NYの片隅でパンク/ニューウェイヴが形づくられていく瞬間を描く
1970年代ニューヨークの片隅に、誰も気に留めない小さなバーがあった。後に世界の音楽史を揺るがす伝説的ライブハウス“CBGB”である。創設者ヒリー・クリスタルが掲げた「オリジナル曲のみ」という異例のルールが、行き場を失っていた若いロック・バンドを引き寄せる。テレヴィジョン、パティ・スミス、ラモーンズ、ブロンディ、トーキング・ヘッズ——後にロック史を塗り替える面々が、この小さなステージに立った。壁の落書き、剥がれた壁、汚れたトイレ、天井の水漏れ。混沌とした空間は、後にロック史を塗り替える若者たちが自分の声を見つける“実験場”として機能し始める。同時期に誕生した自主制作カルチャー誌「Punk Magazine」もまたCBGBと密接に結びつき、音楽・アート・文章が渾然一体となった“パンク文化”を形づくっていった。
10.23『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』特報
youtu.be監督は独立系作品で知られるランドール・ミラー。主人公ヒリーを演じるのは映画「ハリー・ポッター」シリーズのスネイプ先生役で知られるアラン・リックマンで、頑固さと不器用な情熱を独特の存在感で体現し、混沌と偶然と情熱が交差する中でパンク/ニューウェイヴが形づくられていく瞬間を鮮やかに描き出す。
アラン・リックマン「彼の頑固さが多くのアーティストの未来を開いた」
本作の核は、パンクの象徴として語られるCBGBの神話ではなく、その中心にいた店主ヒリー・クリスタルという一人の人間だ。
ランドール・ミラー監督と脚本家ジョディ・サヴィンが惹かれたのは、破産を繰り返しながらも「オリジナル音楽を支持する」という信念だけで店を続けたヒリーの精神だった。ミラーは彼を「不器用で頑固だが、結果的に革命を起こした人物」と捉え、サヴィンも「彼の頑固さがパンクの温床を作った」と語る。そのヒリーを演じるために選ばれたのがアラン・リックマンだった。ミラー監督は「静かなユーモアと、言葉にしない強さがヒリーに重なる」と起用理由を語る。

リックマンは実在のヒリーの映像を研究し、猫背気味の姿勢、言葉を発する前の独特の“間”、店内を歩くときの重心の低さまで丁寧に再現した。彼の演技は、ヒリーが戦略家でも理論家でもなく、ただ“新しい音楽を聴きたい”という純粋な欲求で場を開き続けた人物であることを静かに伝えている。
娘リサを演じたアシュリー・グリーンは、奔放な父に振り回されながらも店の混沌に惹かれていく複雑な感情を重視。彼女の視点が加わることで、CBGBは単なる音楽の聖地ではなく、家族の葛藤や不器用な愛情が渦巻く“生活の場”としても描かれる。
さらに、デッド・ボーイズのチーター・クローム本人が撮影に協力し、ルパート・グリントらキャストに当時のステージの空気を直接伝えたことで、ヒリーが支えた若者たちの“生の熱量”が作品に宿っている。制作陣は史実の完全再現よりも、CBGBが持っていた“エネルギー”を伝えることを優先し、タイムラインの簡略化や人物の登場順の調整を行った。

リックマンは「ヒリーは完璧ではない。しかし彼の頑固さが多くのアーティストの未来を開いた」と語る。映画は、偶然と混沌と頑固さが交差した瞬間に生まれたパンクの原点を、ヒリーという一人の人間の物語として描き出している。
『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』
10月23日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
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