作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。(デジタル編集・スクリーン編集部)

〜今月の3人〜

大森さわこ
映画評論家。長年、デヴィッド・バーンのファン。有明でのライブはあまりにもすばらしく、今も余韻が続いています。

前田かおり
映画ライター。取材で行ったビルの廊下が迷路のよう。案内人も迷い、リアル『バックルームズ』気分。真夏の恐怖体験!

松坂克己
映画ライター・編集。今年はなぜか雷雨が多いような気がする。これも近年の異常気象の一環なのかな?

大森さわこ オススメ作品
『ザ・ゴールドディガーズ』

サリー・ポッター監督の幻のデビュー作で
フェミニズムの先駆的な作品

画像: 大森さわこ オススメ作品 『ザ・ゴールドディガーズ』

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像4/音楽4

あらすじ・概要
ルビーは華やかなスター女優。銀行での味気ない仕事に疑問を持つ黒人女性や感情を体で表現するダンサーとの出会いを通じて、自身を取り巻く世界について考え始め、過去にも思いをはせる。

サリー・ポッターは英国のパイオニア的な女性監督のひとり。ヴァージニア・ウルフの古典文学の映画化『オルランド』(92)で高い評価を得たが、そんな彼女の80年代の幻のデビュー作が初公開。音楽家のリンジー・クーパーやパフォーマンス・アートのローズ・イングリッシュとの共同作業によるモノクロの低予算映画で、ほとんどのスタッフが女性という(当時としては)画期的な映画作りが行われた。まさにフェミニズムの先駆的な作品だが、男性社会や資本主義に疑問を投げかける当時の厳しい視点が、いま見ると逆に新鮮に思える。

物語を重視した映画作りではなく、断片のイメージを重ねることで、見る者は女性のアイデンティティをめぐる意識の旅へと誘われる。シャンタル・アケルマン監督との仕事で知られるバベット・マンゴルトのモノクロ映像の美しさがインパクトを残し、イメージの鮮烈さが記憶から消えない。英国を代表する国際女優で、主体性のある女性役を好んでいた主演女優、ジュリー・クリスティの美しい存在感も忘れがたい。

公開中、プンクテ配給
The Gold Diggers Ⓒ 1983 Sally Potter, Rose English, Lindsay Cooper

前田かおり オススメ作品
『私たちは、ちょうどいい。』

父親と同姓同名の男にSNSを通じて
出会った女性が生き方を変えていく好編

画像: 前田かおり オススメ作品 『私たちは、ちょうどいい。』

評価点:演出4/演技4/脚本4/撮影4/音楽3

あらすじ・概要
幼い頃に母に捨てられ、父とも疎遠になった娘リリー。何とか連絡を取ろうとSNSで父と同姓同名の中年男ボブと知り合う。「いいね」で始まったやりとりだが、やがて2人の間には特別な友情が生まれていく。

何かと害悪ばかりが注目されるSNS。そんなSNSで父と同姓同名の人物と出会ったことを機に、ネガティブだった生き方を一変させていく女性の姿を描く。少々出来すぎにも感じるが、監督のトレイシー・レイモンは実体験を基に、人と人との繋がりを真摯に見つめ、温もりある作品を作った。

主人公のリリーは育ててくれた父から愛されず、今や絶縁状態に。そんな中、SNSで出会った父と同じ名のボブが自分の投稿に「いいね」をくれる。何気ないやり取りだが、気にかけてくれる存在がいることはささやかな励みになる。リリー役を演じているのはドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」のバービー・フェレーラ。大柄でぽっちゃりの彼女がキュートで健気なリリーの心情を表情豊かに演じて見せる。一方、ボブを演じるジョン・レグイザモも味わい深い。かつては血の毛の多い役がお似合いだったが、本作では毒気を抜き、田舎町で妻と静かに暮らす善良な男と化している。それでも最後にひと暴れ…と思いきや、いい意味で驚きの展開。まさか彼に泣かされるとは…。

公開中、AMGエンタテインメント配給
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松坂克己 オススメ作品
『モネと時間旅行』

現代と19世紀ベル・エポックの時代を
自在に往還するクラピッシュの真骨頂

画像: 松坂克己 オススメ作品 『モネと時間旅行』

評価点:演出5/演技4/脚本5/映像4/音楽3

あらすじ・概要
見知らぬ親戚が集められ、先祖の遺した屋敷の調査をすることになり4人が選ばれる。その屋敷では19世紀にはアデルという娘が暮らしていて彼女はパリに向かう。現代の4人は屋敷の調査を始め、絵や写真を見つける。

セドリック・クラピッシュといえばかつては『スパニッシュ・アパートメント』や『ロシアン・ドールズ』といった青春映画の快作を送り出してくれていたが、60代になっても精神は若々しい。今回は現代と19世紀を舞台に、二つの物語が進行する。

現代では先祖の遺産となった屋敷の相続を巡り、4人の親戚たちが屋敷を訪れ調査を始める。そして19世紀では件の屋敷に暮らしていた21歳のアデルという娘のパリ行きがスタートする。印象派の絵画が勃興した19世紀と、モネ没後100年を迎える現代の様子が交互に丹念に描かれていくのだが、それぞれの時代で徐々に撒かれていく伏線が、終盤には見事に回収される。

現代側の主演アブラム・ヴァプレも19世紀の娘役のスザンヌ・ランドンも日本では馴染みが薄いがさすがクラピッシュが抜擢しただけあって見事な演技を見せてくれるし、ヴァンサン・マケーニュ、ジュリア・ピアトンといった脇も着実。セシル・ド・フランス、オリヴィエ・グルメが顔を見せてくれているのも、古くからフランス映画を見ているこちらには嬉しい限りだ。

公開中、セテラ・インターナショナル配給
© STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques

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