いよいよ日本でもその全貌を表す『ディスクロージャー・デイ』。これはまさにスティーヴン・スピルバーグ監督自身の大ヒット作『未知との遭遇』『E.T.』に連なるような作品ですが、ここでスピルバーグは観客に何を訴えようとしているのでしょうか。長年スピルバーグがこだわってきたものを紐解きつつ、注目の本作を解読してみましょう。また文中には映画のネタバレも含まれていますので、作品鑑賞後にお読みください!(文・渡辺麻紀/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

ネタバレ注意!
この記事の内容には作品に関するネタバレが含まれるため、映画鑑賞後にお読みください

スピルバーグのライフワークと言えそうな「三部作完結編」?

“ライフワーク”と呼べそうなテーマをもつ監督がいる。マーティン・スコセッシの場合はギャング、ティム・バートンはストップモーション・アニメーション、クエンティン・タランティーノはB級映画へのオマージュであり愛。彼らの作品にはその映画に応じ、そういう要素がかたちを変え、表現を変えて息づいている。では、スティーヴン・スピルバーグは?  その答えは最新作『ディスクロージャー・デイ』を観ればよくわかる。彼はエイリアンに強い強い思い入れ、こだわりをもっているようなのだ。

スピルバーグが再びライフワークに挑んだ『ディスクロージャー・デイ』

というのもこの作品、『未知との遭遇』(77)、『E.T.』(82)に続くスピルバーグのエイリアン映画の第三章にして完結編としか思えない。彼がエイリアンをどう捉えているのか、それが改めて“開示”されているからだ。

そう、本作に登場するエイリアンは『未知との遭遇』の最後、リチャード・ドレイファス扮するロイをマザーシップに招き入れるそれを彷彿とさせるフォルム。エイリアンのスタンダードと言われる緑系の色をした身体は小さくて頭のデカい、いわゆるリトルグリーンマンだ。大きさには大小の違いはあるものの、このデザインのエイリアンが本作にも登場する。ただし、実際に姿を現し、E.T.のように人間と仲良くなるというわけではない。政府がひた隠しにしていたという設定のエイリアンに関する情報のなかで登場するという表現。そのためファンタジー度は前2作より抑えられていて、映画のテーマは、このエイリアン情報の開示=ディスクロージャーを巡る物語だ。

『未知との遭遇』
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『E.T.』
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彼らはこの地球になぜ飛来していたのか? 1947年のUFO落下事件、ロズウェル事件は本当に起きたことなのか? そして、それ以来、そういう事件をアメリカの政府はどう扱ってきたのか? これまでは個人とエイリアンのかかわりを中心に描いてきたスピルバーグだが、本作はそれにもっとポリティカルな要素を加え、個人とエイリアンと政府の関係性を追求しようとしている。つまり、陰謀度が高くなり、スケールも大きくなっているのだ。

スピルバーグにとって
エイリアンという存在の意味は?

演出中のスピルバーグ(中央)

面白いのはエイリアンと政府サイドの捉え方だろう。スピルバーグはエイリアンを虐げられた存在、政府を彼らを隠匿し搾取した悪人として描いている。ロズウェル事件で彼らの存在を知った政府はその地球にはない技術を利用し(といっても、どういう技術をどう使ったのか具体的には描かれていないが)、エイリアンたちにも人体実験を行って苦しめているかのような描写が多い。これはスピルバーグなら当然の設定と言ってもいい。前2作でも、何の迷いもなく彼らを善き者として描いていたように、本作でもそこにまるでためらいがないのだ。その理由はわからないが、スピルバーグのなかではエイリアンは必ずいいヤツなのである。

