現在世界中で大ヒットを記録している「ジョーカー」。本作の何がそんなに観客の心をざわつかせているのでしょう。本誌でお馴染みの3人の評論家の方々に、それぞれの見地から、『この衝撃作の裏側に隠されているものは何か?』を語っていただく深掘りレビュー特集をお届けします。今回はロサンジェルス在住の荻原順子先生に、マスコミの論説と共に、政府が危険視する対応ぶりなども含めて、現代アメリカが見た「ジョーカー」について語っていただきます。

『犯罪者をポジティブに捉えすぎている!』米軍やFBIも注視する本作の危険性とは(続き)

銃乱射が絵空事でない米国では上映を禁止する劇場も

作品自体については、「目も眩むほど神経症的な精神病質者による道徳劇。それは、粉々にされた夢から派生した憎悪から生まれ、インセル(不本意な禁欲主義者=欲求不満気味の非モテ男)たちや大量殺戮犯たち、そして希望が持てない国政に脅かされた時代に強い訴求力を持つ」(バラエティ紙)や「暗く陰湿だが心理学的に説得力のあるオリジン・ストーリー。コミックの社会病質的な構想が生身の人間で具現化されている」(ロサンゼルス・タイムズ紙)のように「ジョーカー」のダークさを肯定的に捉えている評がある一方で、「現実社会で執拗に繰り返し発信されるメッセージを伝える作品。

フェニックス演じるアーサー・フレックのような若者たちによって、米国ではほぼ毎日のように引き起こされる現実の暴力行為と切り離して考えるにはあまりに危険で恐ろしく感じられる」と評したエンターテイメント・ウィークリー誌のように、銃撃事件をはじめとする暴力犯罪が後を絶たないアメリカでは、「ジョーカー」は犯罪者をポジティブに捉え過ぎると指摘する声もある。

画像: 銃乱射が絵空事でない米国では上映を禁止する劇場も

実際、2012年7月、自分をジョーカーだと名乗った24歳の男が「ダークナイト ライジング」上映中に銃を乱射。無差別に12人を射殺した事件が起きたコロラド州オーロラの映画館では「ジョーカー」は上映されない予定だとか。

また、同事件の犠牲者たちの遺族は、「ジョーカー」の製作・配給会社であるワーナー・ブラザースに対し、「主人公ジョーカーに共感できるようなストーリーになっている事に当惑したが、言論の自由を尊重する」ゆえ、彼らと共に銃規制の推進に協力するよう要請する書簡を送っている。

さらに、FBIと米軍は、「ジョーカー」公開をめぐって何らかの危険が発生する可能性が出てきたという情報を入手。ワーナー・ブラザースは、ハリウッドのチャイニーズシアターにて開催された米国でのプレミアでは、レッドカーペットに近づけるのはフォトグラファーのみという安全策を取った。FBIと米軍からの情報を受け、ロサンゼルス警察も、「ジョーカー」が全米で封切られる10月4日には同市の映画館付近の警備を厳重にする姿勢を示している。また、ロサンゼルスの映画館チェーン、ランドマーク・シアターでは、ジョーカーのコスプレでの入場・鑑賞を禁止する措置を取るそうである。

米国では2019年1月から9月までの9ヶ月間で複数の死傷者を出した事件が334件起き、385人の死者が出ている。アメコミ由来の悪役のオリジン・ストーリーを描く映画であっても、絵空事で済まされにくい空気になるのも、やむを得ないのかもしれない。

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