毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が〝最高品質〞の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は文豪ディケンズの名作小説『クリスマス・キャロル』の誕生秘話を描く「Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男」です。

「Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男」
2018年11月30日公開
監督/バハラット・ナルルーリ
出演/ダン・スティーヴンス、クリストファー・プラマー、ジョナサン・プライス
170年以上にわたって世界中で愛読され、クリスマス文学の金字塔として幾度も映画化されてきたチャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』。その誕生秘話をファンタジー感たっぷりに映画化。ディケンズ役に「美女と野獣」で野獣役を演じたダン・スティーヴンス、小説内の登場人物であるスクルージ役に「人生はビギナーズ」のオスカー俳優クリストファー・プラマー。監督はドラマ界でも活躍するバハラット・ナルルーリ。

編集部レビュー

最高のおとぎ話を作った人を題材にしたおとぎ話

文豪ディケンズなんていうから、厳めしいイメージを持っていたけど、そんな人を軽妙ににぎやかに描いているのが何とも楽しい。ダン・スティーヴンスが大きな目を見開いて“ひぇ〜、アメリカはこりごりだよ”なんていいじゃない。

なるほど、ディケンズの生い立ちって結構悲惨だったのね、とか『クリスマス・キャロル』って自費出版だったの!?とか、へぇ〜なネタは山盛りだけど、果たして日本の観客にどこまで響くか。そもそも事実と空想が絡み合っているから100%リアルともいえないし。むしろ、世界最高のおとぎ話を作った人をモチーフにしたおとぎ話として、ワクワク感を楽しむべき。

口幅ったいけど、クリスマスにふさわしい優しさとか慈しみとかが素直に胸に沁みる作品に仕上がっています。特に素直な新人メイド、タラの存在がよかったな。って、ここ実話!? そりゃびっくり。

レビュワー:近藤邦彦
編集長。日本語吹替え版で見たんだけど楽しかった。タラ役齋藤茉日の声が印象的。「ブラパン」のシュリ役百田夏菜子以来のインパクト。

『クリスマス・キャロル』の温もりは今も色あせない

今では想像もつかないけれど、数年前のハロウィンと同じく、クリスマスも一昔前は特別な一日ではなかった。そんな一日を、小さな幸せや感謝を噛みしめる“聖夜”として定義し直したのが小説『クリスマス・キャロル』だった。

その『クリスマス・キャロル』は何度も映像化されているが、本作が斬新なのはその小説の誕生の過程を描いた点。クリスマスの“発明者”ディケンズの半生は、意外にも幸福なものではなかった。実家は破産し、幼い彼も劣悪な環境の工場で働かされた。

本作はそうした彼の暗い過去がなぜあの小説に結実したのかを解き明かしていく。トラウマから目を背けていた作家が、やがて真の愛に目覚めていく姿はスクルージそのもの。そう、これはもう一つの『クリスマス・キャロル』なのだ。名作の温もりが今も色あせないことを本作は教えてくれる。

レビュワー:疋田周平
副編集長。本作はファンタジーですが、人物造形などはちゃんと史実が反映されています。実際のディケンズも手品好きだったらしいです。

クリスマスにネガティブな人こそ見て欲しい

クリスマスなんて忙しい年末のただの一日。年の瀬の焦燥感と相まってむしろ嫌い!私もどちらかというとこのタイプでしたが…そんなコチコチに固まった心をじわっと溶かすような心温まるお話で、クリスマスっていいもんだなと素直に思わせてくれる良作です。

ただし『クリスマス・キャロル』がどんな作品なのか、おさらいしておくのはマスト。余裕のない方は鑑賞前に軽く調べるだけでも、物語の理解度が違うはず。でも、決して詳しくなくても名作誕生の瞬間を目の当たりにするのはやっぱり感動的。自らの過去と向き合い、身を切るような作業を経てこそ、傑作は生まれるのかもしれません。

余談ですが、クリストファー・プラマーつながりで、「サウンド・オブ・ミュージック」をリメークするならダンが適任かも…と妄想が止まらなくなって、映画に意識を戻すのに一苦労でした(笑)。

レビュワー:阿部知佐子
物語の主な舞台でもあるディケンズの書斎が素敵でした。こんな部屋欲しい!細かい部分にまでこだわったセットや美術にも注目です。

画像: クリスマスにネガティブな人こそ見て欲しい

原作を読んでなかったけれども…

『クリスマス・キャロル』って昔ディズニー映画で無かったっけ?程度の知識で鑑賞しました。堅苦しい文豪の話かな?と思いきや全く逆で、主人公のディケンズさん、執筆の調子が上がると本の登場人物が出てきて会話し始めます。本作は『クリスマス・キャロル』ができるまでを、作者のディケンズの頭の中にある想像の世界を交えながら辿ることができるのです。

そこにはもちろん創作の産みの苦しみもつきもの。ストーリーが進むうちに、狭量なスクルージは全くの想像の人物ではなくディケンズ自身の様々な想いの投影もあるのかな?と思わせる面も。

鑑賞後は原作を読んでみたくなって速攻購入しました。この作品をふまえて、ディケンズの過去や問題アリだけど陽気な父などの彼を取り巻くちょっぴりクセのある人々に思いを馳せながら読むのも興味深いかもしれません。

レビュワー:中久喜涼子
家族や友達など、今ある縁を大切にしようという気持ちを思い出させてくれる、これからの季節にぴったりな心が温まる作品でした。

今年のXmasはツリーにサンタ、そしてディケンズ!

後世に名を残す人は周りに迷惑をかけるくらいがちょうどいい。かけられた迷惑など一瞬で吹き飛ぶほどの壮大な夢を見せてくれるから。主人公ディケンズもご多分に漏れず。気分屋で妄想家で短気だけど、子煩悩&行動的&情熱家…etc.とそれ以上の長所があり家族も親友もみな彼を信じている。

実話ベースなのでディケンズの苦悩が実を結ぶとわかっているからこそ、純粋に『クリスマス・キャロル』誕生のプロセスを味わえる。とはいえ伝記モノではなくファンタジー要素が絶妙にトッピングされており、自ら生み出したスクルージが具現化され対話までしちゃっても違和感ナシ。クリスマスが題材だからこそ現実と幻想の垣根を飛び越せたのかも!?

時代背景や原作についてよく知らない…という方は吹替版もおすすめ。わかりやすさ重視の意訳で物語にすんなり入り込めるはず!

レビュワー:鈴木涼子
アクの強い男優陣に対し、ディケンズの妻モーフィッド・クラークと新米メイドのアナ・マーフィーの妖精みたいな透明感に心奪われました♡

事前知識がないと折角の面白さが半減するかも

もう何度も映像化された『クリスマス・キャロル』は、当然何回も見てきたわけで、失礼ながらちょっと食傷気味……と思ったが、原作者であるディケンズの方から攻めてくると、これがまたひと味変わった面白さを呼ぶとは!

物語に登場する有名キャラたちが、ディケンズの周囲にいた人物から生まれてくる様は、ある程度フィクションがあるにしても、ある程度ノンフィクションと考えると、成程ねと膝を打ちたくなる。またクリスマスが当時はあまり見向きもされていない行事だった、というトリビアも良いアクセントになっていて、名作誕生秘話に一役買っている。

ただそもそも『クリスマス・キャロル』もディケンズも知らない人にとっては、どうだろうか。折角の面白さが半分以下になりそうなので、少し前知識を仕入れてから見ることをおススメしたい。

レビュワー:米崎明宏
大学ではディケンズでなく、シェリーの授業を受けたので、実は本作よりも「メアリーの総て」の方が気になっていたんですけどね。

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