英国ロック界を代表するレジェンド、エリック・クラプトンの2000年代に作られた3本のライブ映画が<クラプトン・フェスティヴァル>と題して連続上映されている。どの作品にもそれぞれ違った個性があり、クラプトンのさまざまな側面に触れることができる。多くのミュージシャンに計り知れないほど大きな影響を与えてきたクラプトン。彼が音楽活動を始めたのはロンドン郊外の町、キングストン周辺である。その土地を訪ねたこともある筆者が現地の写真と共にクラプトンの魅力を再考する。

<クラプトン・フェスティヴァル>で2000年代の3本のライブ映画が連続上映

1960年代から活動を始め、今ではロック界のレジェンドとなったエリック・クラプトン。ヤードバーズ、ジョン・メイオール&ザ・ブルース・ブレイカーズ、クリーム、ブラインド・フェイス等、さまざまなバンドを経てソロ活動に入る(特にクリームはロック史上、最高のバンドのひとつとして評価されている)。

ドラッグやアルコールなどの重度な中毒にも陥ったが、やがてはそれを克服。80代に入った今も現役で活動を続けている。来日公演も多く、1970年代から始めた日本武道館での公演は2023年にすでに100回を超え、この会場で最もコンサート回数が多い海外アーティストとなっている。2025年にも来日。

2023年にはクラプトンの来日公開が日本武道館で行われ、この会場で記念すべき100回目のライブも迎えている。
©Sawako Omori

ギターを愛する人には<ギターの神様>とも呼ばれ、サザンオールスターズの桑田佳祐をはじめ、彼をリスペクトするミュージシャンも多い。

筆者自身は、80年代後半と2023年に2回、武道館ライブを見たことがある。若かった80年代はギターのテクニックが目立つコンサートで、ばりばり弾きこなす姿は確かにエネルギッシュではあったが、個人的にはあまり心を動かされなかった。

しかし、70代後半での2023年のライブは、パンデミック明けの来日ということで、会場に温かい空気が流れていたし、クラプトンの演奏にも熟練の職人的な落ち着きと貫禄があり、味わい深いものに思えた。

そんな彼の2000年代の3本のライブ映画が<クラプトン・フェスティヴァル>のタイトルで連続上映されている。すべてイギリス映画で、作品ごとに異なるおもしろさがあり、クラプトンの違う顔を見ることができる。

第1弾・『エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド:ライブ・アット・マディソン・スクエア・ガーデン 2008』

画像: スティーヴ・ウィンウッド(左)とエリック・クラプトン(右)。ふたりの掛け合いが楽しい。 ©2009 DRUMLIN LTD. / WINCRAFT MUSIC LTD. / A PARALLEL 28 EQUIPE, INC. PRODUCTION

スティーヴ・ウィンウッド(左)とエリック・クラプトン(右)。ふたりの掛け合いが楽しい。
©2009 DRUMLIN LTD. / WINCRAFT MUSIC LTD. / A PARALLEL 28 EQUIPE, INC. PRODUCTION

クラプトンのお気に入りの場所、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでの2008年のライブ。かつてブラインド・フェイスという超短命のバンドで、クラプトンと活動を共にしていたミュージシャン、スティーヴ・ウィンウッドとの共演。

クラプトンはギターで、ウィンウッドはキーボードという役割。ふたりの掛け合いがとにかく楽しく、コンサート会場には、終始、リラックスしたムードがある。

言葉にしなくても、それの演奏を通じて確かな信頼感が伝わってくる。

クラプトンは仲間を大切にするミュージシャンでもあり、舞台に立った時、自分が目立つのではなく、自分の演奏にフォーカスしながら、相手も立てる。この映画に出てくる証言によれば、若い頃、ウィンウッドにとって、クラプトンは兄のような存在だったようだ。

公演中はスティーヴ・ウィンウッドがボーカルを取ることも多い。ウィンウッドはスペンサー・デイヴィス・グループ、トラフィック、ブラインド・フェイスに在籍後、ソロとなる。

