現在世界中で大ヒットを記録している「ジョーカー」。本作の何がそんなに観客の心をざわつかせているのでしょう。本誌でお馴染みの3人の評論家の方々に、それぞれの見地から、『この衝撃作の裏側に隠されているものは何か?』を語っていただく深掘りレビュー特集をお届けします。今回はロサンジェルス在住の荻原順子先生に、マスコミの論説と共に、政府が危険視する対応ぶりなども含めて、現代アメリカが見た「ジョーカー」について語っていただきます。

「ジョーカー」
ワーナー・ブラザース映画/公開中
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

「バットマン」シリーズのヴィランとして知られる“ジョーカー”。この悪の権化が実は元々孤独な青年だったというオリジナルの視点で描き出すトッド・フィリップス監督作。
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『犯罪者をポジティブに捉えすぎている!』米軍やFBIも注視する本作の危険性とは

戦慄さえ覚えるホアキンの壮絶な演技を絶賛する米マスコミ

「バットマン」シリーズの悪役、ジョーカーのオリジン・ストーリーを綴る「ジョーカー」は、米国では2019年10月4日公開となっているが、それに先駆けて8月末開催のヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され、9月初めに開催されたトロント国際映画祭でも上映。記事を執筆している10月1日現在の時点で、映画評や一般観客の感想もかなり出てきている。

まず、米国の映画評で目立つのは何と言っても、「戦慄を感じさせるホアキン・フェニックスの演技は、過去数十年間で最も凶暴で恐ろしい狂人を見事に表現している」(サンフランシスコ・クロニクル紙)や「フェニックスの演技を見るだけでも価値がある。フェニックスの悲しげな眼差しとむせぶような笑いは、彼が演じるキャラクターが生涯持ち続けてきた『俺の気のせいなのか?それとも世界はどんどん狂いつつあるのか?』という疑問を完璧に体現している」(ニューヨーク・ポスト紙)など、タイトルロールで主演しているフェニックスの演技に対する称賛だろう。

「バットマン」のスピンオフだという程度の認識で「ジョーカー」を観に行くと、「タクシードライバー」を彷彿させるような濃い性格劇に圧倒されるはず。(その「タクシードライバー」で鮮烈にブレイクしたロバート・デニーロが、本作に“主流派”の代表格のような役で出演している点も非常に興味深い。)

前述の映画祭や上映会などで観たという観客の反応も「フェニックスはこの作品で伝説的俳優になった」、「フェニックスに脱帽」、「(『ダークナイト』のジョーカー役でオスカーに輝いた)ヒース・レジャーも天国から微笑んでいるはず」と、フェニックスへの賛辞を惜しまない。

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