2ページ目にネタバレを含みますのでご注意ください!
私が2019年に観て最も面白く、感心したのがポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」だ。
いや、どうやら感心、感動したのは私だけではないようで、いま海外のあらゆる映画賞を獲り捲っている。昨年のカンヌ映画祭で最高賞、韓国映画初のパルムドールに輝いたのは大きな話題となった。その際、ポン監督は「これは大変韓国的な映画なので、海外の観客には理解出来ないんじゃないかと思った」と発言していたが、なんのなんの、シドニー映画祭(オーストラリア)やロカルノ映画祭(スイス)、年末に至っては英インディペンデント映画賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、ニューヨーク映画批評家協会賞等々を総ざらい。
のみならず、ゴールデングローブ賞三部門ノミネート(外国語映画賞受賞_、アカデミー外国語映画賞改め国際長編映画賞もノミネート、いやメインの作品賞等々も狙える勢いだ。もちろん韓国本国でも青龍賞、春史大賞映画祭等々、映画賞を席巻中である。
“パラサイト”するワケ1
コメディー×サスペンス×ホラー=超画期的エンターテインメント
まぁ批評家受けだけなら無いことはないが、韓国映画という特殊性にもかかわらず、パリでの大ヒットの他、各国軒並みに観客が詰めかけている。アメリカでは外国映画興行収入の歴代トップ入りを果たす大ブレイクなのである。
何故こんなにも人気なのか?いま世界中に蔓延する経済格差が共感を集めている、という見方もあるが、何より先ず映画として、エンターテイメントとして画期的な面白さを備えているからである。格差を描く映画などごまんとあるが、大概はヒューマンに、辛気臭く終始するではないか。しかし「パラサイト」は全然違う。家族のドラマでありながら、ウルトラブラックコメディにしてサスペンスフルであり、えっホントか!? なスーパーハイパーホラーの領域まで突き進むのだから、つまらない訳がない。
“パラサイト”するワケ2
半地下住宅という映画的ヴィジュアルがどハマり!
何より“半地下”という、映画的なヴィジュアルがいい。「パラサイト 半地下の家族」とは、久々に上手い邦題をつけたものだ。実に的を得たサブタイトルではないか。この韓国ならではの特異な居住空間=半地下が、この映画最大のアドバンテージ。日本にも半地下構造の住宅はあるが、それはむしろオシャレ物件。
かつて恵比寿に住んでいた頃、近所に半地下の喫茶店があった。脚首フェチのフランソワ・トリュフォー監督「恋愛日記」の主人公を気どって、日がな半地下の窓から道行く人々の足元を眺めていたものである。いや私は脚首フェチじゃあないぞ(笑)。
しかし韓国の半地下は事情が異なる。ソン・ガンホが父親に扮したキム一家の半窓から見えるものは、家に向かって立ち小便している酔っぱらいや、路地に吹き溜まるゴミばかり。朝鮮戦争休戦後、北への脅威から家屋に地下防空壕設置を推奨した朴政権の建築法改正が始まり。それが居住可能なように半地下化し、1990年代のピーク時には全世帯の19%にまで占める。
窓が地面のすぐ上にあり、高湿度で湿っぽく、結露や黴が生え生活には不向きだか、それ故に家賃が安く都市部の貧困層が住まうようになった。窓から覗きこみ易いのでプライバシーの侵害や犯罪の問題も少なくない。
ソウル在住の日本人ライターの知人も、ちょっと前までそんな半地下住まいだった。路地に入ればすぐに目にする事が出来る。その逆に、ペントハウスと云えば聞こえはいいが、ビルの屋上に小屋を立てて安く住まう若者もいる。親しい韓国の若手映画人を訪ねたらそんな住宅であった。韓国映画ではよく見かけるロケーションである。衛生面に不安は残るが、半地下は水圧の関係でトイレが部屋の一番高いところだったりもする。
そんな所でキム家の兄妹がスマホの無料WiFiを拾おうとするドタバタは本作屈指の名場面。逆流する便器の蓋を制し、タバコ一服する妹役パク・ソがあっぱれだ。