ついにアカデミー賞受賞の栄光を手にしたリドリー・スコット。これまで映画史に残る名作を生み出し、ほかの監督たちとは違う型破りなスーパー・ディレクターとして80代後半の今もバリバリの現役です。最新作『ラスト・サバイバー』でも衰えない手腕を発揮する現代の名匠は一体どんな人物か。何度もスコット監督にインタビューを重ねた筆者がその功績と素顔を明かします。(文・渡辺麻紀/デジタル編集・スクリーン編集部)
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正式に映画製作の勉強をしたことがないが、
世界一の美術系大学を卒業した絵画の知識が
映像センスに繋がっている

リドリー・スコットはSF映画を変えてしまった監督だ。長編二作目の『エイリアン』(79)、それに続く『ブレードランナー』(82)で、それまでのSF映画をある意味、葬ってしまった。とりわけ『ブレードランナー』のパワーは凄まじく、本作以前と以降でSF映画は様変わり。ひと言でいうと、未来の表現が絵空事ではなくなり、とことんリアル、“すぐそこにある未来”になってしまったのだ。現在と地続きの未来を見せてくれた初めてのSF映画と言ってもいいだろう。

そんなスコットの最新作がアメリカの作家、ピーター・ヘラーのベストセラーを映画化した終末SF『ラスト・サバイバー』。世界中を襲った謎のパンデミックを生き残った男が愛犬とともに“希望”を探す物語だ。その主人公には『フランケンシュタイン』(25)のジェイコブ・エロルディが扮し、スコットと組むのは本作が初めて。スコットは常に才能ある新しい役者を探していて、自分が見初めた俳優には直接連絡を取るそうなので、もしかしたらエロルディもそうやって抜擢したのかもしれない。また、このSF小説、その美しい文体が高い評価を得たと聞く。ということは、終末ものでありつつ、もしかして“美しいSF”? だったらスコットの本領発揮になるのではないか! と期待が膨らんでしまう。

そう、何と言ってもスコットの映画は美しいのだ。CFを経て長編映画デビューしたのは、遅咲きの39歳、『デュエリスト/決闘者』(77)。このときからその映像の美しさは抜きんでていて、あたかも“動く泰西名画”だった。スコットのブレイクスルーとなった『エイリアン』は逃げ場のない深宇宙の恐怖を描いているとはいえ、その映像は長編二作目の監督とは思えない力強さ。見たことのないデザインのエイリアンやガジェットには個性的な“美”が宿っていて、類まれなそのセンスに世界中が驚かされた。

『デュエリスト/決闘者』の撮影中(右)

そうなのだ。スコットはほかの監督とはちがい、正式に映画の勉強をしたことがない。世界一の美術系大学と言われるイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでグラフィックデザインを学び、BBCにセットデザイナーとして入社したところからキャリアをスタートさせている。つまり、彼の美意識や審美眼は、アーティストとしての勉強や仕事から培われたもので、その経験が彼の映画を支えていると言っていい。

だから、インタビューでもこんなことを言う。

「君はホルバインの絵画を見たことがあるかね? 彼の絵の下部をよーく見ると、当時のことを書き記したメモが残っているんだ。それは私にとって“写真”のようなもの。当時の彼らの生活が頭に浮かんでくるんだよ」

あるときはレンブラント、またあるときはジャン=レオン・ジェロームと、映画の話なのに絵画の話を始めてしまう。そして、その絵画の隅っここそがスコットの世界の構築のベースになっているというからびっくりである。

「私は絵画を見ながらいろんなことに想いを馳せるんだ。この光と影の演出は、どういう人物がロウソクをもち、どうやって動かしたんだろう、とかね。そうやって絵画の裏で起きたことを想像するのが実に楽しい。私はそれらを過去のもととしてではなく、いま生きているものとして考える。“世界の構築”とは私にとって、すなわちそういうことなんだ」

『エイリアン』のクルーたちがツナギを着てバスケットシューズを履いていた意味も、『ブレードランナー』にアジアの文化がひしめいていたのもおそらく、そういう想像から生まれた世界であり美しさ。スコットだからこその映画が生まれるゆえんだ。

「私はどんなものにも“美”を見つける。ただ、その感覚がほかの人とズレているのか『ブレードランナー』のときは酷い言われようだった。この映画に私は、自分が美しいと思ったものを詰め込んだんだ。にもかかわらず公開時には、やれ『暗い』とか『汚い』とか『気が滅入る』とか酷い言われよう。にもかかわらず、それから20年以上を経た今は、私の大嫌いな言葉で褒めたたえる。『クール』だってね」

画像: 『エイリアン』で主演のシガニー・ウィーヴァーと

『エイリアン』で主演のシガニー・ウィーヴァーと

『ブレードランナー』でハリソン・フォードを演出中

70代、80代になっても
仕事を続ける勢いが衰えない尋常でないパワー

いまだに多くの人がスコットの代表作となると『エイリアン』と『ブレードランナー』を挙げてしまうのだが、実のところめちゃくちゃ多作な監督でもある。この2本のあとも、ニューヨークの風景が美しすぎる『誰かに見られてる』(87)、日本をまるで違う視点で捉えた『ブラック・レイン』(89)、女性ふたりの逃避行が注目された『テルマ&ルイーズ』(91)、古代ローマを甦らせた『グラディエーター』(00)、現代の市街戦を再現してみせた『ブラックホーク・ダウン』(01)、十字軍のバトルが強烈な『キングダム・オブ・ヘブン』(05)、麻薬王と刑事の闘いがアツい『アメリカン・ギャングスター』(07)、レオナルド・ディカプリオ&ラッセル・クロウ共演の『ワールド・オブ・ライズ』(08)、久々に原点に還った『プロメテウス』(12)、実弟トニー・スコット亡き後、コーマック・マッカーシーと組んだ無慈悲なノワール『悪の法則』(13)、スコット作品のなかで最強のヒットとなったSF『オデッセイ』(15)、実話に基づいた人間ドラマ『ゲティ家の身代金』(17)、あの英雄の半生を戦いで追いかけた『ナポレオン』(23)、そして代表作の24年ぶりの続編となった『グラディエーター 英雄を呼ぶ声』(24)……メイン作品をざっと挙げるだけでこのボリューム。70歳を超え80歳になっても、その勢いはまるで衰える気配がない。

スコットはスコットフリーというプロダクションも経営し、自らプロデュースする作品も数多く、それを合わせるととんでもない数になる。今年の11月で89歳を迎えるじいちゃんの仕事っぷりではないのだ。

日本でも撮影された『ブラック・レイン』

『テルマ&ルイーズ』でキャストを演出中(右)

近年再評価されている『ブラックホーク・ダウン』

画像: アカデミー作品賞などを受賞の『グラディエーター』

アカデミー作品賞などを受賞の『グラディエーター』

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