毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が〝最高品質〞の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は注目スタジオ〝A21〞が贈る、優しい嘘から生まれた感動の実話物語「フェアウェル」です。

編集部レビュー(後半)

ビリーと一緒になって考えてしまいました

多くの賞レースで話題になった本作、テーマはいたってシンプル。愛する祖母に、その余命がわずかであることを告げるか、それとも嘘をつき通すか。米国と中国の価値観の違いを織り交ぜながら、家族の葛藤を描いています。どの考えが正しいとか間違いだとか、答えはありません。どの意見にも共通してあるのは、祖母への愛。

ビリーが言うようにちゃんと告げた方が良いよ、と思いつつも、集まった家族を前に元気に張り切る姿を見ると、嘘でいいのかも...、と一緒に悩む自分がいました。

本作は中国の文化に沿って描いていますが、中国に限った話ではなく、日本でも起きること。同じような経験をした方も多いのではないでしょうか?私も似た経験があるので、この作品を見て少し救われた気がしました。そんな風に、見た人の助けになるような一本になるといいな、と思いました。

レビュワー:中久喜涼子
ビリーと祖母の抱擁シーンで思わず涙がこぼれました...。嘘って良くないけど、こういう優しい嘘なら許されるのかもしれませんね。

同じ東洋人でも微妙に異なる感覚が面白い

「西洋では個人の命はその人のものだが、東洋では全体のものである」。主人公の叔父が諭す言葉は、同じ東洋人として何となく理解できなくもないのですが、アメリカではどのように受け止められ映画のヒットにつながったのか興味深いものがありました。

主人公もそんな東西の考え方の違いに戸惑うのですが、個人的には、いとこの婚約者が日本人だったのが面白かったです。同じ東洋人でも、中国とは家族の捉え方も愛情表現も微妙に違う。婚約者が戸惑う姿に共感するのは日本人ならではの楽しみ方かもしれません。愛情深い祖母ときつく抱き合う主人公の姿も、羨ましいのと少し気恥ずかしいのと半々...

だけど、独自の健康法を教えたり、もういい大人の孫にいつまでもお小遣いをあげたり...こういうおばあちゃんあるあるは世界共通なのかもしれません。

レビュワー:阿部知佐子
元ピアニストだという監督のセンスが光る音楽もよかったです。ピアノではなく人の声で奏でるベートーベンの「悲愴」が心地よい。

純粋な中国映画を見るより今の中国を肌で感じられる?

本当の中国を良く知っているわけではないけれど、純粋な中国映画を見るより、このアメリカ製映画を見る方が、今の中国を肌で感じることができたような気がする。それは監督のルル・ワンであったり、主演のオークワフィナであったり、中国の血を引きながら、実際長く暮らしているのは異国、というアイデンティティーを持つ人たちの目から見る“祖国”というイメージだからなのか。

同じアジア人であっても“死”に対する反応は日本と中国では違うという話も聞いたことがある。ここであくまでも祖母のナイナイに余命を隠そうとする親族たちの行動は理解できるような反面、何もそこまでと思う感覚は、半分西洋人でもあるオークワフィナ扮するビリーのやるせない心情と重なり、そこから派生する個人的な“現実”が我がことのように積み重なってくる作り方も上手い。

レビュワー:米崎明宏
編集長。ここにある親密さと疎外感という感触は「ロスト・イン・トランスレーション」を見た時のものとなんとなく似ているような気が。

1人の正直者と8人の(優しい)嘘つき

余命わずかな祖母へ真実を隠して“嘘”の結婚式を名目に集まる一族。本人への告知をめぐり様々な思惑が交錯し......と話はシンプル。登場人物もおばあちゃん子の女性と祖母、親族の計9名とミニマムだ。注目すべきは彼らの表情。序盤、NYと日本に暮らす息子家族の帰郷を祖母が素直に喜ぶ一方、一族は神妙な面持ち。

孫、息子、嫁、妹......置かれた立場によって嘘をつく理由は異なり“中国では知らせないのが普通だから”“自分の夫の時も隠していたから”と各々の理由を見つけ、祖母との残された時間を過ごす。いつまでもその理由を見つけられず葛藤する主人公の気持ちが分かるからこそ、彼女が最後に選んだ“フェアウェル=お別れ”は腑に落ちた。

中国での原題は=彼女に言わないで、元になった話はWhat You Don't Know=知らないこと、そしてThe Farewell......いずれも言い得て妙だ。

レビュワー:鈴木涼子
墓参りの珍奇な風習や、大げさに悲しんで見せるためプロの泣かせ屋を雇う...など中国の“?”な部分をユーモラスに描けるルル監督。今後に期待!

This article is a sponsored article by
''.