今年のカンヌ国際映画祭の『監督週間』部門に新作『初恋』(2019)を出品、来年2月28日予定の日本での公開が待たれる三池崇史監督。そんな折、アメリカでの先行上映を9月27日に果たしたのですから、さすがです。国際的監督として燦然と際立つ三池監督に、7月に開催されたSKIPシティDシネマ国際映画祭でインタビューのお時間をいただき、審査委員長として活躍中に感じられた「世界の映画づくりの今」「映画をつくるということ」などについて縦横無尽に語っていただきました。そこには永きにわたっての、映画と映画を作る者たちへの愛が感じられてなりませんでした。カリスマ、マスターからの映画レクチャーとも言える、リアルで説得力ある言葉の数々をここにご紹介します。

映画祭に出品されたら、誰かが見つけてくれる可能性はある

──そううかがうと、選ばれるべき作品があり、それを全うに選んだ審査員がたちがいらした、幸せな場でしたね。そういう意味では、若い世代が映画を作ったら、やはり映画祭に出した方がいいと思われますか?

「つくって映画祭に出品されれば、誰かが(存在や才能を)見つけれくれるという可能性はある。ただ、最初から映画祭に出すことだけを目的にしてしまうと、今、その映画祭ではどういうものが受けるんだろうか、と最初に考えてしまうことになり、そういうことはいかがなものか。

もちろん、 目指す映画祭ではどんなものが上映されているだろうという、その傾向や特徴には興味は持つべきだと思うんですがね。まあ、この意見も、それは自分がそういうことをやってこなかったから、やった方がいいのではという、自分のことを棚に上げての意見(笑)に過ぎないですけどね。

僕の場合はカンヌ映画祭に招かれるとも思っていなかったし、(カンヌを意識して)作っているつもりもなかったので」

──三池監督はメチャメチャ、カンヌでも特別扱いですよね(笑)。やはり熱狂させるものがあるんですね。

「いやいや、(初出品となった2003年の作品『極道恐怖大劇場 牛頭』が)よほど変なものだったんですよ。いわゆる日本では誰もが見向きもしなかったVシネマというジャンルですから、どういう仕組みでこんなものができているのか、誰がお金を出して、どのプロデューサーがオーケーしたのかという驚きが大きかったんでしょう。なんだこれ?っていう。たまたまそういう流れでカンヌとはやるようになって」

映画祭は、発見する場であることが最大の使命と楽しみ

──カンヌ映画祭は、お金をかけた作品を素晴らしいというのではなく、ローバジェット作品でもリスペクトもしてくれて、すごく感動、評価してくれる映画祭でもありますよね。

「何かを発見するというのが、映画祭の一番大きな使命や楽しみでもあるので。映画祭そのものが今まで知らなかったものや、人間を見つけるためにある。まあ、変わってるっちゃ変わってる。そしてまた、そういうものが好きだというカルトな人たちがいる。

曖昧に支持してくれる100人より、すごく熱狂的に支持してくれる2人の方がエネルギーが強いと思うんです。

だからなにか、規模の違いはあるけれど、なんとなくSKIPシティ映画祭って、カンヌ映画祭にいる気配はしますね」

──たしかに、ジャンルも多岐に渡っていて、映画祭自体もフランクな雰囲気ですしね。新人に優しいところなども……。ところで、話は戻りますが、『新宿黒社会…』上映後のトークショーでおっしゃられていたことで、溜飲が下がるようなお言葉があり、これも忘れ難いのですが、「映画づくりにインポッシブルはないんだ」ということ。出来ないことなんてない。こうしたら出来るじゃないかと、別の視点で取り組んでいくことで出来るんで。出来ないというなら、映画づくりはしない方がいい、と。

「我々がやっていたVシネマは商業映画なので、すごくローバジェットで作っているわけですが、すごいことができるわけないじゃん、予算に合わないでしょう、とかいう発想のフィルターがそもそもかかっているものなのですが、まずその考え方は捨てないと、かなりやばい状況になる。地球が爆発しようが何しようが、どうやって撮るの、というものも台本上、書いてあるだけだから、面白いか面白くないかだけで評価して、それを予算に合わせてどうやって表現するかは別の問題なんです。やはり、スタート位置が違うんですよ、出来ない出来ないという人たちとは。よーいドンって言って、違う方向に向かって走っていってるというかね」

