ジャスミンの新しい歌の内容にここまできたか!と感動
父・永六輔は日本のロビン・ウィリアムズになっていたかも!?
まだ20代だった父が、ディズニー映画の日本語吹替の仕事を手伝っていたころから数えれば、ディズニー映画とのつきあいは親子三代、60年以上にもなる。オリジナルのイメージを壊さない声を探し、その声の持主が玄人素人に限らず交渉する、という仕事をしていた父の仕事は、実は裏方だけに終わらなかった。
『わんわん物語』や『バンビ』の日本初公開時には、父も〝声優〞として参加、たしかに声に特徴がある人だったので、ひょっとして、もしかしたら、日本のロビン・ウィリアムズになっていたかもしれない...
1992年の『アラジン』は、ロビン・ウィリアムズの超絶名人芸もあって、映画史に残るアニメーションとなった。アカデミー賞主題歌賞の♪ホール・ニュー・ワールドは大げさでなく、聴き飽きることのない名曲だ。映画館での上映に間に合わなかった年代の息子たちには、ビデオ(まだDVDではなかった!)を見せ、TVシリーズの『アラジン』をよく見ていたことも思い出す。
そんな『アラジン』が実写版になると聞けば、ファンとして期待と(正直にいえば)不安でいっぱいになるのは当然だろう。ジーニー役のウィル・スミスがかなり〝青い〞ということも、公開前から大きな話題になっていたし。
で、やっぱりウィル・スミスは青かった。そもそもなぜ魔人が青いのか、ほかの色だと、そういう色肌の人間がいないわけではない、ということだろうか、それはまたゆっくり別の機会に考察してみたいものだ。アニメーション作品をかなり忠実に再現した実写版『アラジン』である。見せ場の多いジーニー、美しく楽しいメロディの数々、名作はリメイクしてもやっぱり面白いものだなあ、と思ったのはたしかなのだ、が。
時代と社会の新しい風はアグラバーにも吹き込んでいた
ふと『アラジン』の主人公って誰なんだろう、と思った。タイトルになっているんだから、アラジンの物語には間違いない。でも彼の周囲にはかなりユニークなキャラクターが揃っていて、その誰が主人公であってもおかしくはない。
その風貌と強大な魔力からして一番目立つジーニーが主人公と考える人も少なくない(映画の見せ場はほとんどジーニーが独占!)だろうけれど、時代と社会の風はアグラバーにも確実に吹きこんでいたようだ。
個人的な独断で言わせてもらえば、今回の『アラジン』の主人公はジャスミンである。ジャスミンは「この1000年、女が国王(サルタン)になったことはない」という国の王女。「民の幸せが自分の幸せ」は、実在する国だろうが、ファンタジーの国だろうが、統治者たる者が胸に刻んで当然の思いだろう。そして、ジャスミンも、その思いを強く持った王女である。
人のよい国王を操り、ジャスミンをさしおいて、民には一顧だにせず、周囲の国と戦争せずにどうつきあっていくかに知恵を絞ることもない大臣、ただただ自分が王になりたいという欲望に燃える大臣の策謀もあり、実在する、身近な国の構図とも重なってきたところで、アグラバーがどこか遠い、しかも空想上の国とも思えなくなるあたり、ただ楽しいだけの映画、ではない。
さらにすごいのは、『ラ・ラ・ランド』の音楽チームが作詞したというジャスミンの新しい歌で、これが、夢見る乙女の恋心をロマンティックに甘く歌いあげるようなものではなく、なんと、♪女の意見は不要という時代はいつか終わる、という内容なのだから、心の中で思わず喝采!近年のディズニー・プリンセスはみな、それなりに〝自分〞というものを持って描かれていたものだが、そうか、ここまできたか!と感動した。
アニメーション映画のときにはいなかった、ジャスミンの侍女ダリアも、登場場面は多くないながら大切な王女を支え見守る重要な位置にいて、その存在が心強い。主要人物たちを、これも見守る立場にいる動物たちの描写も同じく、その存在は重要だ。
もちろんアブーはアラジンのよい友だちで良くも悪くもいろいろ役に立つし、ラジャーはとんでもない迫力でジャスミンの傍らを離れない。だが今回、一番かっこよかったのが、なんと、いつも悪大臣ジャファーの周囲を飛びまわっているイアーゴだった...!クライマックスのイアーゴの姿は観てのお楽しみ!ということで。
青いおちゃめなウィル・スミス、イメージそのまんまのアラジン、理知的で芯の強いジャスミン、思いがけずかっこいいイアーゴに出会えた『アラジン』が楽しかったのはもちろんなのだけれど、なんだかんだで♪ホール・ニュー・ワールドが聞こえてくれば、もう、ほかになにも言うことはないよね、なのだった。