SCREEN編集部が特に注目するキーパーソンに光を当てる恒例のシリーズ“今月の顔”。まもなくSCREENが創刊80周年を迎えるのを記念して、今月から、この80年の間、本誌を彩って来た往年のスターたちから、今もう一度スポットを当てたい俳優をクローズアップする特別版をお届けします。今回は「ハリー・ポッター」シリーズのスネイプ先生役で人気を博し、日本未公開のままだった主演作『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』がようやく上陸する英国男優アラン・リックマンを取り上げます。(文・大森さわこ/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:Photo by Grant Lamos IV/Getty Images

来日時の素顔はヴェルヴェットのジャケットをさらりと着こなす知的なジェントルマン

英国の男優、アラン・リックマンの訃報が届いてから10年が過ぎた。その落ちついた佇まいの中に本物の俳優だけが持つ確かな存在感があり、2016年に69歳で他界後も静かな人気が続いている。ひとつには「ハリー・ポッター」シリーズ(01〜11)で演じたスネイプ先生役の影響も大きいのだろう。今年の秋には劇場未公開の『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』(13)も公開され、久しぶりに彼の演技をスクリーンで堪能できる。1998年の来日インタビューの言葉もいれながら、改めて彼のキャリアをたどり直してみたい。

最初にアランが俳優として注目されたのはブルース・ウィリス共演の大ヒット作『ダイ・ハード』(88)に出演した時だ。この時はテロリスト集団のボス役で、一見、ダンディな紳士に見える悪役という設定が新鮮だった。すでに42歳で、映画界ではひじょうに遅咲きのキャリアが始まる。

そのキャリアをたどると、俳優としてもスタートが遅かったことが分かる。1946年2月21日、ロンドンのワーキング・クラスの家庭に生まれた彼は、子供の頃から絵が得意で、成長後はロイヤル・カレッジ・オブ・アートなど美術系の学校に通い、グラフィック・デザイナーとなった。しかし、26歳の時に俳優を志し、名門のRADA(王立演劇アカデミー)で演技を学ぶ。卒業後はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなど舞台の仕事が中心だったが、出世作となったのは85年の舞台「危険な関係」で、危ういプレイボーイ役でブロードウェイのトニー賞にもノミネート。それがハリウッド進出にもつながった。

98年に監督デビュー作『ウィンター・ゲスト』(97)で宣伝のために来日したアランに話を聞く機会があったが、デザイナーから俳優への転身について「往々にして人はひとつの道だけに縛られるけれど、チャンスがあれば途中で変えてもいいと思う。あの時は自分に何ができるのか試したいと思った」とコメントしていた。また、『ダイ・ハード』で有名になった後は、『ロビン・フッド』(91)で再び悪役を演じて英国アカデミー賞助演男優賞受賞。同年に公開の『愛しい人が眠るまで』(91)では同賞の主演男優賞候補となっているが、こちらの映画では愛する人を見守るロマンティックなチェリストに扮した。役のふり幅が大きいが、これに関しては「ひとつの決まった路線に入れられるのは俳優として不幸だと思う。私自身はメリハリのある役選びをしたい」と語っていた。

神経を使う役に出会うこともあり、アイルランドの独立運動にかかわり、後に大統領となる人物を演じた『マイケル・コリンズ』(96)については「実在の人物を演じるのでプレッシャーも感じた。私が演じた人物は歴史的に見ると賛否両論あるが、私自身は客観的な判断を下して役を演じた」と答えていた。この映画やジェーン・オースティン原作の『いつか晴れた日に』(95)では、英国アカデミー賞助演賞候補となっている。また、テレビの「ラスプーチン」(96)ではゴールデン・グローブ賞とエミー賞も受賞している。

『ウィンター・ゲスト』で来日した時の素顔はヴェルヴェットのジャケットをさらりと着こなす知的な紳士だった。自身の監督業に関しては「デザイナーとしての道は実は監督への道につながっていたと思う。どちらも見ることが大事で、瞬時に判断して、全体の構図を考えなくてはいけないからね」とその共通点を指摘していた。

「ハリポタ」のスネイプは悪役の側面もありながら悲哀を誘う面も持つ魅力的な役

そして、01年から11年にかけて「ハリー・ポッター」シリーズに出演する。ここで演じたスネイプ先生は陰険で冷酷な教師に思えるが、途中からは別の側面も見せ、終始、謎めいた人物像だ。当時、悪役的な要素もある役を演じることに気乗りではなかったようだが、原作者のJ・K・ローリングに説得され、出演を決意したといわれている。取材時に、悪役に関しては「すべての人物をひとくくりで語ってほしくない。たとえば、『ダイ・ハード』と『ロビン・フッド』では同じ悪役でも全然違うキャラクターだからね」と冷静な口調で語っていた。スネイプの場合、悪役の側面もありながら、生涯愛し続けた女性への純粋な思いも描かれ、その悲哀が胸を打つ。このシリーズ中、特に記憶に残るキャラクターのひとつであることは間違いない。

他にも等身大の魅力を見せた編集者役の『ラブ・アクチュアリー』(03)、娘思いの父親役の『パフューム ある人殺しの物語』(06)、ティム・バートン監督と組んだ『スウィニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』(07)や「アリス・イン・ワンダーランド」シリーズ(10〜16)など忘れがたい出演作も多い。今回、日本で初上映の『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』ではニューヨーク・パンクの発火点となる伝説のクラブの経営者役で、いつもと一味違うラフで型破りな人物像を見せている。

かつての来日時に語ったように、メリハリのある多彩な役を演じてきたアランだが、英国では低めのヴェルヴェット・ヴォイスも魅力のひとつといわれていた。彼の演技には時間を経ても古びないクオリティがある。その静かな人気は今後も続いていきそうだ。

アラン・リックマン プロフィール

1946年2月21日、イギリスのロンドン生まれ。グラフィック・デザイナーとして働いていたが、演劇に目覚め、26歳で王立演劇アカデミーに入学。舞台を中心に俳優活動をしていたが、42歳の時『ダイ・ハード』(88)で映画界入り。ハリウッド大作から英国製の小品まで、幅広い作品で様々な役を演じ、「ハリー・ポッター」シリーズのスネイプ役で世界中にファンを広げる。『ウィンター・ゲスト』(97)『ヴェルサイユの宮廷庭師』(14)では監督も。2016年1月14日、すい臓がんのため死去。享年69。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』

画像: 『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』

1970年代のニューヨーク。治安の悪いロウアー・イーストサイドにあった小さなバー、CBGBは、後に世界の音楽史を揺るがす伝説的ライブハウスとなった。この店の小さなステージに立ったのは、後年ロック史を塗り替える面々、“テレヴィジョン”“トーキング・ヘッズ”“ラモーンズ”、パティ・スミス、ブロンディなどなど。このCBGBを開業したのは人生のどん底にいた男ヒリー・クリスタル。最初は閑古鳥が鳴いていた店は、やがて無名の若きミュージシャンが集結する“パンクの聖地”となっていく…。再起を目指す夢破れた男ヒリーを演じるのは「ハリー・ポッター」シリーズなどの故アラン・リックマン。共演にはルパート・グリントら。監督はランドール・ミラー。

10月23日(金)公開
『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』

原題:CBGB
監督:ランドール・ミラー
出演:アラン・リックマン、マリン・アッカーマン、ジャスティン・バーサ、ルパート・グリント
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
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