と書いてしまうと、彼の侵略SFの傑作、ある日、火星人が地球に攻め込んできたという危機的状況を描いた『宇宙戦争』(05)はどうなんだと言われれそうだが、あれはスピルバーグのストーリーではなく、H・G・ウェルズの同名原作の映画化だ。しかし、『未知との遭遇』から始まるエイリアン三部作の原案はすべてスピルバーグ自身によるもの。とりわけ『未知との遭遇』の脚本は珍しく彼の名前だけがクレジットされていて、最初に依頼されたポール・シュレイダーらのバージョンはもっと陰謀説が濃く、スピルバーグが描きたかったファンタジーとは大きく乖離。結局、自分で書くことになったと言われている。

『宇宙戦争』演出中のスピルバーグ(左)
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とはいえ、彼の自主制作の初長編映画、17歳のときに撮った『Firelight』(64)もエイリアン映画だったが、こちらは『宇宙戦争』的な侵略SF。人間をアブダクトし、自分たちの故郷の星であたかも動物園の動物のように飼育するというストーリーだった。本作にあるいくつかのアイデア、輝くマザーシップ等は『未知との遭遇』でも使われているが、エイリアンの設定がまるでちがっているのが気になる点で、その間にスピルバーグの価値観を変える何かが起きたのかもしれない。もしかしたら、何らかのかたちで本当のエリアン情報を入手し、考え方を改めたのかもしれない……なんてことをついつい考えたくなるようなエイリアンに関する描写が、実は『ディスクロージャー・デイ』には散らばっていて、とても興味深い……というか、そもそもエイリアンの存在を信じたくなるようにつくられている。

スピルバーグの初期作品に
重なることが多いのも事実

では、本作でエイリアンとコネクションをもつのはどんなキャラクターなのか?『未知との遭遇』では子どもの心をもち続ける父親、『E.T.』では子どもたち。そして今回は普通の大人の男女になっている。女性のほうはTV局のお天気おねえさん、マーガレット。彼女と一緒にエイリアンの真実を探る男性、ダニエルはサイバー関係の組織の一員。出会うはずのなかったふたりがまるで呼び合うかのように出会い、組織の放った追手と車や列車を駆使したチェイス劇を繰り広げる。偶然なのか、演じているのはエミリー・ブラント&ジョシュ・オコナーとどちらも英国人で、ふたりを追う組織のトップも英国人のコリン・ファースだったりする。

ダニエルは組織が保管していた極秘エイリアン情報を盗み出し、マーガレットは特殊な能力に目覚めてその情報を開示しようとする。これもスピルバーグらしい設定だと言える。『未知との遭遇』のロイ同様、彼らもエイリアン・サイドに選ばれた人間。彼らなら、自分たちのことを理解してくれるだろうと思わせるような経歴やハートの持ち主として描かれるのだ。スピルバーグ映画では、エイリアンのほうに主導権があるのかもしれない。また、ふたりが政府の追手からあの手この手で逃げようとするチェイスシーンとそのアクションはスピルバーグの本領発揮ポイント。主人公が大人になった分、前2作よりもアクションは充実し、彼の初期作品『激突!』(71)や『続・激突!カージャック』(74)を思い出す人もいるかもしれない。

ということは、やはり全体的に初期の作品に重なることが多いのも事実だ。ならばスピルバーグはもう50年近くも同じような気持ち、価値観を持ち続けているということになるのかもしれない。前作、自伝的要素の高い『フェイブルマンズ』(22)で自分と映画の出会いを描き、続く本作では初期に立ち戻ってライフワークたるテーマと向き合う。初心忘るべからずという、スピルバーグの新たな決意を感じてしまう作品だったりもするのだ。79歳にしてこの所信表明。さすがスピルバーグだと思う。

『ディスクロージャー・デイ』ではスピルバーグの『激突!』を思わせるようなアクションも

『ディスクロージャー・デイ』
2026年10月1日(木)公開
アメリカ/2026年/2時間25分/東宝東和配給
監督/スティーヴン・スピルバーグ
出演/エミリー・ブラント、ジョシュ・オコナー、コリン・ファース、イヴ・ヒューソン、コールマン・ドミンゴ

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