「麗しのサブリナ」のサブリナ Sabrina (1954)
印象的なドレスを自ら当時の気鋭デザイナー、ジバンシーに依頼
ワイラーと同じくハリウッドの黄金期を代表する名匠、ビリー・ワイルダーが、サミュエル・テーラーの戯曲「サブリナ・フェア」をオードリー主演で映画化。ロングアイランドに豪邸を構える実業一家、ララビー家に仕える運転手の娘、サブリナが、放蕩息子の次男、デビッド(ウィリアム・ホールデン)への適わぬ恋を精算するために出かけたパリで、見違えるように洗練され、帰還。今度は自分から夢中になったデビッドとサブリナを別れさせるために介入したはずの長男のライナス(ハンフリー・ボガート)が、いつしかサブリナに心を奪われる。
パリに武者修行に出かける前のポニーテールとジャンパースカート、パリから戻った後のサブリナパンツとフラットシューズ。どちらも、オードリーの子鹿のようなフォルムにマッチして、中でもサブリナパンツは今や女の子たちの定番アイテムに。変身後のサブリナがヨットパーティのシーンで着るベアトップのイブニングを、オードリーは当時新進気鋭のデザイナーだったユベール・ド・ジバンシーに自らオーダー。「ローマの休日」の時より濃く、強く描かれた“ガルウィング”とアイラインが、モノクロの画面に映えまくって眩しいほどだ。
「ローマの休日」のアン王女 A Roman Holiday (1953)
記録的猛暑のローマで撮影現場を活気づかせた爽やかな新星
ハリウッド初の海外ロケ映画で作品の成否を決定づける主演女優を物色していた監督ウィリアム・ワイラーの心を捉えたのは、“カット”の声がかかった後、大喜びする1人の無名女優の屈託のない笑顔だった。それが、オードリーだった。こうして、公務から逃れて自由を謳歌するプリンセス役を手中にした彼女は、当時のローマを襲った記録的猛暑で疲労困憊の現場を、終始その瑞々しい演技と笑顔で活気づかせる。ワイラーや共演のグレゴリー・ペックを始め、撮影関係者全員がオードリーの虜になった。
トレビの泉近くの美容院でロングヘアを短くカットしてみたものの、その変化を受け容れられずへこむ時、ラストの会見場で立場の違いから別れを決意したものの、変わらぬ友情をペック演じるジョーに言葉と目で伝える時、すべてが期待以上だったのだ。オードリー自らがヘアメイクに指名したアルベルト&グラツィア・デ・ロッシ夫妻による“ヘプバーンカット”、“ガルウィング(カモメの翼)”と呼ばれる眉尻が細い斬新な眉毛は、衣装デザイナー、イーディス・ヘッドがデザインした開襟シャツとフレアスカートのミニマムなコーデと共に、オードリーのイメージを決定づけるアイテムになった。
「パリの恋人」のジョー Funny Face (1957)
バレエのセンスを生かしたミュージカル
グリニッジビレッジの本屋で働く女の子が、ファッション雑誌のキャンペーンガールに抜擢され、撮影地のパリで女性として脱皮する。シンデレラ物語を歌と踊りに乗せて綴るミュージカル映画は、女優デビュー前に培ったバレエのセンスを生かし演じるオードリーと、彼女をリードするハリウッドミュージカルのレジェンド、フレッド・アステアの劇的な共演作。オードリーは後に「アステアにリードされて踊るのはすべての女の子の夢でした」と振り返った。
衣装はジバンシー。話は撮影シーンを演出したカメラマン、リチャード・アヴェドンの実体験が基と言われる。監督はモードアイコンとしてのオードリーを誰よりも熟知するスタンリー・ドーネンだ。
「戦争と平和」のナターシャ War and Peace (1956)
生来の感性で貴族の気品を漂わせる
ロシアの文豪、トルストイの原作をビスタビジョン、ワイドスクリーンで映像化した壮大な大河ドラマ。帝政ロシア末期のモスクワで、進歩的な貴族の青年ピエールと伯爵令嬢のナターシャが戦乱を潜り抜け、愛を全うしていく。
ローマのチネチッタ・スタジオ内に建造されたモスクワの宮殿や、15000人のエキストラを投入した戦闘シーンは、どれもスペクタクルの極致だが、オードリーはここでも背景に負けない貴族の気品を、生まれ持った感性と、美しいワードローブの力を借りて体現。ナターシャが窓から突然姿を現す衝撃的な登場シーンは、後に同名のソビエト映画(67)でナターシャを演じたリュドミラ・サヴェーリェワによって克明に再現された。
「昼下りの情事」のアリアーヌ Love in the Afternoon (1957)
ビリー・ワイルダーが再びオードリーをヒロインに指名。パリで私立探偵業を営む父親に感化され、父が浮気調査するプレイボーイに身分を偽り接近する主人公、アリアーヌが、希代の遊び人を本気にさせるまでを描く珠玉のロマコメ。
コンセルヴァトワールでチェロを学ぶ本当はまだ子供のアリアーヌが、父親のファイルに記された情報を自分が体験したことのように話して、ゲーリー・クーパー演じるフラナガン氏を嫉妬させるプロセスは、オードリーの実直な演技とも相まって終始ドキドキさせる。毛先を内側にカールにした“アリアーヌ・カット”、頭をくるんだスカーフを首で結ぶ“アリアーヌ巻き”等、ここでも役名が付いたヘアと着こなしが大ヒット。