87歳の今もコンスタントに新作を撮り続け、第一線で活躍を続けるクリント・イーストウッド監督。そのキャリアは役者としては60年以上、監督としても40年以上を数えます。監督最新作「15時17分、パリ行き」で再び脚光を浴びる今、7つのキーワードを通して巨匠の魅力について改めて探ってみましょう。(文・相馬学/デジタル編集・スクリーン編集部)

巨匠監督を7つのキーワードで紐解くクリント・イーストウッド研究

KEYWORD 01: マルパソ・プロダクション

イーストウッド監督の特徴の一つは〝早撮り〞であること

イーストウッドは1968年に、自身の映画製作会社マルパソ・プロダクションを設立して第一回作品『奴らを高く吊るせ!』を製作。それは現在に至るまで、彼が関わったほぼすべての作品の拠点となる。“マルパソ”とはスペイン語で“険しい道”のことだが、イーストウッドは困難に遭っても折れずにコンスタントに製作を続けた。気心の知れたスタッフと長年組むことで家族的な制作体制を築き上げ、撮影は効率化。ハリウッドの大手スタジオなら通常3年以上かかる映画製作も、マルパソでは一年ほどで作れてしまう。イーストウッドの監督作では撮影スケジュールが遅れることは皆無に等しく、むしろクランクアップ予定日よりも早く撮り終えるのが常だ。

KEYWORD 02: 実録映画

イーストウッドは実話の映画化を好む。古くは『バード』(1988)、『ホワイトハンター ブラックハート』(1990)など、近年も『インビクタス/負けざる者たち』(2009)、『J・エドガー』(2011)、『アメリカン・スナイパー』(2014)など映画賞を賑わせた力作を放っている。単に事実を追うのではなく、ある事件や偉業に至った人々のドラマに焦点を絞っているのがミソ。『ハドソン川の奇跡』(2016)では、墜落事故から乗客を救うも過失の容疑を向けられたパイロットが、いかにして笑顔を取り戻すに至ったかが描かれ、最新作『15時17分、パリ行き』(2018)では列車テロを防いだ旅行者たちの背景が描かれた。いずれも人間の本質に迫るドラマに仕立てている点がミソだ。

KEYWORD 03: 音楽ファン

自身もジャズ・ピアノの腕は相当なモノ(抱えているのが息子のカイル)
Photo by John Bryson/The LIFE Images Collection/Getty Images

イーストウッドは大の音楽好きで、とりわけジャズの大ファン。『15時17分、パリ行き』のエンドクレジットでジャズ風の軽やかな音楽をフィーチャーしているのはもちろん、天才サックス奏者チャーリー・パーカーの伝記ドラマ『バード』を撮ったことも。自身もジャズ・ピアノの腕は相当なモノで、ドキュメンタリー『ピアノ・ブルース』ではその魅力について語っている。他にも、カントリー歌手にふんした『センチメンタル・アドベンチャー』(1982)で歌声を聴かせたり、『トゥルー・クライム』(1999)で挿入歌の作曲を担当したり、別監督作『さよなら。いつかわかること』(07)で音楽を手がけたり。そんな才能はミュージシャンとなった息子カイルに受け継がれている。

KEYWORD 04: 西部劇

西部劇はイーストウッドをスターに押し上げたジャンル。無名時代に出演したTVシリーズ「ローハイド」のカウボーイ役で注目を集め、イタリアで主演した『荒野の用心棒』(1964)の“名無しの男”役でブレイク。正義の味方とは程遠いニヒルな存在感は、続くマカロニウエスタン『夕陽のガンマン』(1965)、『続・夕陽のガンマン』(1966)でも活き、観客にアウトローのかっこよさを鮮烈に印象付けた。ハリウッドに戻ってからも、このジャンルに精力的に取り組む。マカロニ時代に組んだ鬼才セルジョ・レオーネの影響が色濃い『荒野のストレンジャー』(1973)、『ペイルライダー』(1985)はオカルト風の妙味が効いた快作。『アウトロー』(1976)も名作だが、何といっても自身が演じてきた悪党にけじめを付けたかのような『許されざる者』(1992)は必見。

KEYWORD 05: アンチヒーロー

「ダーティハリー」で演じた刑事はアンチヒーローの代名詞に
Photo by Warner Brothers/Getty Images

西部劇で演じた多くの役がそうであったように、イーストウッドは現代劇でも善とも悪ともとれない、アンチヒーロー像を得意としてきた。好例は言うまでもなく、サンフランシスコ市警の一匹狼の刑事を演じた『ダーティハリー』(1971)だ。規律から逸脱し、暴力的なまでに俺流を貫くはみ出し刑事像が好評を博して、後にシリーズ化されたばかりか、同年の『フレンチ・コネクション』と並び、『ダイ・ハード』等の後の刑事アクションの源流になった。同じく刑事モノの『タイトロープ』(1984)ではさらにヒネリが効いており、殺人事件を追う主人公は倒錯した性的嗜好の持ち主。また、『目撃』(1997)では、大統領による殺人を目撃した泥棒の奔走が描かれた。

KEYWORD 06: 実はダメ男!?

男らしくて骨っぽいイメージのあるイーストウッドだが、人間の情けない部分を打ち出した作品も決して少なくない。『ガントレット』(1977)で演じた刑事は年金をもらうことを楽しみにしている事なかれ主義者で、『ダーティハリー』とはまさに正反対。名匠ジョン・ヒューストンの実話を基にしている『ホワイトハンター ブラックハート』では映画監督のエゴをさらけ出した。また、『トゥルー・クライム』では落ちぶれた新聞記者役に。『センチメンタル・アドベンチャー』『許されざる者』もそうだが、酒で人生をダメにしてしまったケースも多い。ヒーローではなく、あくまで生身の人間を語るのは、イーストウッド作品の本質でもあるのだ。

KEYWORD 07: 家族

役者として活躍目覚ましい息子のスコットと
Photo by Silver Screen Collection/Getty Images

イーストウッドは家族を自作に起用することでも知られている。息子のひとり、カイルは『センチメンタル・アドベンチャー』で主人公の甥を演じて子役として賞賛された後、ジャズ奏者として成功。『硫黄島からの手紙』(2006)、『グラン・トリノ』(2008)等の父の監督作に音楽を提供してもいる。その妹、アリソンも父の作品に子どもの頃から出演し、『タイトロープ』では父娘役で共演。そのまた下の弟で、役者として活躍目覚ましいスコットも『父親たちの星条旗』(2006)以降、度々父の監督作に顔を見せている。また私生活のパートナーでは、結婚こそしていなかったが長年、恋仲にあったソンドラ・ロックが、『アウトロー』以後の6作品でヒロインを務めた。

インタビューと注目作品ベスト3はこちら

監督最新作「15時17分、パリ行き」の作品紹介はこちら

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.