“マッドサイエンティスト”になったショーン
──本作では、ショーンが「群れの問題を自分が解決したい」という思いを強く抱き、仲間のために行動する一方で、次第にやりすぎてしまいます。そこから「マッドサイエンティスト化していく」というアイデアが生まれたそうですが、ショーンにこうした一面を持たせることになった経緯を教えてください。
マシュー・ウォーカー監督
ええ、ショーンのストーリーをそこまで落とし込むのには、かなり時間がかかりました。牧場主のストーリーラインは最初から明確だったんです。自分の薄毛を気にしていて、獣医さんにいい格好をしたいから、自分を変えたいという話ですね。
でも、それに並行するショーンのストーリーも必要だと考えていました。それが、本作に取り入れたかった「マッドサイエンス」や「ホラー」というテーマと結びついたんです。
「群れの問題を自分が解決したい」というショーンの思いが、今作では行き過ぎてしまい、頼るべき場面でも仲間を頼らなくなってしまう。この「ショーンがマッドサイエンティスト化していく」というアイデアは、そこから生まれました。
彼は「かぼちゃを再成長させて、仲間たちのために問題を解決するんだ」ということに集中しすぎるあまり、やりすぎてしまう。いわば「ダークサイド」に傾いていくわけです。アイデアの出発点は、そこでした。
ただ、その方向性が決まってからは、「ショーンが嫌な奴に見えないようにすること」にとても気を配りました。マッドサイエンスの道に突き進んで新たなトラブルを引き起こしてはいくものの、それでも彼を愛される存在、一緒にいて楽しいキャラクターにしておきたかったんです。
だから最終的には、「彼は正しい理由で動いている」という描き方に落ち着きました。やり方が間違っているだけで、本人はとてもワクワクしているんです。自分のやっていることで仲間たちを喜ばせたいと思っている。でも、仲間たちの目から見ると、「ショーン、それはちょっとやりすぎだよ」と見えているわけです。
スティーブ・コックス監督
テレビシリーズと比べて、長編映画を作る最大の醍醐味は、まさにこうした感情の変化を深く掘り下げられるところにあります。感情に訴えかけるストーリーがあることで、観客をぐっと作品に引き込むことができるんです。
単にギャグが次から次へと繰り出されるだけの映画でも、笑えて面白いかもしれません。でも、そこに感情のドラマがあるからこそ、より感情移入してもらえますし、「もう一度この映画を観たい」と思ってもらうきっかけにもなると期待しています。

──本作では、怪物の毛を実際にカメラの前に置き、一コマずつ動かしながら撮影する、怪物の一人称視点(「Beast POV」)という非常にユニークな表現が使われています。怪物の視点を成立させるために、カメラの位置や動き、さらに怪物の感情を伝えるうえで、どのような工夫をされたのでしょうか。
スティーブ・コックス監督
ええ、まさにキャラクターの立場によって視点を切り替え、それぞれ異なる撮影技法を用いています。怪物の視点のときは、カメラの前に前髪を垂らして、あたかも「観客が怪物の頭の中にいる」かのように感じられるように撮影しました。
ただ、怪物を描くうえで難しかったことのひとつが、「彼の感情をどう読み取ってもらうか」ということでした。そこで、マーベル映画『アイアンマン』のロバート・ダウニー・Jr.からヒントを得たアイデアを考えたんです。まさに、彼のヘルメットの中の描写ですね。どんなにロバート・ダウニー・Jr.が素晴らしい表情をしていても、顔が見えなければ意味がありませんよね(笑)。そこで、前髪の内側にカメラを仕込んで怪物の表情を捉え、感情の変化が分かるようにしました。僕たちはこれを、前髪の内側にある「アイアンマン・カメラ」と、怪物が見ている外の世界を捉える「モンスター・カメラ」(前髪がカメラに写り込んでいる映像)と呼んでいました。
さらに、アングルも工夫しています。怪物を「恐ろしい存在」に見せたいときは、カメラを低い位置に置いて見上げるように撮影する。一方で、怪物の「孤独感」を表現したいときは、カメラを少し高い位置に配置しました。キャラクターの心情に入り込んでもらうための工夫の多くは、こうした撮影技法によるものなんです。


マシュー・ウォーカー監督
特に素晴らしく仕上がったショットが、1つ、2つあります。家の外で怪物がドアや地下室のドアに近づいていく場面の、実際のPOVショット(一人称視点)ですね。あれはコンピュータ制御のモーションコントロールシステムを使って撮影したので、カメラの動きを非常に緻密に計画する必要がありました。アニメーターはカメラの動きに合わせて、フレーム内に入ってくる羊や牧場主の手足を、一コマずつ動かしていったんです。技術的には極めて難易度の高いショットでしたが、映画として非常に素晴らしい効果を生み出すことができました。