©2009 DRUMLIN LTD. / WINCRAFT MUSIC LTD. / A PARALLEL 28 EQUIPE, INC. PRODUCTION

このライブではウィンウッドがボーカルをとる場面も多いが、クラプトンは寛大な眼差しでソウルフルに歌い続ける盟友を見つめる。

ふたりの発言によると、1960年代にアメリカの黒人音楽であるブルースに魅せられ、手さぐりでその演奏の可能性を探ってきたという。

クラプトンのふたつの代表曲「アフター・ミッドナイト」「コカイン」(どちらもJ・J・ケイル作)をはじめ、「マイ・ウェイ・ホーム」や「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」などブラインド・フェイス時代の代表曲も登場。クラプトンが若い頃に出会った天才ギタリスト、ジミー・ヘンドリックスの「ヴードゥー・チャイル」も新鮮な響きの演奏になっている。

ウィンウッドとのリラックスした掛け合いに心がなごむライブで、その温かい笑顔を通じて、見ているこちらも多幸感に浸れる。

第2弾・『エリック・クラプトン:セッションズ・フォー・ロバート・ジョンソン 2004」

クラプトンが敬愛するアメリカの伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソン。27歳でわずかな音源を残して他界した。生前の写真は2枚しかなく、その人生は謎に包まれている。

この作品からはクラプトンのルーツであるジョンソンのブルースへの深い思いが伝わる。途中で入る彼自身のいくつかのコメントも感慨深く、全体的に渋いトーンの作品だ。

画像: ドイル・ブラムホール二世とクラプトンのギター・セッション。リラックスした雰囲気が楽しく、ロバート・ジョンソンの古い名曲が現代によみがえる。 © 2004 MARSHBROOK LIMITED

ドイル・ブラムホール二世とクラプトンのギター・セッション。リラックスした雰囲気が楽しく、ロバート・ジョンソンの古い名曲が現代によみがえる。

© 2004 MARSHBROOK LIMITED

クラプトンが初めてロバート・ジョンソンの音楽にふれたのはラジオで、15歳の時、初めてその音楽を聴いて以来、彼の曲やブルースにとりつかれ、一歩でもその演奏に近づきたいという思いで必死に練習を重ねてきたという。

2004年にはジョンソンをテーマにしたアルバム「ミー・アンド・Mr.ジョンソン」もリリースしている。

映画はリハーサル(オックスフォードシャーとテキサスのスタジオ)、セッション(テキサスとサンタモニカ)と4部構成で、ジョンソンの曲が次々に演奏される。

有名曲「スイート・ホーム・シカゴ」、クラプトンが好んで歌ってきた「カインド・ハーテッド・ウーマン・ブルース」。バンド演奏もあれば、デュオもある。そして、最後のパートではひとりでギターを抱えて、「ラブ・イン・ヴェイン」にブルースへの深く静かな思いを託す。

経済的にはすでに成功している彼がいまも音楽を続ける理由をインタビュアーに聞かれると、「演奏が楽しいし、音楽に奉仕(serve)したいから」と答える。

金や名声のためではなく、演奏を通じて自分が愛する音楽を広めたい。ロック・ミュージシャンとして知られているが、何よりも大切にしているのはブルース。

そんなルーツへの純粋な思いがあるからこそ、クラプトンは流行を超えたロングランナーになれたのだろう。

第3弾・『エリック・クラプトン:ライブ・アット・ステイプルズ・センター 2001』

2008年のライブには仲間との再会の喜びがあり、2004年のセッションとリハーサルからはロバート・ジョンソンとブルースへの深い愛が伝わってきたが、この2001年のライブ映画はクラプトンのヒット曲が網羅されたベスト盤的な選曲。彼の曲作りや選曲のセンスを堪能できる作品だ。

他の2作はインタビューでのコメントも入っていたが、こちらは曲だけで構成されることで、コンサートのライブ感をそのまま体感できる。

アコースティック・ギターも、エレキ・ギターも、ばりばりこなす。クラプトンの代表曲が次々に登場し、ベスト・ヒット曲集として楽しめる。
© 2002 REPRISE RECORDS INC.

