〜今月の3人〜
北島明弘
映画評論家。『白パンと独裁者』『ヒトラーの毒見役』と本作、独裁者と食事という同一テーマの作品を続けて鑑賞。
まつかわゆま
シネマアナリスト。8月14・15日に御茶ノ水アテネフランセ文化センターで父・松川八洲雄監督の上映会をやります。
松坂克己
映画ライター・編集。最近は若手監督のホラーが話題になりヒットしているが、見ると確かに面白いですな。
北島明弘 オススメ作品
『大統領のケーキ』
イラクのフセイン大統領の
誕生日ケーキを作ることになった少女の成長

評価点:演出5/演技5/脚本5/撮影4/音楽4
あらすじ・概要
大統領のためのケーキ作りを命じられた少女が、同級生と一緒にあの手この手でケーキの材料である小麦粉、卵、ふくらし粉、砂糖を集めていく。祖母との悲しい別れをへた少女は大きく成長していく。
サダム・フセイン大統領が絶大の権力を誇っていた1990年代のイラク。彼の誕生日には国中の学校でお祝いのケーキを作らなければならないという慣習があった。本作は監督のハサン・ハーディの実体験をもとに、ケーキ作りの担当になった少女の一日の冒険を描いている。
祖母ビビと沼地の水上家屋に住む九歳のラミア。学校のくじ引きでケーキ作りが当った。準備できなければ重い罰が待っているというのに、米軍の空爆のため、日用品、食料は品薄状態。ケーキ作りに必要な食品を求めて町を歩きまわる。さまざまな人々と出会って怖い思い、悲しい思いをし、人生の厳しさを知らされる。大人たちのキャラクターが際立ち、だれることなく進行していく。同級生とのやりとりが微笑ましく、無理と言われても決してあきらめないラミアの一途さ、勇気には脱帽。ローカル色が良くでており、イラクの歴史と想い出がつまったストーリー展開、人物像の表現が小気味よい。ラミアを演じるバニーン・アハマド・ナーイフの目力がすごい。
(公開中、松竹配給)
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まつかわゆま オススメ作品
『ヌーヴェルヴァーグ』
J=L・ゴダール『勝手にしやがれ』誕生の舞台裏。
R・リンクレイター監督が案内するツアーに参加

評価点:演出5/演技4/脚本4/撮影5/音(※)3
(※ 音響や録音について)
あらすじ・概要
1959年。映画評論家仲間の監督デビューに遅れを取ったJ=L・ゴダールがやっと長編制作にこぎつける。撮影期間は3週間、台本なし。ビジョンは監督の頭の中。映画を変えた『勝手にしやがれ』はこうして生まれた。
1959年、映画監督を目指す世界の若者に衝撃と勇気を与えたゴダール監督の長編劇映画デビュー作『勝手にしやがれ』。その誕生のバックステージ・ツアーを映画ファンのリンクレイター監督が解説付きで案内してくれる。「誰にでもわかる」を基本にするハリウッド映画に慣れた人には「??」なところも、当時何が新しくてスゴかったのかも本作を見れば丸わかり。
要は1959年の『カメラを止めるな!』やん。理屈はこねるが何よりも「仲間に負けずに俺も映画を作りたい!!」の一心でプロデューサーをだまくらかし制作に持ち込み、現場経験問わずほぼ仲間内でスタッフやキャストを集め、時間も金もないままビジョンだけで現場に挑むゴダール。その情熱に熱に浮かされたような活躍で応えていく仲間たち。ハリウッド式で役作りしようとするジーン・セバーグだけは蚊帳の外で不満顔…。成程なぁ。とにかく、現場にいた人たちと一緒に観客も“これなら私も映画作れるんじゃないか”と、“作ってみたいかも”と、ふっと思わせてくれる映画の誘惑が匂い立つ作品なのだ。
(公開中、AMGエンタテインメント配給)
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松坂克己 オススメ作品
『デッドマンズ・ワイヤー』
1977年に起きた人質立てこもり事件を
ガス・ヴァン・サント監督が映画化

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4
あらすじ・概要
インディアナポリスの中年の独身男トニー・キリシスは、不動産ローン会社に騙されたとしてその会社の社長の息子の役員を拉致、自宅に連れ帰って立てこもる。事件は次第に全米の注目を集めるようになって……。
監督がガス・ヴァン・サント、主演がビル・スカルスガルドとくればこれは見ないわけにはいかない。特にスカルスガルドは、このところ『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』『ノスフェラトゥ』『ザ・クロウ』と“怪演”と言っていい演技を見せ続けてくれており、今回も役にのめり込んだような演じっぷり。実在の犯人とは身長も年齢もまるで違うのだが、見ていてそれは気にならず、ただただ圧倒されてしまうほどだ。
“デッドマンズ・ワイヤー”という装置も面白いし、自分の主張を伝えるために地元ラジオ局に電話して出演したり、犯行現場にメディアを呼んでTVの生中継を要求するなど、発想が通常の犯罪の犯人とはあまりにも違いすぎる。監督が脚本を読んで映画化に乗り気になったのも当然だろう。
共演陣もDJ役のコールマン・ドミンゴを筆頭に、TVレポーターのマイハラ(『ゼイ・ウィル・キル・ユー』)、出演場面はわずかながら標的となった会社の社長役のアル・パチーノと注目すべき顔ぶれで、スリラー好きなら見逃せない作品だろう。
(公開中、KADOKAWA配給)
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