ガーデニングが趣味だったオードリーが植えた草花が今も裏庭に生い茂っている
ローマ市内にある瀟洒な住宅街の一角に、かつてオードリー・ヘプバーンが暮らした家がある。そこは、背の高いイタリアカサマツの傘のような葉が太陽の光を遮って、涼しげで閑静そのもの。今その家に家族と共に暮らしている次男のルカ・ドッティが、日本の取材陣を迎え入れてくれた。
彼に会うのは半年ぶり。昨年の11月、東京で会って以来だ。「ようこそ、いらっしゃい。東京以来だね。あの時は風邪を引いていてごめんなさい」申し訳なさそうにそう言いながら、彼は母親オードリーがこの家でどう暮らし、息子の自分に何を遺してくれたのかを語り始めた。
「母がこの家を購入した時は、彼女の人生があまりいい時期じゃなかったんです。父(アンドレア・ドッティ)と離婚した後、それまで夫婦で住んでいた家の向かい側に、わざわざこの家を構えたんですよ。家族という形を出来る限り残すために。
母の心はスイスのトロシュナにあるラ・ペジーブル(“平和の家”と呼んで愛した終の棲家)にありながら、ローマにこの家を残したかった。僕のためにね。2階にあった母の部屋は、今僕たち夫婦(妻はグラフィックデザイナーのドナティッラ)の寝室になっていますが、時々“お母さん、お休みなさい”って声をかけるんですよ」
若き日のオードリーの写真が飾られたリビングから広い裏庭に出ると、まるでオアシスのように緑がいっぱいに広がる。そこには、忙しい家事の合間を縫って、趣味のガーデニングに勤しんだオードリーが植えた草花が、今も陽光を浴びて元気に生い茂っている。
「特に、庭は母との絆を感じる場所です。ガーデニングが僕たち親子を繋いでいると言ってもいいくらい。実は、ガーデニングは母が亡くなってから始めたのですが、母がやっていたことを思い出しながら土を耕していると、母のことは勿論、父のことも、父方のお祖父ちゃんのことも思い出します。植物を育てる時に一番大切なことは、よく見ること。植物や動物は言葉を話さないから、とにかく観察しなきゃいけない。この姿勢は、子供の頃母がやっているのを見て覚えました」