巨大セットと細部の小道具に宿るこだわり
──今回は古びた風車やモッシンガム港、巨大な貨物船など、これまで以上に大規模な舞台が登場します。特に貨物船は、アードマン史上最大級の小道具だったそうですね。こうした大きなセットを作ることになった背景と、ストップモーションならではのスケール感を実現するうえで、どのような工夫や苦労があったのでしょうか。
スティーブ・コックス監督
今回の映画では、色彩、スケール、ワクワク感、そしてライティングなど、あらゆる要素をスケールアップさせたいと考えていました。そのため、ショーンの世界観にふさわしい範囲で、すべてをできる限り大きく作り上げたんです。ですから、風車小屋と船という2つの大きな見せ場での臨場感や興奮は、素晴らしいものになっています。船は、おそらく僕たちがこれまでに作ったなかで「最も横に長いセット」で、風車小屋は「最も背の高いセット」だと思います。映画のスケール感を際立たせるうえで、とても大きな効果がありました。
マシュー・ウォーカー監督
ええ、船のサイズも、やはり「ストーリー上の要請」から生まれたものなんです。というのも、船倉に積み上げられた大量の木箱のなかで、特定の木箱、つまりケージを見失ってしまうという展開を描きたかったからです。巨大な船のなかで木箱が激しく滑り落ちていくような、派手なアクションシーンを作りたいと考えた結果、あのスケールの船が必要になりました。ただ、実際の映画制作では、「やりたいこと」と「物理的にできること」のバランスを見つけるのが常に難しいんです。実は、船の最初のアイデアは今よりもさらに大きかったんですよ(笑)。ところが、「スタジオに入り切らない」「予算オーバーになる」と分かって、「では、自分たちに実現できる現実的なサイズはどこまでなのか?」と考え直すことになりました。そこで、アート部門や現場のスタッフ全員と常に話し合いながら、どこまで可能なのかを模索していったんです。
スティーブ・コックス監督
それに、スケールの多くは「パペットの大きさ」によっても決まるんです。怪物のサイズがこれくらいだから、それを入れるケージはこの大きさになる。そして、そうなると船全体もこれくらい大きくしなければならない……というように。すべてはキャラクターたちのサイズ感から逆算して導き出されているんですよ。

──大きなセットだけでなく、“マッドサイエンティスト”になったショーンの二層式のゴーグルや、オックスフォードの職人が吹きガラスで作った実験器具など、細やかな小道具にも驚かされました。ラボのセットを含め、制作現場で特にこだわったディテールや、印象に残っているものを教えてください。
マシュー・ウォーカー監督
ラボのセットは本当に大好きですね。アートチームが見事に作り上げてくれた、素晴らしいセットです。ここにはあらゆる種類の小道具が使われていて、この作品のために新しく作ったものもあれば、過去のテレビシリーズから持ってきて再利用したものもあります。
特に注目してほしいディテールをひとつ挙げるとすれば、メインの瓶や試験管、ボトルなどの「ガラス器具」ですね。これらはすべて本物のガラスで作られていて、オックスフォードのガラス職人が手作業で吹きガラスとして制作したものなんです。映画のために特別に作られたもので、手仕事の技が光る、繊細で美しい仕上がりになっています。
スティーブ・コックス監督
僕たちがすごく気に入っている、もうひとつの要素がエフェクト全般ですね。スパーク(火花)や電流といった電気のエフェクトです。これらはすべて、スタジオに所属している素晴らしい2Dアニメーターのスタッフが、昔ながらの手描きで制作したものなんです。ストップモーションで撮影した映像の上に、コマごとに絵を描いて重ねていきました。これは、80年代の映画、たとえば『インディ・ジョーンズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で使われていたような、手描きならではの稲妻のエフェクトを再現したかったからです。ちょっとした「B級映画」っぽい、レトロな味わいを出したかったんですよ。

──アードマン・アニメーションズ設立50周年、そして「ひつじのショーン」誕生30周年という節目に、ハロウィンやホラー、怪物、映画オマージュといった新しい要素にも挑戦されました。一方で、ショーンの「キャラクター」と「ユーモア」は変わらず物語の中心にあります。長く愛されてきたキャラクターに新しい物語を与えていくうえで、これからも変えずに守っていきたいもの、そして新たに挑戦していきたいことは何でしょうか。
マシュー・ウォーカー監督
これからも新しいテレビシリーズや映画が作られていくと思います。僕たちが映画を作るときに常に意識しているのは、「キャラクターの根幹は決して変えない」ということです。もちろん、キャラクターにとっての新しい試練や、語るべき新しい物語は見つけていきたいと思っています。でも、どんな物語であっても、「キャラクター」と「ユーモア」が常に中心にあります。
これはショーンに限らず、『ウォレスとグルミット』をはじめ、アードマンが手がけるすべての作品に共通していることです。あらゆるストーリーは、キャラクター自身から生まれてくる。それこそが、僕たちのストーリーテリングの核なんです。ですから大切なのは、「この魅力的なキャラクターたちを使って、次はどんな新しいストーリーを語ることができるか?」ということです。
彼らをどんな新しい、ワクワクする場所へ連れていけるのかを考えることこそ、僕たちの制作プロセスのなかで、最も刺激的で楽しい部分なんですよ。

