「日本のヌーベルバーグの到来を感じさせる新たな才能が現れた」と賞賛も
すでに「ハッピーアワー」で知られる濱口監督は、新作「寝ても覚めても」でいきなりコンペティション部門に選出されるという快挙。師匠である黒沢清監督がまだ果たしえないコンペ部門入選をあっさりやり遂げたのだ。この作品は、突然姿を消した恋人とそっくりの顔した男性が現れ、全く性格の違う彼を好きになっていく若い女性の恋愛ドラマ。芥川賞作家・柴崎友香の小説が原作で、「まず原作を読んで面白いと思ったのが映画化のきっかけで、柴崎さんからは自由にやって構わないが、登場人物たちが使う大阪弁だけは完璧にしてほしいと言われました」と、14日の公式上映後の会見で濱口監督は速いテンポで語り出す。ヒロインには唐田えりか、恋人の男性の亮平と麦には東出昌大が一人二役に挑んだ。そんな彼らと共に訪れた初めてのカンヌに感じ方はそれぞれだが、一様に夢見心地で興奮気味だった。
「カンヌは映画青年にとって憧れの地。初めて作品で参加できて素直に嬉しい。文化の異なる海外の観客がどう反応するのか全くわからず、しかも物語が観客を逆なでするような最後の展開もあって不安だった。こんなに温かい拍手をいただき、カンヌにも通じたと思った」と濱口監督は自信をつけたようだ。するとモデル出身だけあってタキシード姿がとても似合う東出が「実は撮影当初からカンヌを狙っていこうと言い合って作ったのです」と打ち明けた。監督の映画愛と東出と唐田の好演があってこそ、カンヌに来られたのだと信じる。
翌15日のプレス会見では、海外の記者たちから細かな質問が飛んだ。ヒロインの正面カット撮影のことや、東日本大震災の現場に主人公の二人が復興ボランティアで訪れるシーンのことなど。そして「日本のヌーベルバーグの到来を感じさせる新たな才能が現れた」と濱口監督を讃える声が聞かれた。とにかく自分の映画のやり方、作り方を堂々と話す39歳の監督に頼もしさを感じた。
宮崎監督や高畑監督たちからバトンを受け継ぐつもりでアニメによる表現を続けていきたい
一方、すでに「時をかける少女」から「サマー・ウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」それに「バケモノの子」に至るまで、日本のアニメ界で着実に実績を積んでいる細田守監督は、最新アニメ「未来のミライ」が映画祭と並行して開催される監督週間に選ばれ、5月16日に公式上映された。そのこれまでの作品がすでにフランスで公開されていることもあって、人気は半端ない。
この「未来のミライ」は日本公開が7月20日だからカンヌでの上映は世界初となった。これは4歳の男の子くんちゃんが未来から来た妹ミライちゃんと時を超えて家族の未来をめぐる旅に出るというもの。そのくんちゃんの声を吹き替えた上白石萌歌とステージに上がった細田監督。上白石のフランス語による挨拶で会場が盛り上がる中、「どこにでもある一つの家族の物語を通して、何千年にも続く人生のループみたいなものを描きたいと思って作りました」と語り、喝采を浴びた。
また「映像による映画にはまだ描き切れない未知の領域があり、それをアニメの技法を使って描くことができたらと、常にそれを意識しながら作っている。これまでたくさんの作品を生み出してきた宮崎駿監督や高畑勲監督たちからバトンを受け継ぐつもりで、さまざまな挑戦を繰り広げてアニメによる表現を続けていきたい」とも語った。
是枝裕和監督とは手法が異なるが、同じ家族というテーマを追究する細田監督と、意外なテーマと巧みな映像演出で観客を魅了する濱口監督。もっともっと世界へ羽ばたきそうで、今後が大いに期待される日本の才能である。