カンヌ映画祭初の3D作品をやってのけること

──ええ、そういう意味では、監督は、ちょっと日本人離れもなさっていて(褒め言葉です!)非常に欧米的な広い視点や考え方や、俯瞰で何事も見て図ってお仕事されているんだなと、作品からそれがわかります。

カンヌ映画祭へのご出品作も、素晴らしいなと思ったのはカンヌ映画祭がリスペクトしている、小林正樹監督の『切腹』(1962)をあのようにリメイクし、『一命』(2011)として世に打ち出すというのが、すごすぎます。カンヌ映画祭をざわつかせるというか、唸らせたと思うんですけれども。

「あれは、カンヌのコンペティション部門で初の3D上映だったんですよ。僕らがやったのは、あまり飛び出し過ぎないもので、絵の奥行きに陰影をつけるというもの。3Dらしくするっていうよりも、普段やっているライティングや配置とかで、フィルムで表現できる2Dの奥行き感とかっていうことを3Dカメラを使ってやってみた。

ただ、そのためにすごい経費がかかってしまった。大会場で、きちんとした正装の身なりをした人が全員で、僕の一本だけのために、ゴーグルをつけて観るという。

時代劇で3Dでやって、なおかつあまり飛び出さないと分かっていながら、それを上映するというのは、非常に上品なことをやっているように見えて、過激なことをやっていたなと。そういう意味で面白かったなと思います」

既存の名作映画のリメイクする意味には、二つある

──それって、やはりカンヌが大喜びしますよ。そういう「やんちゃな魅力」というか、初めてのことが起こるということにすごく興味を持ってエネルギーを滾らせるということでは、やはりカンヌ映画祭は世界一ではないでしょうか。大好きです。それにしても監督は、名作のリメイクすることの面白さを楽しんでらっしゃいますよね。『十三人の刺客』(2010)『愛と誠』(2012)のように。

「ええ、ただ(リメイクしたいという思いにも)二種類ありますよね。一つには自分たちが子供の頃に楽しんだものを、大人になり、監督という立場になり純粋に関わってみたいという想い。ドラマのテレビシリーズも撮ったことがあるんですが。『ウルトラマンマックス』(2005)の時も、『ウルトラマン』(1966~1969)は、僕が小学一年生の時に始まったんですが、ヒーローだったそのウルトラマンに、手の位置が違うとか腰をもっと入れてとか言えて、それにウルトラマンがうなずくんですよ。俺の言うこと聞いてるっていうのが純粋に楽しい(笑)。自分なりのウルトラマンを大事にする、原体験としてのその作品をリスペクトするっていうパターンがある。『愛と誠』なんかもそうです」

──うらやましい!お仕事です。

「ええ。それと、『十三人の刺客』とか『一命』というのはまた、別の意味で関わりたくなる。名作といわれるそれらを改めて観てみて、自分があれっ?と疑問に思って、それがリメイクの糸口になることが多いんですよね」

──それこそが、監督という仕事の醍醐味ですよね。

「『一命』に関しては、結局暴力が連鎖するというところで終わる。人を切っちゃいけないよねとあれだけ言って、息子になんてことをしたんだと言いながら、かかってくる侍に対して切っちゃう。その人は親もいるし子供もいるわけですよ。それを忘れて、彼をヒーローにするためにひと暴れさせる。映画としてのカタルシスはあるんですよ。でも、観客が楽しめるからって、そこに出ている名も無き侍たちを簡単に切ってしまう行為に違和感を感じたんですよね。

そこで、リメイクするなら、やはり彼は息子が持っていった竹光で、要はプライドを叩き斬るんだけど、せいぜい額を割るくらい、命はとらないという。ただやはり侍にとっては、刀で斬られるより竹光で制圧される方がよほど響くわけですよね。ただ反省したり、命をとったりということではなくしたい、復讐劇ではないのですから。リメイクするうえでは、そういう二種類があるんです。僕の中には。でも楽しいですよ、やはり。いろいろ言われますけどねぇ」

「さらば、バイオレンス」と銘打つ『初恋』は、海外で先行公開

──では、最新作の『初恋』は、原作がなくてリメイクでもないオリジナル作品ということで、監督の新境地ですか。

「いや、オリジナルは、初めてではないですよ。原作もあってないようなものなんです。ただ、オリジナルのものってエッジが効きすぎているので、カンヌなどの海外の映画祭に呼んでもらえるだけで、日本の興行的にはちょっと…となりがちですね。

