「おとなの恋は、まわり道」とは?
世紀末の青春映画で輝いたふたつの星キアヌ・リーブス+ウィノナ・ライダー久々の共演作「おとなの恋は、まわり道」。かつてコッポラ版「ドラキュラ」では新婚カップルを初々しくきめたふたりが、今回はリゾート婚にしぶしぶ列席するプレ熟年の男と女のめんどくささを体現する。搭乗ロビーでの一悶着をきっかけにケンカしながらフォーリン・ラブというロマコメの王道をいくふたりだが、大人には素直になれない事情が山積み。
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もっと追いかけてみる?大人の恋愛映画
惹かれているのは歴然なのにじれったく恋を迂回し続ける。そのけんか道中を愉しむうちにそういえばと、思い出される映画たち。“お子ちゃまご遠慮願います”な大人の恋の映画の大特集、まずは遠回りの恋から追いかけてみよう。
もう一直線には進めない遠回りの恋
ロマコメも意外にお得意科目のキアヌが美形のドクター役で年上の劇作家ダイアン・キートンに大接近する「恋愛適齢期」。ここでも劇作家の娘の恋人ジャック・ニコルソンとキートンとがケンカの後のロマンスをずるずるずるりと引きずってなんとパリまで行ってしまう。さすが熟年の遠回り度=こじれ度ながら“僕たちにはパリがある”と往年の名作「カサブランカ」の台詞を合言葉にする大人の会話のセンスはさすがにディープで素敵だ。
わが道を行く監督テレンス・マリックの「トゥ・ザ・ワンダー」はパリで生まれオクラホマで立ちずさむ男と女の愛の軌跡を祈りにも似た呟きで綴る。恋を葬るまでの長い道のりを“愛にメルシー”のひと言で締めくくるクールさに大人が香る。
「ラブ・アゲイン」の場合にはいきなり妻から離婚を迫られた夫が大人げなロマンスのから騒ぎに右往左往。結局、元の鞘に収まるまでの遠回りで笑わせ、泣かせてもくれる。アキ・カウリスマキ監督作「街のあかり」は、利用されても欺かれても宿命の愛を信じて罪をかぶる男と、無視されても気づかれなくてもその彼に密かな想いを捧げ続ける女がヘルシンキの街角に咲かせる小さな恋の物語。真実の愛に気づけるのなら遠回りも悪くないと、不器用な大人が探り当てるハッピーエンドに肩入れしたくなる。
危険な香りが色濃く漂うたくらみの恋
「街のあかり」には主人公を悪事に利用するいけない女も登場する。フィルムノワールでおなじみの宿命の女、たくらみの恋。いかにも大人な恋の領分だ。日中戦争が激化する香港、上海が舞台の「ラスト、コーション」でヒロインは抗日の理想のためスパイとなりたくらみの恋に身を捧げる。同様にヒロインが密命を帯び偽装の愛の巣に囚われるヒッチコックのサスペンス「汚名」にちらりと目配せする監督アン・リーも注目だ。
戯れの恋といえばやはりフランス映画。文豪バルザック原作の「ランジェ侯爵夫人」は仕掛けた恋に自ら溺れる侯爵夫人と将軍が辿る数奇な運命を瀟洒に描いて胸ときめかせる。それに比べてアメリカのロマンスは潔癖症の子供みたいなんて嘆いていたら、その潔癖症を逆手にとってスリルに仕立てる監督トム・フォードの手際が大人な「ノクターナル・アニマルズ」が登場した。
裏切った妻をモデルに書き上げた陰惨な犯罪小説を送りつける元夫。復讐の愛のゲームに魅せられてロマンスの再燃を仄かな希望とするヒロイン。彼女のドレス、髪の赤が劇中劇の殺しのプロットに反映される多重構造。企らの恋の複雑さを操って映画そのものが観客に大人の恋のゲームを仕掛けてくる。
ロマンスよりはお・か・ねと、離婚でリッチをめざす大人な“種族”のセクシー美女。かたや離婚裁判で稼ぐ歯並び自慢のやり手弁護士。同じ穴のムジナの御両人が展開するだましだまされのバトル。その熱さ=恋の証しと思う観客はまだ青い?そんなコメディ「ディボース・ショウ」の原題はIntolerable Cruelty=堪えがたい残酷さ。大人の恋ってこわいこわい。ご用心!
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