2001年のアルバム「レプタイル」をリリース時のライブで、この軽快なタイトル・ナンバーを始め、グラミー賞受賞の大ヒット曲「ティアーズ・イン・ヘヴン」、ジョン・トラボルタ主演の映画『フェノミナン』(96)のテーマ曲「チェンジ・ザ・ワールド」、デレク・アンド・ドミノス名義で活動していた頃の記念碑的な曲「いとしのレイラ」や「ベルボトム・ブルース」、親友ジョージ・ハリソンとの共作「バッジ」、さらにクリーム時代のヒット曲「サンシャイン・オブ・ユア・ラブ」など、ファンにはおなじみの曲が次々に登場する。

ビートルズとも交流のあった黒人のキーボード・プレイヤー、ビリー・プレストンがソロを取る場面もあり、仲間もひきたてるクラプトンの姿勢も改めて伝わる。

『オズの魔法使い』(1939)からの名曲「オーバー・ザ・レインボウ(虹のかなたに)」も演奏され、とても温かい気持ちに包まれる。

クラプトンのドキュメンタリーや出演作

今回、上映される3本のライブ映画では、クラプトンの穏やかな顔を見ることができるが、それまでけっして平坦な道を歩んできたミュージシャンではない。

『エリック・クラプトン ~12小節の人生~』

彼の波乱万丈の人生をたどれる貴重なドキュメンタリー映画には『エリック・クラプトン ~12小節の人生~』(2017)がある。

実の母親との複雑な関係、音楽活動の始まり、いくつかのバンド結成のいきさつ、ジョージ・ハリソンとの友情や彼の妻、パティ・ボイドをめぐる三角関係、ドラッグやアルコール中毒だった時代、幼い息子のホテルの部屋からの転落死、再生後の名曲誕生、新しい結婚と娘の誕生など、あまりにもドラマティックな人生が綴られる。

クラプトン自身が語り部となることで、説得力のある作品になっていて、壮絶な苦悩や痛みを経ることで彼の音楽が形成されてきたことが分かる。

『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』

彼のひとつの絶頂期といわれるのが1990年代初頭。ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで42回の公演を行ったが、そこからベストな演奏を集めたライブ映画が『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』(2023)。

この時の演奏がかつて映像化されたこともあるが、その出来は今ひとつ。しかし、デジタル技術を駆使することで映像も編集も選曲も変え、2020年代にスリリングなこの作品として生まれ変わった。

大ヒット曲「アイ・ショット・ザ・シェリフ」やボブ・ディランの名曲「天国への扉」も演奏。

当時のクラプトンは40代。“アルマーニ/ベルサーチ時代”といわれ、スタイリッシュなデザイナー・スーツで登場。洗練された貴公子の雰囲気も漂う。近年の彼は自然体だが、当時はもっと野心的な印象だ。

彼が敬愛する黒人のブルースマン、バディ・ガイやアルバート・コリンズが出てくると、その存在が強烈すぎて主役の影が薄くなるが、本人もそれは納得ずみではないだろうか。

ケン・ラッセル監督の華やかなロック・オペラ『TOMMY/トミー』のクラプトンは教祖の役を演じる。
こちらは2019年の日本でのリバイバル上映時のポスター。
©Sawako Omori

『Tommy/トミー』

珍しく俳優として出演した作品には、ケン・ラッセル監督のロック・オペラ『Tommy/トミー』(1975)がある。ザ・フーの記念碑的なアルバムの映画化作品だ。

目も見えず、音も聞こえず、口もきけない。そんな3重苦に悩むトミーを治癒しようとする新興宗教”マリリン・モンロー教”の怪しい教祖役。ギターを持ち、僧侶のような服で歌いながら教会を歩く。

ラッセル監督の自伝を読むと、当時のクラプトンは重度のドラッグ中毒で、出演を危ぶまれていたそうだが、ある日、突然現れ、奇跡的に撮影ができたという。

彼の顔には血の気がなく、無表情のまま。演技に興味がないことが明らかに分かる映像だが、その不愛想な様子がむしろ不思議なインパクトを残す。

他にもクラプトンのライブをとらえた映像作品は無数にあり、とてもここでは紹介しきれない。日本では、近年、毎年のように映画館でクラプトンがらみのライブ映像が上映されてきたが、今年は豪華な3本連続上映となった。

クラプトンの英国のルーツ、キングストンを訪ねて

1945年に英国のサリー州に生まれた彼は絵が得意で、ロンドン郊外のキングストン・アポン・テムズという町にあるキングストン・カレッジ・オブ・アートに通っていた。しかし、入学後、すぐに音楽活動に力を入れ始め、学校には行かなくなった。

キングストン・カレッジ・オブ・アートを前身とするキングストン大学で映画監督(ケン・ラッセル)の学会が2度に渡って行われた時、筆者はこの町を訪ねた。

2023年の滞在の時、ふらりと入ったのが、ザ・キングス・タンという大衆的なパブ。チェーンの店らしいが、物価が高いといわれるロンドンにしては、お手頃値段で食事ができる。