僕は、海外ではバイオレンス監督なんていう、どうしてもそのレッテルを貼られていて、オリジナルも多いんですが、ただまあ、あまりオリジナリティってものに重きを置いていない、そんなによく思っていないところはあります。オリジナリティって何が特殊かっていうと、『俺ってオリジナルで映画作っていすごいだろ』っていうことですよね。別にあまりそこに意地になって価値を求めなくてもいいのではと、僕は思うんです」

──日本では、来年公開ということで、待ちきれないほど期待しております。

「多分海外の方が先に公開になると思いますが、『初恋』は全国のシネコンで、それなりに公開されますね」

──今回は、バイオレンスっぽくはないと、うかがっていますが?

「『さらば、バイオレンス』と言ってるくらいですからね。でも、(カンヌ映画祭の記者会見でも話したとおり)、のっけから、首が飛んだりはしますが、でも、それでもバイオレンスではないので。観てみてください」

──(笑)そうなんですね、やはり首は飛ぶんですね(笑)。拝見するのが楽しみです。いろいろお聞かせいただき、ありがとうございました。映画をめざす者たちへの最高のレクチャーとして、まとめたいと思います。

作品に隠されたヒューマニズム、社会性を持つ大人で少年の魅力

多くの作品から受ける過激な印象からすると、不思議なくらい穏やかで親切にわかりやすく適切な言葉がスラスラと出てくる。それが心地よくて、うかがっているとあっという間に時間が経ってしまいましたが、またその時間の中にまとめられた内容は情報量も多く、濃いのです。多くの作品のように。

自在で、いかようにも変化可能につくられる作品の数々。進化可能な才能の持ち主が三池監督その人なのでしょうけれど、目の前で熱く映画について語って下さったその人は、リーダーシップを持った成熟した大人というにふさわしい存在。しかも、お茶目でやんちゃな少年の気持ちを持ち続けている側面もある、そう思えてなりませんでした。

画像1: 作品に隠されたヒューマニズム、社会性を持つ大人で少年の魅力

『その瞬間、僕は泣きたくなった』(オムニバス作品)
2019年11月8日(金)より全国公開
エグゼクティブプロデューサー/EXILE HIRO
企画・プロデュース/別所哲也
製作・配給/LDH PICTURES
2019年/日本/カラー/115分

『Beautiful』(23分)
監督/三池崇史
出演/EXILE AKIRA、蓮佛美沙子ほか
主題歌/『Beautiful』Crystal Kay

公式サイト:http://sonoshunkan.toeiad.co.jp/
©2019 CINEMA FIGHTERS PROJECT

『初恋』は2020年2月28日公開です。今から楽しみですが、11月8日には短編オムニバス『その瞬間、僕は泣きたくなった』(2019)のトップに位置する短編『Beatiful』が公開され、今年の東京国際映画祭『特別招待作品』部門で10月30日プレミア上映もされます。『初恋』を待つ間に必見です。

こちらにもバイオレンスは微塵もなく、クリスタル・ケイの同名の曲がエンディングに流れるその瞬間、筆者も涙の洪水となりました。ヒューマニズム溢れる愛がいっぱいで、社会性も感じられる、やはり時代のリーダーのお一人という存在を感じてなりませんでした。

画像2: 作品に隠されたヒューマニズム、社会性を持つ大人で少年の魅力
画像: 映画『初恋』特報 youtu.be

映画『初恋』特報

youtu.be

『初恋』
2020年2月28日(金)全国ロードショー
監督/三池崇史
出演/窪田正孝、大森南朋、染谷将太、小西桜子、内野聖陽ほか
2019年/115分/カラー/日本
配給/東映 
©2020「初恋」製作委員会

ヤクザに追われる一人の少女を助けたことから、黒社会の抗争に巻き込まれていく余命わずかのボクサー。三池監督が描く純度の高いラブストーリー。カンヌ国際映画祭監督週間選出作品。

前回の連載はこちら:
ベル・エポックのフランスを今に繋ぐ。フレンチ・アニメの巨匠、ミッシェル・オスロ監督の『ディリリとパリの時間旅行』で、魔法にかけられる。

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