アカデミー賞授賞式で作品賞受賞に沸く「パラサイト」チーム
今も大ヒット公開中の「パラサイト半地下の家族」。いつもはなかなか劇場に足を向けない観客も興味津々のようですが、なぜこのアジアの映画が、世界中が驚くような歴史的快挙を成し遂げたか、この目で確かめたいという好奇心を掻き立てるのではないでしょうか。さてどうして本作がオスカーを受賞できたのか?その流れを再確認してみましょう。(文・斉藤博昭/デジタル編集・スクリーン編集部)

※カバー画像:アカデミー賞授賞式で作品賞受賞に沸く「パラサイト」チーム

女性や多国籍を意識してこの数年会員数を増やしていたアカデミー協会

オスカー像を複数抱えたポン・ジュノ監督

今年のアカデミー賞で、最大のサプライズとして話題を集めたのが「パラサイト半地下の家族」の作品賞受賞。外国語映画が作品賞を受賞するのは史上初(2011年度の作品賞「アーティスト」はメインが海外資本ながら、セリフがなかった)。「パラサイト」がハリウッドの祭典で頂点に立ったことについては、さまざまな理由が考えられる。

他の部門と違って作品賞は、順位をつけて投票する特殊な集計システムのためサプライズが起こりやすいし、もちろん「パラサイト」が作品としてストレートに面白かったというシンプルな要因も大きい。

昨年も「ROMA/ローマ」が外国語作品初の快挙の可能性があったものの、Netflix作品ということで逆風も受け、作品賞を逃した経緯から、「そろそろ新たな歴史を」という流れに傾いていたのは事実だ。この「流れ」というのがアカデミー賞では重要で、授賞式でも脚本賞、監督賞と続いたことで、作品賞への道筋を多くの人が確信したのではないだろうか。

画像: 全米俳優組合賞(SAG)ではアンサンブル・キャスト賞を受賞

全米俳優組合賞(SAG)ではアンサンブル・キャスト賞を受賞

「パラサイト」にとってアカデミー賞への最大のステップとなったのが、SAGアワード(全米映画俳優組合賞)の最高賞にあたるキャスト賞を受賞したこと。今年のアカデミー賞は演技部門ノミネート20枠のうち、19枠を白人が占めたことで、再び「白すぎるオスカー」との批判が上がっていた。多様性を求める声が、SAGでの「パラサイト」への投票につながった可能性も大きい。

2020年1月19日のSAGでのポン・ジュノのスピーチがこれまた心がこもっていたものだから、アカデミー賞の投票締切(2020年2月4日)まで迷っていた会員に与えた影響もあるだろう。「パラサイト」のアメリカでの配給を手がけるNEONは、メジャースタジオに比べると、オスカーキャンペーンにそれほど予算をかけられる会社ではなかったが、会員向けの試写にこまめにポン・ジュノを参加させるなど、地道なキャンペーンが実を結んだ。

アカデミー賞が近づくにつれ、LAタイムズなど有力媒体で「パラサイト」を応援する記事も増加。ここ数年でアカデミー会員の数を、とくに女性や多国籍を意識して急激に増やしたことも、多様性を意識した結果を導いた一因に違いない。

オスカー授賞式の最後にスピーチした女性の正体は韓国映画を国際市場に売り込んだ人物

字幕作品は観客に敬遠されるのが常識だったアメリカで、「パラサイト」はアカデミー賞を受賞する前に、すでに3600万ドルもの興行収入を記録していた。大ヒットといえる数字である。これも配給会社NEONの功績だが、作品自体が字幕をあまり読まなくてもわかりやすい作りだったことも、ヒットの要因だろう。

2家族の設定を含め、登場人物のキャラがじつに明快だし、映像で〝感じさせる〞語り口のうまさが、「パラサイト」には備わっている。また、ここ数年、アメリカでもNetflixなどで海外作品を字幕で観る習慣が増えてきたという分析もある。2018年の「クレイジー・リッチ!」の予想外のヒットが示したように、アジア系の作品への親近感も関係していそうだ。

画像: オール・アジア俳優キャストで大ヒットした「クレイジー・リッチ!」

オール・アジア俳優キャストで大ヒットした「クレイジー・リッチ!」

その中で韓国映画がアジア初のアカデミー賞作品賞に輝いたのは、やはり国をあげての国際市場への売り込みが、ついに実を結んだからか。Kポップが世界的人気を上げているように、韓国政府が映画への支援にも力を入れており、その責務を担っている一人が、アカデミー賞授賞式でも作品賞で最後にスピーチした、ミキー・リー。

CJエンタテインメントのミキー・リー

サムスングループの創始者の孫で、CJエンタテインメントで数多くの映画をプロデュースした彼女は、1990年代にドリームワークスに投資するなどハリウッドでの活躍の場も広げ、韓国映画の国際的進出をバックアップしてきた。「パラサイト」は、そのひとつの到達点。もともと韓国は自国内だけでは映画市場が小さいと考え、音楽と同様に世界進出を視野に入れるのが自然な流れにもなっている。国内だけで採算をとろうとする日本映画とは、そこがちょっと違う感覚なのである。

ポン・ジュノ監督が「韓国の観客からは厳しい指摘も受けるが、それが刺激になっている」と語ったように、「ダメな映画は作れない」という基本精神が、次々と傑作を生む土壌を作っている。

次回以降もアカデミー賞では外国映画勢が有利になるのだろうか?

「パラサイト」のオスカー受賞からは、世界的な映画界の動向の変化も感じさせる。カンヌ国際映画祭のパルムドール作品が、アカデミー賞作品賞に輝くのは、なんと1955年の「マーティ」以来、じつに64年ぶり。それ以前も1945年の「失われた週末」のみという超レアケースだ。カンヌとアカデミー賞は、それほどまでスタンスが異なっているということ。

国際的で、作家性やアート志向を優先するカンヌにしては、「パラサイト」はエンタメ色の強い作品であり、同じくヴェネチアの最高賞もアカデミー賞に絡んだハリウッド作品の「ジョーカー」だったことを考えると、何が受賞するかわからない〝多様〞な選択への流れが実感できる。

画像: アカデミー賞授賞式で作品賞受賞に沸く「パラサイト」チーム

アカデミー賞授賞式で作品賞受賞に沸く「パラサイト」チーム

では「パラサイト」によって、次回以降のアカデミー賞でも外国語映画が有利になるのか?逆に来年は「ハリウッド作品を」という機運が高まるかもしれないし、一方で2010年代にはメキシコ人が監督賞を5回も受賞する例があったりするので、新たなサプライズに今から期待を高めたい。

「パラサイト半地下の家族」

画像: 【徹底検証】パラサイトはなぜアカデミー賞作品賞を受賞できたのか?

監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム

韓国の半地下住宅に住むキム一家は全員失業中。ある日、長男のギウが大金持ちパク氏の娘の家庭教師というおいしいアルバイトにありつくが、そこからキム一家は次々とそのリッチな家庭に家族であることを隠して、一人また一人と雇われていくが……

あわせて読みたい

This article is a sponsored article by
''.