毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が〝最高品質〞の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は83歳のイギリスの名匠が“働き方問題”に揺れる現代を背景に家族の試練と絆を描く感動作「家族を想うとき」です。

「家族を想うとき」
2019年12月13日(金)公開

世界的な課題の一つとなっている“働き方問題”をテーマに、過酷な労働に時間を奪われ、引き裂かれていく家族の試練と絆を描く感動作。2016年カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた「わたしは、ダニエル・ブレイク」を最後に一度は表舞台から降りたイギリスの名匠ケン・ローチ監督が、本作を撮るため83歳にして再び監督に復帰。脚本は「SWEETSIXTEEN」などを手がけ、ケン・ローチ作品に欠かせないポール・ラヴァティー。
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監督/ケン・ローチ
出演/クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

編集部レビュー

ここに描かれている問題は日本でも起きている

なによりも驚きなのは、この映画に描かれていることが、日本の我々の置かれている状況と何ら変わらないことだ。イギリスのある労働者の直面する問題の一つひとつが、日本で取り沙汰されているそれと寸分変わらないって、どういうことなんだろう。フランチャイズ経営の問題とか、介護事業の問題とか、NNNドキュメントでやっていてもまるで違和感はない。

貧困や格差は映画にとって格好の題材の一つだ。だから、もっと悲惨で救いのない作品も見てきた。けれども、どうしても映画と自分を隔てる薄い膜みたいなものを感じてしまうもどかしさ兼安心感があったのだが、この映画のしんしんと迫ってくるやりきれなさは何だ。一見中流家庭に見えて、少しでもトンと背中を押されたらアウト、という不安感は今や世界共通の感覚ではないだろうか。いつから世界はこうなってしまったのか。

レビュワー:近藤邦彦
編集長。踏みつけられる者の気持ちを描いた映画、最近何か見たなあ。あ、「ジョーカー」だ。やっぱ世の中煮詰まってきてるんじゃないか。

監督の問いかけがずっと心に留まり続ける

ワーキングプアなどに代表される貧困・労働問題は日本でも深刻化しているが、それはイギリスでも同じようだ。83歳の社会派の名匠ケン・ローチが引退を撤回してまで撮った新作はずばりこの働き方と家族がテーマ。前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」同様、心にずしりと重いものを残す。

過酷な仕事に追われる宅配ドライバーの父と介護福祉士の母。一生懸命働いても彼らの収入は慎ましく、理不尽な労働システムが彼らに休む間も与えない。子どもたちは孤独に心を蝕まれていく。一時だけの家族団欒の幸福な描写がかえって強烈に胸を締め付ける。

一体何と闘えば家族を幸福にできるのか。この映画の問いは現代社会にまっすぐ突き刺さるものだろう。安易な解決や希望は提示されない。ラストも象徴的だ。だからこそ、この家族の姿と監督の問いかけがずっと心に留まり続ける。

画像: 監督の問いかけがずっと心に留まり続ける

レビュワー:疋田周平
副編集長。出演している宅配ドライバーたちは全員現役か元ドライバーだそうです。そんなところにもリアリティーへのこだわりを感じます。

支えあう人間の強さも監督の伝えたかったリアル

「わたしは、ダニエル・ブレイク」でパルムドールを受賞したときに、映画の伝統の一つは、権力に立ち向かう人々に代わって声を上げることだとスピーチしたケン・ローチ監督。見ていて辛くなるほどのリアリズムも、監督が徹底した取材を通して伝える、目を背けてはいけない世界の現状だということ。

今作も過酷な労働に精神が蝕まれていく一家の姿がとてもリアルに描かれています。不可能とも言える配達ノルマを課してくる会社に怒りが湧いてくるなか、便利な宅配の恩恵を受けているのも事実。複雑な気分になりました…。

その一方で、人々が互いを思いやることのできる強さも監督の伝えるもう一つのリアルなのでは。「ダニエル・ブレイク」でも、支え合う人々の姿が印象的でしたが、今回は最も近い家族という関係を通して、人は決して一人では生きていけないのだと強く感じました。

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