現在世界中で大ヒットを記録している「ジョーカー」。本作の何がそんなに観客の心をざわつかせているのでしょう。本誌でお馴染みの3人の評論家の方々に、それぞれの見地から、『この衝撃作の裏側に隠されているものは何か?』を語っていただく深掘りレビュー特集をお届けします。今回はアメコミ映画ライターの杉山すぴ豊先生に、『アメコミのキャラを使ってまったく新しい映画を作った』という視点から本作を語っていただきます。

「ジョーカー」
ワーナー・ブラザース映画/公開中
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

「バットマン」シリーズのヴィランとして知られる“ジョーカー”。この悪の権化が実は元々孤独な青年だったというオリジナルの視点で描き出すトッド・フィリップス監督作。
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アメコミ映画色を徹底的に排しながらアメコミ映画としても傑作!

本当は〝過去のない男〞ジョーカーの誕生秘話を描くという挑戦

今年アメコミの祭典サンディエゴ・コミコン(SDCC)に行ったときに意外だったのは、映画「ジョーカー」が全くフィーチャーされていなかったこと。SDCCではワーナー/DCは必ず近日公開のDC映画のコスチュームや小道具を展示していました。宣伝物もほとんど見当たらない。この時、ワーナー/DCは徹底的に「ジョーカー」をアメコミ映画売りしないんだなと思いました。

画像: 本当は〝過去のない男〞ジョーカーの誕生秘話を描くという挑戦

“バットマンの宿敵ジョーカーを主役にした映画が作られる”そう聞いた時、僕はジョーカーの狂気が炸裂するすごい犯罪映画を期待していました。つまりジョーカーというキャラはすでに完成していて「羊たちの沈黙」みたいな作品になるのでは?と。しかし完成した映画は一人の男がジョーカーになるまでを描くという、とてもチャレンジャブルな物語。なぜチャレンジャブルか?実はジョーカーのオリジン(誕生秘話)というのはハッキリしないのです。

バットマンは“両親を目の前で殺された少年が犯罪と戦う”という確固たる設定があるのですが、ジョーカーにはそれがない。いやいくつかのコミックでジョーカーの過去が語られたことはありますが、それが本当だとは限らないのです。映画「ダークナイト」をご覧になった方なら、ヒース・レジャー演じるジョーカーが語る身の上話が毎回違う、というシーンを覚えているかもしれません。逆に言えば各クリエーターが独自の解釈でジョーカーの物語を作ることもできるわけです。

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