『さよなら、僕の英雄』の唯一無二の世界観はいかにして生み出されたのでしょうか。長年タッグを組み続ける気心知れた豪華キャスト陣と監督が、本作の舞台裏や役へのアプローチについて明かします。(デジタル編集・スクリーン編集部)
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トマスと映画をやると聞くと皆「参加したい!」って電話してくるんです(ニコライ・リー・コス)

──本作が6作目のタッグ作品となりますが、皆さんの協力関係や何度も一緒に仕事をし続ける理由について教えてください。

アナス・トマス・イェンセン監督「最大の理由は、彼らが素晴らしい俳優だからです。それは大前提ですね。でも同時に、これまで一緒に積み重ねてきたものがあるとも思っています。私たちはかなり極端なキャラクターを作ることが多いので、彼らをよく知っているからこそ、『この人ならここまでできる』ということを理解したうえで脚本を書ける。それがすごく大きい。もちろん、彼らが『いいヤツら』だからっていうのもありますけれど(笑)」

マッツ・ミケルセン「ええ、僕たちは間違いなく『いいヤツら』です(笑)。アナス・トマスは、デンマークで他の誰も作らないような映画を作っています。完全にカオスで包み込まれているにもかかわらず、とても詩的で美しい映画です。僕はそれが本当に素晴らしいと思うし、このチームの一員であることを心から誇りに思いますね」

ニコライ・リー・コス「僕たちが長年の友人であることはもちろんですが、一緒に仕事をするときは“全員がプロフェッショナルとしてレベルアップする”という点がとても気に入っています。気心の知れた仲間と映画を作るからといって、決して甘えはありません。完全に自分たちの演技の基準を引き上げる必要があるんです。お互いをよく知っているからこそ、無駄な気遣いを省いてストレートに意見を言い合い、そこから前へ進むことができる。デンマークの俳優たちは、トマスと映画をやると聞くと皆『参加したい!』って電話してくるんですよ。彼の作品世界って、普通は絶対に演じられないような“極端な人物”を生きられる場所だから。僕はそのことを愛しているし、誇りに思っています」

画像: 第82回ヴェネツィア国際映画祭でレッドカーペットに登場した(左から)マッツ、ソフィー、ニコライ、監督 Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

第82回ヴェネツィア国際映画祭でレッドカーペットに登場した(左から)マッツ、ソフィー、ニコライ、監督
Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

一番笑えるセリフを泣く泣くカットすることもよくあります(アナス・トマス・イェンセン監督)

──映画ではコメディとドラマのバランスが絶妙でした。笑いと感情表現をどう切り替えているのでしょう?

マッツ「コメディを演じる際、僕たちが共通して意識しているのは『コメディこそ非常に真剣に取り組まなければならない』ということです。距離を取ってはいけません。悲しいなら本気で悲しむ。怒っているなら本気で怒る。この物語の核は、“家族から抜け出したい弟”と、“家族にしがみつきたい兄”の話なんです。周囲のカオスはトマスが書いたものだけど、僕たちはそれを完全に本気で演じる。その結果として、運が良ければ観客にとって面白い瞬間が生まれるんです」

監督「少し補足させてください。私たちが作るすべての映画におけるルールがあります。それは“笑いを取ること”と“感情”のどちらかを選ぶなら、必ず感情を選ぶことです。実際、編集でいちばん面白いセリフを削ることもあります。笑いが時に感情を壊してしまうことがあるからです。だから常に、そのバランスを探っている感じですね」

監督の作品は特定のジャンルに当てはめることができません(ソフィー・グローベール)

──ソフィーさんは、監督の独特な世界に足を踏み入れてみていかがでしたか?

ソフィー・グローベール「私は25年前に『ブレイカウェイ』でトマスと仕事をして以来の参加でした。監督の作品は特定のジャンルに当てはめることができません。それに、どんなに小さな役でも、その人だけの世界や滑稽さがちゃんと存在している。だからデンマークの俳優はみんな、彼と仕事をしたがるんです。彼は男女問わず、人間を裏返して見せるような、鋭くて知的で、挑発的な視点を持っている。そこが本当に素晴らしいと思います」

──皆さんはABBA派ですか? ビートルズ派ですか?

監督「私の子ども時代は、『知的な人はビートルズを愛し、そうでない人はABBAのファンだ』みたいな議論がありました。特に北欧ではそうだったと思います。でも、それはスポーツの勝ち負けとは違います。ABBAが良いときもあれば、ビートルズが良いときもある。どちらもユニークで、私は両方大好きです」

マッツ「同じ答えですね。水が飲みたいときもあれば、コカ・コーラが飲みたいときもあるのと同じです」

“子どものまま止まってしまった人物”として役を演じたいと思いました(マッツ・ミケルセン)

──兄弟役を演じたおふたりの役へのアプローチについて教えてください。

マッツ「この強烈で不条理に満ちた世界に飛び込むためには、ふたりを繋ぐ絆という“錨(アンカー)”が必要でした。そこで、周囲には見えない形で互いの本質を理解し合っていることが伝わる視線や瞬間を、いくつか散りばめたんです。その錨さえあれば、物語の中でどれだけ暴走しても大丈夫だと思ったからです。僕のキャラクターは、この世界に居場所がなかった子どもです。味方になってくれたのは弟ただ一人でした。だから彼はどんな手段を使ってでも弟を取り戻そうとします。アプローチとしては、僕の年齢であっても、マンフレルを“5〜6歳の子どものまま止まってしまった人物”として演じたいと思いました。子どもの頃から、弟はずっと兄を守る役を押しつけられていました。大人になった今も、兄は弟にまだその状況に置かれたままでいてほしいと思っているんです。だから僕の振る舞いは子どものようなのです。常に弟の存在と結びつけながら役を構築していきました」

ニコライ「僕は『その状況に存在したくない』と抗っているようなキャラクターを演じるのが大好きなんです。この物語の主人公は、この状況に関わりたくないし、兄のマンフレルという足枷を引きずりたくない。すべてから解放されたいと願っています。俳優として、常に自分自身の置かれた状況と戦い続け、『ここから逃げ出したい』というエネルギーを持ち続けるというコンセプトは素晴らしいものでした。最初から、この役をどう演じるべきか非常に鮮明なビジョンが浮かんできたので、演じるのが本当に楽しかったです」

(第82回ヴェネツィア国際映画祭『さよなら、僕の英雄』記者会見より)

『さよなら、僕の英雄』
2026年6月19日(金)公開
デンマーク=スウェーデン/2025/1時間56分/配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コス、ソフィー・グローベール、ソーレン・マリン、ボディル・ヨルゲンセン、ラーシュ・ブリグマン、カルド・ラザーディ、ニコラス・ブロ、ピーター・デュリング

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