主演と脇役、悪役と善人。メジャーとインディーズ、映画とドラマ。これら対極にみえるものを軽やかに行き来する俳優マッツ・ミケルセン。どんな役を演じても、見る者を惹きつけてやまない彼が歩んできた道とは──(文・清水久美子/デジタル編集・スクリーン編集部)

進化し続ける北欧の至宝

1996年に俳優デビューして以来、出演作が途切れることなく活躍し続けているマッツ・ミケルセン。2019年11月8日に日本公開された最新作「残された者 北の極地」では、北極で遭難するという難役に挑戦し、厳しい状況下での撮影を見事に乗り切った。

画像: 北極での“ぼっち”芝居が話題の「残された者 北の極地」 © 2018 Arctic The Movie, LLC.

北極での“ぼっち”芝居が話題の「残された者 北の極地」
© 2018 Arctic The Movie, LLC.

11月で54歳になるマッツは、これまでも数々の作品で体を張った熱演を見せてきたが、この作品は「これまで経験した中で最も過酷な撮影だった」と語っている。極限状態で葛藤する主人公を描いた本作は、セリフがほとんどなく、表情や体の動きが重要となってくるが、マッツはそれを説得力を持って演じることができる稀有な俳優だ。

上映時間97分間、ほぼマッツ一人の演技が繰り広げられるが、観客は退屈するどころか心拍数が上がるほどの緊張感で主人公と一体になり、最後まで夢中になって見入ってしまう。そうさせるのが“北欧の至宝”と呼ばれるマッツ・ミケルセンなのだ。

主な出演作(年齢は公開年に基づいています)

31歳「プッシャー」
37歳「しあわせな孤独」
39歳「キング・アーサー」
40歳「アダムズ・アップル」
41歳「007 カジノ・ロワイヤル」
44歳「ヴァルハラ・ライジング」
47歳「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」「偽りなき者」
49歳「悪党に粛清を」
51歳「ドクター・ストレンジ」「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」
53歳「残された者 北の極地」「永遠の門 ゴッホの見た未来」「ポーラー 狙われた暗殺者」

【30歳】ダンサーから映画俳優の道に

マッツは初めから俳優志望だったわけではない。もともと体操をやっていて、18歳の時にミュージカルに出演したことをきっかけにダンサーとして活動するようになる。ジャズダンスやバレエ、コンテンポラリーダンスと何でもこなせるようになった彼は、演技にも興味を持ち、30歳でデンマークの国立演劇学校へ入学。

1996年、「ドライヴ」や「ネオン・デーモン」で有名なニコラス・ウィンディング・レフン監督のデビュー作「プッシャー」で、マッツは長編映画デビューを果たす。本作で同郷デンマークのレフン監督と出会ったマッツは、その後も「プッシャー2」や「ヴァルハラ・ライジング」などで彼と組むようになる。

画像: 「キング・アーサー」のトリスタン役でハリウッド進出

「キング・アーサー」のトリスタン役でハリウッド進出

役者として開眼したマッツは、デンマークの映画やTVドラマに次々と出演し、2004年の「キング・アーサー」でハリウッドに進出。そして、2006年の「007 カジノ・ロワイヤル」で演じた悪役ル・シッフルで強烈な印象を残し、全世界から注目を集めることとなる。

画像: マッツを一躍有名にした「007 カジノ・ロワイヤル」の悪役ル・シッフル

マッツを一躍有名にした「007 カジノ・ロワイヤル」の悪役ル・シッフル

この作品で一気に悪役のイメージが付いたマッツだが、現在日本で公開中の「アダムズ・アップル」(2005)や、「しあわせな孤独」(2002)などを見ると、お人好しのキャラクターや、妻子がいるのにほかの女性に惹かれる男性の役など、悪役以外にも様々な役柄を演じこなしてきたことが分かる。

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