クラプトンゆかりの土地、キングストン・アポン・テムズにある大衆的なパブ、ザ・キングス・タン。2023年撮影。
©Sawako Omori

パブ内の客層もひとり客から家族連れまで、さまざまだった。朝食をオーダーして席についたら、なんと、テーブル横にクラプトンの大きなポスターが展示されているではないか。3か月前に彼のコンサートを見たばかりだったので、その偶然にちょっと驚いた。

キングストン・アポン・テムズのパブに飾ってあったクラプトンを紹介するポスター。2023年撮影。
©Sawako Omori

見回すと店内にはさまざまな人物のポスターがあったが、他は歴史上の人物ばかり。そんな中、クラプトンは今も生きているご当地の有名人である。

キングストン・アポン・ア・テムズはロンドンの中心部から電車で30分~40分ほどで行ける駅で、テニスの大会で有名なウィンブルドンより、少し先のエリア。落ちついた住宅街が広がっている。

クラプトンはこの土地や近隣のリッチモンドで、音楽活動を始めたという。キングストンから歩ける距離のサービトンという駅の近くには、クラプトンが初めて家族にギターを買ってもらった楽器店もあったようだ(今は閉店)。

10代にブルースと出会うことで音楽の魅力にめざめた彼だが、その感性をはぐくんだのが、キングストンやリッチモンドだったのだろう。

クラプトンが音楽活動を始めたといわれるロンドン郊外の町、キングストン・アポン・テムズの中心地。2017年撮影。

©Sawako Omori 

現在のキングストンは、駅のすぐ近くにショッピングができる商業施設や劇場もあり、今では日本のユニクロも出店している。

そこから少し歩くとテムズ川があり、キングストンからサービトンまで続く川べりの道を歩くと、とても穏やかな気持ちになれる。

クラプトンのルーツ、キングストン・アポン・テムズにあるテムズ川の桟橋。自然に恵まれた穏やかな地域。
2017年撮影。

©Sawako Omori

キングストンの大衆的なパブで、ご当地が生んだ自慢の人物としてポスターが展示されているクラプトン。

武道館のライブや映像で見る彼は少し遠いところにいるロックスターに思えるが、キングストンではリアルな生活の中にいたかつての姿を少しだけ垣間見た気になった。

画像: クラプトンの英国のルーツ、キングストンを訪ねて

クラプトン・フェスティヴァル 全国で公開中 9月以降も上映予定あり

「エリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド:ライヴ・アット・マディソン・スクエア・ガーデン2008」
監督:マーティン・アトキンス
出演:エリック・クラプトン(G, Vo)、スティーヴ・ウィンウッド(G, Vo, Kbds)、ウィリー・ウィークス(B)、イアン・トーマス(Ds)、クリス・ステイントン(Kbd)
2009年/イギリス/英語/日本語字幕/カラー/140分 原題:LIVE FROM MADISON SQUARE GARDEN
©2009 DRUMLIN LTD. / WINCRAFT MUSIC LTD. / A PARALLEL 28 EQUIPE, INC. PRODUCTION

「エリック・クラプトン:セッションズ・フォー・ロバート・ジョンソン2004」
監督:スティーブン・ノムラ・シブル
出演:エリック・クラプトン(G, Vo)、ドイル・ブラムホール二世(G)、ネイザン・イースト(B)、スティーヴ・ガッド(Ds)、ビリー・プレストン(Kbds)、クリス・ステイントン(Kbds)
2004年/イギリス/英語/日本語字幕/カラー/97分 原題:SESSIONS FOR ROBERT J
© 2004 MARSHBROOK LIMITED

「エリック・クラプトン:ライヴ・アット・ステイプルズ・センター2001」 
監督:ダニー・オブライエン
出演:エリック・クラプトン(G, Vo)、ネイザン・イースト(B)、スティーヴ・ガッド(Ds)、アンディ・フェアウェザー・ロウ(G)、グレッグ・フィリンゲインズ(Kbds)、ビリー・プレストン(Kbds)、デヴィッド・サンシャス(Kbds, G)
2002年/イギリス/英語/日本語字幕/カラー/130分 原題:LIVE AT THE STAPLES CENTER
© 2002 REPRISE RECORDS INC.

配給・宣伝:IAC MUSIC JAPAN / SANTA BARBARA PICTURES

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