らしめる男”の正体を巡る捜査が始まる。やがて浮かび上がるのは、「山田太郎」という名前に隠された過去と、説明のつかない異様な出来事。静かに忍び寄る不穏さが、観る者をじわじわと追い詰めていく。
いずれの作品も、簡単に答えを示してくれるものではない。観客それぞれに異なる余韻を残し、鑑賞後も思考を巡らせたくなる作品ばかりだ。日常が戻り始めるこの時期だからこそ、“観て終わり”ではないサスペンス映画の世界に没入してみてはいかがだろうか。
『廃用身』5月15日(金)公開
ある町のデイケア施設「異人坂クリニック」に通う高齢者たちの間で、院長・漆原(染谷将太)が提唱する“画期的な”治療法が密かに広まっていた。究極の効率化を掲げたその医療行為は、“廃用身”(麻痺などにより回復の見込みがない手足)を巡る従来の価値観を揺るがすものだった。「身体も心も軽くなった」「性格が柔らかくなった」といった声も上がり、噂を聞きつけた編集者・矢倉は、老齢期医療に変革をもたらす可能性を感じ、漆原に出版を持ちかける。しかし、ある内部告発をきっかけに事態は大きく動き始める――。
『未来』5月8日(金)公開
複雑な家庭環境で育ちながらも、祖母の期待に応え教師になる夢を叶えた真唯子。彼女の教え子・章子のもとにある日届いたのは、「20年後のわたし」からの手紙だった。半信半疑のまま返事を書くことで、父を亡くした悲しみや、心を閉ざした母との孤独な日々に耐えていた章子だが、母の新しい恋人からの暴力、壮絶ないじめ、そして信じがたい事実が彼女を容赦なく追い詰めていく。「未来のわたし」からの手紙が導くのは、希望か。それとも、さらなる絶望か――。
『名無し』5月22日(金)公開
穏やかな空気が流れる昼下がりのファミリーレストランで、突如として不可解な殺人事件が発生する。防犯カメラに映っていたのは中年男。しかし、その手に凶器は確認されておらず、相手に触れた直後に人々が倒れていくという異様な光景だけが残されていた。捜査を進める中で、男が11年前に事情聴取を受けていた「山田太郎」と同一人物であることが判明。さらに彼の自宅で発見された“ある痕跡”が、事件の背後に潜むさらなる謎を示唆していく――。
『廃用身』
2026年5月15日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:アークエンタテインメント
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