<PROFILE>
マシュー・ウォーカー(MATTHEW WALKER)監督
ブリストルを拠点に活躍する脚本家、監督、ストーリーアーティスト。
2005年にアニメーション業界に入り、CM、TVシリーズ、長編映画など多岐にわたり活躍。『Astronauts(原題)』、『John and Karen(原題)』、『Operator(原題)』など数々の受賞歴を持つ短編映画の監督として知られる。アードマン作品では『Lloyd of the Flies(原題)』シリーズ(2022年)の企画・開発を手がけ、脚本とシリーズディレクターも担当。そのほかに『モッシーボトムの大騒動』(2020年)のエピソード執筆・監督、『ひつじのショーン ~クリスマスの冒険~』(2021年)や『チキンラン: ナゲット大作戦』(2023年)の絵コンテ制作を手掛けた。「ひつじのショーン」シーズン7(2025年)でも脚本およびシナリオディレクターを務めている。
スティーブ・コックス(STEVE COX)監督
英ブリストルのアードマンを拠点に活動する脚本家、監督、アニメーター。
マンチェスターのHotAnimationでキャリアをスタートさせ、『ボブとはたらくブーブーズ』のアニメーション制作や、「ピングー」の脚本・監督・アニメーションを手がけた。その後“クレイアニメの聖地”ブリストルに拠点を移し、『ザ・パイレーツ! バンド・オブ・ミスフィッツ』(2012年)や『チキンラン: ナゲット大作戦』(2023年)などアードマンの数々の長編作品でアニメーター、監督、開発を歴任。近年では、アードマン初の「スター・ウォーズ」作品『I Am Your Mother』(2023年)のアニメーション監督に加え、「ひつじのショーン」のTVシリーズや、クリスマス・スペシャル『ひつじのショーン ~クリスマスの冒険~』(2021年)の監督を務めている。

左:スティーブ・コックス監督、右:マシュー・ウォーカー監督
『映画 ひつじのショーン かぼちゃ畑の怪物!』10月23日(金)新宿ピカデリーほか全国公開!
『映画 ひつじのショーン かぼちゃ畑の怪物!』新予告60秒
www.youtube.com<STORY>
ハロウィンを間近に控えたモッシーボトム牧場。ショーンと仲間たちは、ティミーのために、牧場の片隅に秘密のかぼちゃ畑を作り、パーティー用の大きなかぼちゃを育てていた。
しかし獣医さんが牧場にやってきたことをきっかけに、とんでもない事故が発生。おっちょこちょいの牧場主が大切なかぼちゃ畑を踏み荒らし、かぼちゃを全滅させてしまったのだ。
せっかく育てたかぼちゃャを失い、ティミーはすっかり落胆。そんなティミーの姿を見たショーンは、「何とかしなければ!」とひとり策を練る。そんなとき、ショーンは納屋で古い科学の本を発見。その本をヒントに、残ったカボチャの種をわずかな時間で大きく育てる“急成長ポーション”を作ろうと思いつく。ゴーグルや白衣、ゴム手袋などを身につけて、すっかりマッドサイエンティスト気分なショーン。牧場近くにある古びた風車小屋を実験室に改造し、怪しげな装置を次々と組み立て、なんとポーションの実験も成功させる。みんなでかぼちゃの成長を待つことに。
ところが、ショーンの発明は思いもよらない方向へ転がり始める。残ったポーションを入れた空き瓶は牧場主の手に渡り、何も知らない牧場主は獣医さんをハロウィンのダンスパーティに誘おうと、モッシンガムの街へ繰り出す。
一方、ハロウィンの装飾で賑わう街にはもじゃもじゃの怪物が出現し、住民たちは大パニックに陥って……。
ショーンたちは無事にハロウィン・パーティーを楽しむことができるのか? そして、モッシンガムを恐怖に陥れた“怪物”の正体は?ショーン史上最大級の騒動は、やがてハロウィンの夜を揺るがす大冒険へと発展していく!
<STAFF&CAST>
監督:スティーブ・コックス、マシュー・ウォーカー
脚本:マーク・バートン、ジャイルズ・ピルブロー
2026年/イギリス・フランス/カラー/ビスタ/5.1ch/81分/アニメーション
原題 Shaun the Sheep: The Beast ofMossy Bottom
配給:松竹
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