“キング・オブ・ポップ”マイケル・ジャクソンの爆発的人気を生んだモーメントの数々を、才能と努力で体現して見せたジャファー・ジャクソン&ジュリアーノ・ヴァルディ。本作がデビュー作とは思えない存在感を放つふたりは、なぜこれほどまでに観客たちを魅了するのでしょうか。(文・斉藤博昭/デジタル編集・スクリーン編集部)

きっちりと見せ切る“観たい瞬間”の数々

ここ数年、カリスマ的ミュージシャンの伝記映画が続いているなか、この『Michael/マイケル』は「多くの人が観たい瞬間の連続」、「再現度」という2点で群を抜く仕上がりとなった。それゆえにリアルタイムでその偉業に熱狂した人、および時代を経ても革新的に感じる音楽とダンスに後から夢中になった世代、そのすべてに歓迎され、世界各国での記録的ヒットにつながった。

1966年(当時8歳)の子供時代に始まり、1988年(30歳)のロンドン公演までの22年間。つまりマイケルがスーパースターの座を確立するまでを本作は描くので、「栄光への軌跡」という側面が濃厚。もちろん要所には、栄光の“影”の部分(父親との対立、整形、白斑症、チンパンジーのバブルスら動物との関係、CM撮影での重大な火傷事故など)も盛り込まれつつ、ポイントとなるのはジャクソン5時代からソロアーティストとして空前のブームを起こすまでの代表曲のパフォーマンスだ。現在も世界最高のセールスアルバムとしてギネスに認定されている「スリラー」からの3曲のシーンは、歴史的瞬間に立ち会った感覚をもたらしてくれる。その“感覚”こそ、ミュージシャン映画としての成功の要因。『ボヘミアン・ラプソディ』終盤でのライブエイドの超重量級カタルシスを、この『Michael/マイケル』は各ナンバーのシーンに分割した印象だ。つまりテンションが上がる瞬間が、あちこちに散りばめられている。

画像: きっちりと見せ切る“観たい瞬間”の数々

「今夜はビート・イット」でのストリートダンサーたちとのコラボや、「スリラー」の撮影現場の舞台裏、そしてモータウン25周年記念番組での「ビリー・ジーン」で、あのムーンウォーク初披露による観客の異様なまでの興奮……と、マイケル・ジャクソンの爆発的人気を作ったモーメントの数々を、きっちりと見せ切っただけでも本作の価値はある。

“再現度”に貢献した新星たちのパフォーマンス

その「再現度」という意味で、『Michael/マイケル』の成功に最も貢献したのはキャストの才能、および努力だろう。子供時代を演じたジュリアーノ・ヴァルディは、ジャクソン5時代のマイケルを知る人にも、あの当時の愛くるしさ、および天才的パフォーマーの原点を生き生きと体現。特にジャクソン5が大手レコード会社モータウンへの道筋を作った、1968年、シカゴのリーガル・シアターでの「さよならは言わないで」を歌うシーンは、全身のエネルギーを爆発させるジュリアーノに魅了されない人はいないだろう。

画像: “再現度”に貢献した新星たちのパフォーマンス

そのジュリアーノからバトンを受け、成長したマイケルを演じたジャファー・ジャクソンは、登場の瞬間のアップから完全に役が憑依していた。マイケルの兄ジャーメインの息子であるジャファーは、血縁とはいえそこまで叔父にそっくりでもない。ただ、かつてジャーメインが「息子のうち、ジャーマジェスティは自分の若い頃に、そしてジャファーはマイケルの若い頃に似ている」と語っていたとおり、肉親が認めるマイケル=ジャファーの微妙なシンクロが、映画での奇跡の一体感を導いていく。

マイケルとジャファーは肉体と手脚のバランスが多少違うものの、「ビート・イット」での腰を前後に動かしながら全身をスライドさせる独特の振付や、「スリラー」におけるゾンビダンスでの細部にわたる腕や脚、首の角度など、これ以上は望めないほど完璧に再現。ひとつひとつの動きのキレや、高速スピンターンなど、実際にマイケルの振付も担当したリッチ&トーン(・タラウエガ兄弟)から指導を受けたことで、当時のマイケルのテクニックと比べてもまったく見劣りしない。

俳優としての名演技も見せるジャファー・ジャクソン

ジャファーはメイクアップも駆使し、整形前/後のマイケルに寄せているが、驚くのはその「声」。6月頭に来日したジャファーは、取材時の受け答えが、映画とは違って低音の落ち着いたトーン。マイケル役を演じるにあたって、ジャファーはマイケルの声を徹底研究し、各時代に合わせた発声にトライし、それが見事に完成作に生きていた。視覚と聴覚の両方からスーパースターをスクリーンで甦らせたことになる。そして肉親のジャファーが演じたことで、多くのファンが“安心感”で本作と向き合えたのも事実。製作に深く関わったマイケル・ジャクソン・エステート(遺産管理団体)も、かつてマイケルが住んでいたエンシノの邸宅での撮影や、多くの参考資料の提出を、「ジャファーが演じるなら」と快諾したのは間違いないだろう。

『Michael/マイケル』でドラマの軸となる、父ジョーとマイケルの長年の確執は、クライマックスでひとつの決着を見せる。映画的な展開ではあるが、その決着シーンでのジャファー・ジャクソンは、マイケルの気持ちになりきりつつ、一人の俳優としての名演技も達成していた。本作が映画デビューという“初心者”のジャファーが、これから演技の道を進む覚悟の表れのようで、本作はカリスマの半生を描いただけでなく、新たなスター誕生の記念碑にもなった。製作が囁かれる続編は、すでに撮影済みの映像も使われるだろうが、マイケルの悲哀が色濃くなる時代も描かれるはずなので、追加撮影があるのならジャファーの実力がさらに試されるのではないか。

『Michael/マイケル』

公開中
監督:アントワーン・フークア
出演:ジャファー・ジャクソン、ジュリアーノ・ヴァルディ、コールマン・ドミンゴ、ニア・ロング、マイルズ・テラー
配給:キノフィルムズ
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