英国映画界から将来が楽しみな才能がまたひとり
主役を演じるジェシー・バックリーは「ジュディ虹の彼方に」で見せた、英国女優らしい知的で気品ある美しさに惹かれて注目していたのですが、今回なんと出所シーンから始まるなかなかやんちゃな役!?
不思議なことにこちらも板についていて、むしろ彼女の素に近いのかなと思ってしまうほど。他にも「ドクター・ドリトル」やドラマ「チェルノブイリ」にも出演と、役によって全然違うイメージで同一の女優だと気づかなかった…。
その上、驚くほど歌が上手だと思ったら、もともとシンガーソングライターなのだとか。彼女の歌うシーンはどれも見どころですが、泣いたり笑ったり毒づいたりする(右の口角が少し上がるのがかわいい)豊かな表現力が、歌唱シーンだけの映画ではないことを証明してくれます。層の厚い英国映画界、またしても将来が楽しみな逸材を輩出してくれたようです!
レビュワー:阿部知佐子
今年のBAFTAで主題歌「Glasgow」を堂々と歌い上げる姿は圧巻!歌声に聴き入る豪華すぎる観客の中にはあの「パラサイト」コンビも。
カントリーは3コードの真実!
歌手になる夢を追うシングルマザー、ローズ(散らかりタイプ)。雇用主に旅費下さいって言ったり(せびるな!)、ラジオパーソナリティーに作詞しろって言われたり(作ってなかったんかーい!)とツッコミどころ満載な彼女ですが、そのダメダメなところも愛おしく思えるのは、カントリーが好きで歌うのが好き、というのが全身からみなぎっているから。
ところが公には子供はいないし、前科も無いことに。カントリーは「3コードで真実を表現できるの」と豪語していたのに、自分が空っぽであることに気づきます。そんな状態で歌えるわけもなく、夢に向かって動くたびに壁が。歌う力を無くした彼女に母親がかける言葉がとても重みがあり染みました。
迷走を繰り返しながらも導かれるように生み出された曲は素朴だけど力強く、真っすぐな彼女の生き様と歌声にパワーを貰えました。
レビュワー:中久喜涼子
ソフィー・オコネドー演じるスザンナがめちゃめちゃ良い人。ローズのことをお金を稼げるミュージシャンと評価して接している姿が清々しかったです。
音楽の街から音楽の街を目指すシングルマザー
“グラスゴー”出身のローズは“ナッシュビル”で歌手としての成功を夢見るシングルマザー。素人目に見るとどちらも音楽の街だが、全くの似て非なるもの。グラスゴーは世界的バンドを多数輩出しているものの、ローズが目指すのは“カントリー・ミュージックの聖地”だ。
“グラスゴーのカントリー歌手はありえない”という台詞も出てくるほど彼女の夢は異色らしい。しかし保護観察中&子供二人を持つローズが海を越えるのは容易でなく…
主役は紛れもなくローズとその圧倒的歌唱力なのだが、鑑賞後に思い出すのは“パン屋勤続20年”のローズの母。親としての自覚がない娘を厳しく諭す一方、誰よりも夢を叶えてほしいと願っている。夢と現実の間で葛藤する子供を一撃で後押しできるのは、やはり親しかいないんだな(晴れて憧れの地へ上陸したローズのナッシュビル滞在記がこれまた楽しい!)。
レビュワー:鈴木涼子
冒頭の『カントリー・ガール』ローズver.が映画の幕開けにふさわしすぎて…。オリジナルを歌うプライマル・スクリームの出身地はもちろんグラスゴー!