スクリーン編集部太鼓判!
今月の1本
「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」
2019年9月20日(金)公開
「ムーンライト」などの話題作を次々送り出す気鋭スタジオ“A24”が製作し、SNS世代に生きる少女の成長や恋愛をリアルに描く青春映画。全米では口コミで話題を呼び、当初の4館公開から3週間で1084館に急拡大する大ヒットを記録。元ユーチューバーの28歳の新鋭ボー・バーナムが監督を務め、主演のエルシー・フィッシャーは本作で2018年の最多新人映画賞を獲得。
Eighth Grade 2018年製作
監督/ボー・バーナム、出演/エルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、エミリー・ロビンソン、ジェイク・ライアン
©2018 A24 DISTRIBUTION, LLC
それでは編集部レビューをどうぞ!
この年頃の男女の意識差にはもう笑うしかない
生まれた時からSNS世代の青春映画!とか言われて、さすがに今回は無理、パスかなと思いつつ見に行ったら、いやいや面白かった。一言で言っちゃえば、こじらせ女子のイタい映画なんだけど、今回は中学生だよ、13歳だよ。「レディ・バード」のシアーシャより「スウィート17モンスター」のヘーリーより幼いんだよ。
どこまで低年齢化するんだ、こじらせ女子。娘が理解できなくてオタオタする父親よりも年配の僕が、少女の悩みの本質をわかったフリをするつもりはない。痛みはわかるけど。それとは逆に驚いたのは、男子どもが俺らの頃とまったく変わっていないこと。脳内エロ100%少年とか行動イミフ少年とか、中学男子の脳細胞は40年間進化ゼロか!? ああ、この年頃の男女の意識差って......なるほど女子ならA24が映画にしてくれるけど、男子は「ポーキーズ」がいいところだな。
レビュワー:近藤邦彦
編集長。賞賛コメントの顔ぶれが豪華。ケヴィン・ベーコンとかマイケル・キートンとかアルフォンソ・キュアロンとか。おじさんたちの感動ダダ漏れぶりがすごい。
優れた青春映画は見る時代も世代も問わない
生まれたときからSNSが存在するデジタルネイティブな若者をZ世代と呼ぶそうだ。彼らの利便性が羨ましい一方、その世代でなくてホッとする気持ちもある。SNSの負の面と学生のうちからうまく付き合えそうもないから。本作の主人公はそのZ世代を生きる少女だ。日々YouTubeに自撮り動画をアップ。
しかし画面の中のハッピーな彼女とは裏腹に、学校では“最も無口な子”に認定されてしまう。誰かに認められたくて、でも空回りばかり。SNSは青春の残酷さを加速させる。でもその残酷さが痛ましいからこそ、この八方ふさがりの青春に一つの回答を出すクライマックスに、胸を熱くせずにはいられない。その瞬間、この作品は「特殊な世代を描いた特殊な青春映画」ではなくなる。本当に優れた青春映画は、見る世代も時代も問わない。その見本のような作品だ。
レビュワー:疋田周平
副編集長。劇中に登場する“トゥルース or デア”はアメリカの定番ゲームだそう。あんな王様ゲームみたいなのを中学生がやるとは恐ろしい...。
10代の主人公の最後の言葉にグッときます
最高にイケてる10代だったと胸を張って言える人は、正直この映画を見なくていいかも(笑)。でも多くの人が、自意識過剰で、“イタい”あの時代を懐かしみ、主人公ケイラ=自分だと少なからず共感できるはず。全米で4館だった上映館が、ものすごい勢いで拡大したのもその証拠ですよね。とにかく、学校で、友達の家のプールで、自分のベッドの中で、ケイラの一挙手一投足がすごくリアル。あの時代ってそうだよね...と思春期を思い出して恥ずかしくなってしまいました。
YouTubeチャンネルを持つケイラの、動画上での空回りっぷりもおかしい。すべて演技とは思えない、エルシー・フィッシャー恐るべし!です。そんな“中二病”だったケイラが、中学生の終わりにアップする動画にまさかの感動。10代の女の子に生きる意味を教えてもらったような...。大袈裟でなくグッときます。
レビュワー:阿部知佐子
学校では「無口賞」をみごと(?)受賞してしまうケイラ。どこの国にもあるんですね、こういうの。カースト上位の人しか得しない...
何かを変えたい、そんな大人にも見て欲しい
自己肯定感、とよく耳にするけれど、自分を認められないとずっとしんどいですよね。主人公・ケイラも自分に自信を持てない不器用なタイプの女の子。それでも、自分らしく、クールな大人になりたい、と日々の日記のように発信する彼女の飾り気のない素直な言葉には、胸に刺さるものがありました。中でも印象的だったのは、“一歩踏み出すこと”をテーマにしたメッセージ。
“まずはいつもなら行かない場所へ行こう”と彼女は発信し、勇気を振り絞って“苦手なこと”に立ち向かい、成長していきます。今の自分の何かを変えたい、と思っても、区切りのイベントが少ない大人はなかなかキッカケがつかめず、日々流されてしまいがちですよね。本作は、そんなモヤモヤした思いを抱えている方にも是非オススメな作品です。
レビュワー:中久喜涼子
ケイラの冴えなさっぷり(!)が、いい感じでリアル。でもそこがキュ ートなんです。ホッとするタイプを体現したE・フィッシャーに拍手!
ケイラチャンネルは個人的に金言だらけ
中学卒業間近の“8年生”ケイラは視聴回数一桁のYouTuber。“青春の勲章・ニキビ”を顔中にまとい、体型もポヨポヨ。スクールカースト(嫌な言葉)最下層でも、過干渉な父親にだけは強気だ。だけど自分だけの世界を持っているし、人気者に話しかける勇気もある。自分が年を重ねたからか、彼女のようなオリジナルな子が愛おしくて仕方ない。
特に“自信はなくてもあるフリができる”という台詞、ケイラの番組が実在したら縋ってしまいそうなほど響いた...。鑑賞後、自身もYouTuberのバーナム監督に興味がわき、動画を見た。明るいメロディーに乗せ“人生でぶつかる壁に簡単な答えはない”と歌う彼に、YouTubeを通してメッセージを発信するケイラが重なる。顔を出さずともSNS上では影響力を高められる中、堂々と自分をさらけ出している彼だからこそ作れた作品だと改めて思った。
レビュワー:鈴木涼子
しかしアメリカは劣等感を煽るようなイベントが多いですね...みんなの前 で“無口賞”なんてもらったら、ケイラのように顔を覆いたくもなりますって。
中身はいつの世も変わらない“青春”の普遍性
時代時代で作られる青春映画には、最新の若者の姿が描かれるのは常だけど、いつもその時の若者は“新人類”と呼ばれるのもまた常。例えばついこの間公開された「スウィート17モンスター」より(年齢はちょっと違うけれど)この「エイス・グレード」はすでに新しくなっている!まるでスマホのアプリのアップグレード並みの速さで新世代が生まれているかのようだ。
その度にオジサン、オバサンたちは面食らうばかり。ただ「スウィート...」と違うのは、ヒロインのケイラがこじらせ女子ではない点。まだ高校生の手前で、本当の自分を見つけようともがきながら自己観察する彼女の健気な姿が『あの日のイケてない自分』とオーバーラップする観客のハートを直撃する。見かけはどんどん変わっても中身はいつの世も変わらない“青春”の普遍性を捉えた味わい深い小品だ。
レビュワー:米崎明宏
映画ではあまりイケてない女の子ケイラ役のエルシー・フィッシャー だけど、アカデミー賞のメンズ系衣装ではイケてましたよ。