15年後のラブソング
2020年6月12日(金)公開
「ハイ・フィデリティ」「アバウト・ア・ボーイ」などの原作者であり、「ブルックリン」などの脚本家としても活躍するイギリスの人気作家ニック・ホーンビーの小説を映画化したロマンチック・コメディー。イギリスの港町サンドクリフを舞台に、腐れ縁の恋人との悩み多き日々を送るアラフォー女性と表舞台から姿を消していた伝説の歌手の奇妙な交流を描く。90年代に人気を博したバンド“レモンヘッズ”のジェシー・ペレッツが監督を務める。
監督/ジェシー・ペレッツ
出演/ローズ・バーン、イーサン・ホーク、クリス・オダウド
© 2018 LAMF JN, Ltd. All rights reserved.
編集部レビュー
観客の年齢で見え方が変ってきそうな“中年の危機”
イーサン・ホークの「リアリティ・バイツ」(1994)が出てきた時、自分より一世代くらい若い登場人物たちが大人の世界の入り口で“もがく”姿を微笑ましく見たものだが、その世代が“中年のあがき”を抱えるような映画ができる時代なんだなと思うと、ちょっと感慨深い。もしかするとこの映画を見る観客がいま何歳なのかで見え方も結構変わって来るかもしれない。
そのイーサンのロック好きも有名だけど、彼の友人だった故リヴァー・フェニックスも“アレカズ・アティック”というバンドを持っていた。タッカーが世の中から姿を消したのが93年という設定で、リヴァーが23歳でなくなったのも同年。偶然かもしれないけどなぜかタッカーにリヴァーを重ねてしまった。
リヴァーが生きていれば、イーサンも彼も今年50歳。二人の粋なセッションなども見られたかもなどと妙な妄想も……
レビュワー:米崎明宏
編集長。その“アレカズ・アティック”の未発表曲がリヴァーの50歳の誕生日に発表されるとかなんとか。映画みたいな話ですね。
迷える大人を抱きしめ、そっと背中を押す
同じ原作者の「アバウト・ア・ボーイ」(2002)は大好きな映画の一本だ。ヒュー・グラント演じる無責任男が、年の離れた少年との交流を通して“オトナ”になっていく。爽やかな感動を残す佳作だった。
本作もまた“大人になりきれない大人”を描く作品。主人公は30代半ばの女性。安定した仕事も腐れ縁の恋人も持ちながら、どこかで道を間違った気も拭えない。でも引き返すには年を取り過ぎた。
性別を問わず彼女に共鳴する同世代の人は少なくないはずだ。そんな彼女の人生を変えるのはイーサン・ホーク演じる伝説の歌手との出会い。でも彼が白馬の王子というわけではない。結局、自分の道を決められるのは自分だけであり、一歩踏み出す勇気こそ勝利なのだというメッセージが胸に沁みる。迷える大人を抱きしめ、そっと背中を押す。この作者の温かい目線がやっぱり大好きだ。
レビュワー:疋田周平
副編集長。くたびれたミュージシャン役のイーサン・ホークがはまり役。あんなにお腹が出てるのになんでかっこよく見えるんだろう…。