映像化の壁と「謎」を残すブラッシュアップ
――原作は“映像化困難”とされてきましたが、企画を提案された際に「壁」になると感じた部分はどこでしたか?
そうですね、原作は非常にモノローグ(独白)が多くて、その文字情報をいかに映像化するかという表現の仕方は一つの課題だなと思いました。
あとは時間軸ですね。すごく行ったり来たりする構造なので、いくつものエピソードが重なり合って、それが後半に向けてどう一本化していくかという構成の難しさはあると感じました。
――今回は、脚本の初稿が上がるまであえて原作を読まないというアプローチをとられたそうですね。
プロデューサーから受け取ったロングシノプシスで全体像は把握していましたが、あえて原作を読まずに脚本を待ちました。それは、原作の背景を知らない視聴者と同じ目線で、脚本の構成に対して純粋に「この先どうなるんだろう」というリアクションができると思ったからです。
全エピソードの初稿が出揃った段階で初めて原作を精読して、原作を読んでいないと伝わらない情報には説明を足したり、逆に削ったりと、バランスを見ながら1話ずつブラッシュアップを重ねていきました。

――映画と全7話のドラマシリーズでは、構成や編集の作法に違いはありましたか?
脚本段階から、脚本家の櫻井武晴さんとかなり議論をしました。映画館とは違って、配信は視聴者がいつでも視聴を止めることができますよね。だから、いかに視聴者を惹きつけ続けて、次へと引っ張っていくかという「フック」の作り方は非常に意識しました。これは自分にとっても未知の体験であり、大きな挑戦だったと言えます。
――現在は音の仕上げ作業中とのことですが、こだわりを教えてください。
映像はある程度固まっていますが、音の仕上げ作業に今はすごく時間をかけています。完成は7月頭ごろになる予定ですが、最後までこだわり抜きたいですね。
演出術:演技の「引き算」とドキュメント性
――メインの3人を演じる高橋一生さん、斎藤工さん、水上恒司さんについて、それぞれの役へのアプローチにどのような違いを感じましたか?
高橋一生さんは非常にロジカルで、全ての瞬間に意味を見出し、数学的に芝居を構築していくタイプですね。最終的には感覚的なところで芝居をしてくれますが、入り口は非常に理知的です。
対して斎藤工さんは、ロジックを構築しつつも感覚的な部分とを上手く行き来できるバランスを持っていると感じました。水上恒司くんに関しては、高橋一生さんとタイプが近くて、非常にロジカルに役を考える印象を受けましたね。
――現場でのリハーサルも入念に行われたと伺っています。
クランクイン前に2週間ほど時間を設けて、リハーサルを徹底しました。脚本を音に出して読み、セリフの違和感を削ぎ落とすことで、全員が共通言語を持てるようにしたんです。その上で、現場では感覚的な「余白」を残して芝居に臨んでもらうようにしています。

――俳優の皆さんが「演技の引き算を求められた」と語っていますが、具体的にはどのような演出をされたのでしょうか?
「引き算」と言っても、感情そのものを引くわけではありません。俳優さんは表現する際、日常以上の身振りや声量を使ってしまいがちですが、それを徹底して日常レベルのミニマムな表現に抑えてもらいました。感情が内側でしっかり作られていれば、声が小さくても視聴者には十分に伝わりますし、むしろその方が感情が溢れ出てくる瞬間があると思います。
――高橋一生さん演じる相馬の、前髪を上げたヘアデザインも印象的です。
ヘアメイクデザインの宮田さんのアイデアですね。高橋さんが髪を上げている姿は新鮮でしたし、彼の不器用なキャラクターや、組織の中で孤立している「硬さ」を表現するのに非常に適しているなと感じました。

――斎藤工さん演じる鑓水の住居など、美術へのこだわりも強いですね。
鑓水の家は、現実的でありながらどこか非現実的でもある、フィクションとノンフィクションの間に位置する空間を目指して美術部と作り上げました。この空間が、相馬と修司の間に入る鑓水の特殊な立ち位置を後押ししてくれていると思います。
――青木崇高さんらとの共演も含め、現場での「化学反応」をどう捉えていましたか?
僕はドキュメンタリー出身ということもあって、あらかじめ決めた「正解」に向かうのではなく、現場で俳優同士がぶつかり合った時に生まれる空気感や距離感を大切にしたいんです。全てのシーン、全ての役者とのやり取りに独自のドキュメント性があり、それらが積み重なって見える景色を自分自身も楽しみたかったですね。「答えを決めないことの豊かさ」は、作品づくりにおいて非常に重要だと思っています。
――最後に、配信を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
世界中の良質な作品が手軽に観られる今、日本発のドラマとして面白いものを作りたいという一心で、キャスト・スタッフ全員が力を合わせました。強固なジャンル性を持ったクライム・ミステリーでありながら、人間の本質を鋭く描いた作品になったと確信しています。難しく考えず、この熱量の高いエンターテインメントをぜひ楽しんでほしいですね。

<PROFILE>
監督:松永大司
1974年7月3日生まれ。東京都出身。
現代アーティスト・ピュ~ぴるの軌跡を親密な視点で追ったドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』(2011)で監督デビュー。 ロッテルダム国際映画祭をはじめ数々の映画祭で注目を集める。その後、『トイレのピエタ』(2015)、『ハナレイ・ベイ』(2018)、『Pure Japanese』(2022)と作品を発表。
2023年公開の『エゴイスト』は、アジア・フィルム・アワードでの最優秀助演男優賞受賞(宮沢氷魚)をはじめ、国内外の映画賞を席巻。アジア、北米、ヨーロッパでも劇場公開され、国際的な注目を浴びた。
2026年のベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映された、インドネシアの気鋭Edwin監督の最新作『Sleep No More』では共同脚本として名を連ねている。
Prime Originalドラマシリーズ「犯罪者」7月17日(金)よりPrime Videoで世界独占配信開始
<STORY>
「あと10日、生き延びれば助かる――。」
白昼の駅前広場で起きた通り魔事件の被害者・繁藤修司(水上恒司)は、搬送先の病院に現れた見ず知らずの男から戦慄の宣告を受ける。フルフェイスのヘルメットを被った犯人は4人を刺殺し、修司と格闘した末に逃走、屋上で薬物中毒死を遂げたはずだった。 この事件を追う刑事・相馬亮介(高橋一生)は、警察を頑なに拒む修司の背後に、拭いきれない違和感を抱き始める。
ほどなくして、修司の目前に音もなく迫る黒い影。間一髪で彼を救った相馬は、元テレビマン・鑓水七雄(斎藤工)を頼り、見えない敵へと挑む。
犯人死亡後もなぜ、修司は執拗に命を狙われるのか。そして追ってくるのはいったい何者なのか。通り魔という仮面の裏側で、蠢き出した巨大な陰謀。気がつけば3人は、この社会の深淵に口を開けた、決して触れてはならない暗部へと足を踏み入れていた――。
<STAFF&CAST>
キャスト:高橋一生・斎藤工・水上恒司・ユースケ・サンタマリア・MEGUMI・青木崇高・チョン・イル・井上瑞稀(KEY TO LIT)/内野聖陽
原作:太田 愛『犯罪者』(角川文庫/KADOKAWA)
監督:松永大司
脚本:櫻井武晴
音楽:川井憲次
制作:PROTX
製作著作:PROTX
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