個性的な一流監督たちと組み数々の話題作を作り上げていく
ハリウッドの第一線スターに仲間入りしたホアキンだが、2008年10月27日いきなりのラップ歌手転向宣言!お騒がせの真相が当時は、妹の夫でもあったケイシー・アフレック監督のモキュメンタリー「容疑者、ホアキン・フェニックス」(2010)のための2年がかりの大芝居と判明して、さらなるお騒がせとなった。
真剣勝負で演技に取り組むあまり、傷つき嫌気がさして前線からの逃走を図るという10代半ば以来のパターンが過激に突出したともいえそうな、そんな騒動の後の復活作「ザ・マスター」(2012)では教団の導師に愛と憎しみを注ぐ帰還兵役、その心の闇を寡黙の雄弁で活写した(ヴェネチア映画祭最優秀男優賞)。
「彼には1930~1940年代のハリウッド・スターに通じる大人の色気、成熟がある」と惚れ込んだ監督ポール・トーマス・アンダーソンとは「インヒアレント・ヴァイス」(2014)でも組み、ドラッグの煙を纏った70年代探偵を哀しくおかしく怪演、新たな魅力を開示する。
かたやホアキンをやはり往年のスター、モンゴメリー・クリフトの暗さの磁力と重ねる監督ジェームズ・グレーとも「裏切り者」(2000)「アンダーカヴァー」(2007)「エヴァの告白」(2013)で組んで快作を連打。アメリカの夢の裏側を見つめる俊英の眼差しを請け負い、きりきりと人の悲しさに迫るホアキン。両者の相性の良さを思うと「アド・アストラ」も彼の主演で見たかった、なんて…。
そんなふうに21世紀を担う作り手の信頼をどんと引き受ける演技者ホアキン。その彼がスパイク・ジョーンズと組んだ「her/世界にひとつの彼女」(2013)で出会い、「ジョーカー」との結び目も無視し難いリン・ラムジーの「ビューティフル・デイ」(2017)で男優賞受賞のカンヌではタキシードにスニーカー姿で壇上に上がる彼を温かな微笑みで讃え、盟友ガス・V・サントと再び組んだ「ドント・ウォーリー」(2018)ではホアキンが爽やかに演じる車椅子の画家の天使的存在として眩しく輝いた最愛の人──ルーニー・マーラ。
めでたく婚約も整ってトロントでもホアキンは彼女の出世作「ドラゴン・タトゥーの女」に掛けて、「この会場のどこかにいるドラゴン」に「I love you」なんてもう勝手にしやがれなメッセージで件のスピーチを締め括った。
公私共に幸せ光線に包まれた演技者ホアキン、その光で映画の未来も照らし続けてほしい!
Photos by Getty Images/ New York Daily News/Getty Images/ Stephane Cardinale /Corbis via Getty Images