第20回東京フィルメックス映画祭で来日
今年の東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門に、最新作の『WASPネットワーク』(2019)を出品したオリヴィエ・アサイヤス監督。この作品は、今年のベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、キューバ革命をテーマにした問題作です。
また、2019年12月20日から日本でも公開中の『冬時間のパリ』(2018)は、昨年のベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品を果たしています。毎年のようにエネルギッシュに作品を世に打ち出すアサイヤス監督は、今やフランスを代表する名匠とされる注目の監督です。
私事ではありますが、90年代の気分を標榜する日仏合作作品で、日本で大ヒットした『サム・サフィ』(1992)の日本側共同製作者となった筆者は、監督のヴィルジニ・テヴネから、友人でもあるアサイヤス監督ついて、監督のみならずの多彩なアーティスト性、映画へ向ける審美眼のセンスについてうかがっていたものです。
東京国際映画祭では来日が期待されていましたが叶わず。しかし、東京フィルメックス映画祭で、『HHH:侯孝賢』とシャオシェン監督作品『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)について登壇しトークをするために来日したのです。
ホウ・シャオシェン監督と自分を重ねあわせた上映とトーク
『HHH:侯孝賢』
監督/オリヴィエ・アサイヤス
1997年/フランス、台湾 /91分/モノクロ
『HHH:侯孝賢』は、アサイヤス監督がシャオシェン監督に注目し、リスペクトを込めた作品。懐かしさだけではなく、同時代に『イルマ・ヴェップ』(1998)を監督したり、アンドレ・テシネ監督作品の脚本を手がけるなど、映画に向けたアサイヤス監督自身の情熱が重ねあわされていることが強く感じとれて、今さらながらに感激。
映画づくりとは?映画監督とは?という普遍のテーマについて、一つ一つ答えてくれるような貴重な作品でもあります。
また、アサイヤス監督がトークで披露した、今なお変わらぬシャオシェン監督への熱い想いにも胸が熱くなりました。
加えて、羽田美智子、トニー・レオン主演で織り成すアンニュイで美しい恋の物語である、シャオシェン監督作品『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)に向けて、(シャオシェン監督は来日していないのですが)作品上映後に素晴らしい批評を披露。映画愛たっぷりの審美眼を見せつけてくれました。
そういった意味でも、これらの作品が、第20回を迎えたこの映画祭で上映されたことには大きな意味があったと感じさせました。そして、この貴重な二つの映画上映の間の時間にインタビューをさせていただけたのは実にラッキーなこと。映画祭の力の賜物であります。感謝です。
歳を重ねても、若々しさを忘れない映画づくりを
──私は、『サム・サフィ』の日本側プロデユーサーをいたしましたが、ヴィルジニ・テヴネ監督からアサイヤス監督の話をよくうかがっていました。
「そうでしたか。彼女とは、今もときどきお会いしてますよ」
──『HHH:侯孝賢』を拝見いたしました。今の時代に、この作品を観ることには、大きな意味があったように思います。その頃が懐かしいということだけでは済まされないですね。1989年にベネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得し、映画祭初の台湾映画進出となった『非情城市』(89)はもちろん、『恋恋風塵』(1987)や『戯夢人生』(1993)、『好男好女』(1995)『憂鬱な楽園』(1996)などなど、留まるところを知らない彼の映画への情熱が次々生み出す作品たちは、いずれも日本でも話題作となりました。
それら代表的作品を『HHH:侯孝賢』から垣間見ていると、すさまじい映画に向けたエネルギーがほとばしっていて輝いていましたね。観ているこちらもエキサイトしました。さらには彼だけでなく映画への情熱が高まっていたあの頃の時代も浮かんできました。感動的でした。
「ありがとうございます」
──同時期にはアサイヤス監督もめざましいご活躍をされていたわけですが、シャオシェン監督とは、今もご交流されているのでしょうか?
「そうですねぇ、(日本でのロケもあり、妻夫木聡が出演もしている)『黒衣の刺客』(2015)がカンヌ映画祭で監督賞を受賞しましたが、その作品のプロモーションでフランスに来られた時がお会いした最後でしょうか。ベルギーのブリュッセルでお目にかかりましたが、それから時間が経ってしまっていますね」
──『HHH:侯考賢』からは、映画づくりの原点を教わっている気がして来ます。その答えはアサイヤス監督がシャオシェン監督から引き出してくれた、実はご自身の考えでもあると受けとめました。映画づくりに血気盛んだったお二人が互いに刺激を受けあっていることがガンガン伝わってくる。今は共に巨匠になられているわけですが、だからこそ映画の中で印象的だったのが、彼の発言の一つ。いくつも映画を作って来ると、一番最初の作品が一番力強いように思えてくると。その点についてはアサイヤス監督はどのように考えますか?
「彼が言いたかったことは、最初の作品というものが優れていると言いたかったわけではないと思うんです。そうですねぇ、言うならば、例えば50歳を過ぎると映画監督っていうのは誰しもちょっとね、大仰な、何か真面目なテーマを扱いたくなる、そういう風な考え方を持ってしまう。それに対してちょっと批判的な意見を言いたかったのではと思うんですけれどね」