現在世界中で大ヒットを記録している「ジョーカー」。本作の何がそんなに観客の心をざわつかせているのでしょう。本誌でお馴染みの3人の評論家の方々に、それぞれの見地から、『この衝撃作の裏側に隠されているものは何か?』を語っていただく深掘りレビュー特集をお届けします。今回はアメコミ映画ライターの杉山すぴ豊先生に、『アメコミのキャラを使ってまったく新しい映画を作った』という視点から本作を語っていただきます。

アメコミ映画色を徹底的に排しながらアメコミ映画としても傑作!(続き)

最後にバットマン好きをうならせる展開が待っている

ジョーカーは1940年にバットマンのコミックでデビューしました。バットマン自体は1939年のディテクティブ・コミック誌27号でデビュー。人気が出たので彼の名前をタイトルにしたバットマンという雑誌が出版されるわけですが、その栄えある創刊号に登場したわけです。

当時の資料を読むととにかくバットマンとは対照的な見栄えの悪役を作ろうということでデザインされたそうです。すなわち黒がベースで無口なバットマンに対し白い顔でいつも笑っている。第一話から人がニヤついた顔で死ぬという毒薬を使う残忍なサイコパスとして描かれました。この初登場号でもジョーカーの過去は描かれません。

画像: 最新作「ジョーカー」にて、狂喜をおびていくアーサーとジョーカーの境がなくなっていくシーン。

最新作「ジョーカー」にて、狂喜をおびていくアーサーとジョーカーの境がなくなっていくシーン。

その後紆余曲折あって、コミックの方では表現や内容の規制もあり、狂気や残虐性はなりをひそめるのですが、1980年代ごろから過激なジョーカーのキャラが復活。そして1989年のティム・バートンの「バットマン」にインパクト大のジョーカー(演じていたのはジャック・ニコルソン)が登場。ここで描かれるジョーカーは、ニヤついた顔で死ぬという毒をまきちらし、毒ガスで大量虐殺を企むという、初期の原作通りのキャラ。

この作品が秀逸だったのはバットマンことブルース・ウェインの両親を殺した男が後のジョーカーであり、その男がジョーカーになるきっかけを作ったのはバットマンだった、という新解釈を入れることでジョーカーとバットマンの因果関係をはっきりと打ち出したことです。元々ジョーカーはデザイン的にバットマンとは対照的と書きましたが、コミックの方ではこの考えをさらに発展させ“秩序を守るバットマンに対し、混乱を巻き起こすジョーカー”というコインの表と裏的に両者を位置付ける作品が多くなっていました。

こうした関係性を映画「バットマン」は、ジョーカーを生んだのはバットマン、バットマンを生んだのはジョーカーとストレートに打ち出したのです。冒頭書いたようにSDCCにも参加しない等、映画「ジョーカー」はアメコミ・ヒーロー映画色を排しています。またここで描かれるオリジンは映画独自のものです。なので映画「ジョーカー」はアメコミ原作映画ではなく、アメコミのあるキャラを使った全く新しい映画と言えます。

しかし!この作品には最後にアメコミ映画好き、バットマン好きをうならせる展開になります。僕は思わずそうきたか!と心の中で叫びました。映画としても、アメコミ映画としても傑作なのです!

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