トムが初めて自らプロデュースを担当したシリーズ第1作
脇役時代を経て『卒業白書』でブレイクして以来、ハリウッドのトップを走り続けているトム・クルーズ。多くの良作に恵まれ、息の長いキャリアを誇っているが、そのなかでもっとも重要なのは、やはり『ミッション:インポッシブル』シリーズだろう。
1996年にスタートして以来、これまで6作が公開され、現在は2本が製作中。シリーズものは回を重ねるごとにパワーダウンするのが常だが、これはその逆。クオリティも人気も次々とバージョンアップし、おそらく『9』『10』だって作られるに違いない大人気シリーズへと成長し続けている。
本シリーズが、トムにとってスペシャルな存在になった理由はいくつかある。そのひとつは、第一作目が彼のキャリアの大きなターニングポイントになったことだ。シリーズが始まったとき、トムはすでに大スターだったが、ほかの人気者たちのように続編に出演したり、シリーズものを持つことはしてなかった。世界中で大ヒットした『トップガン』でさえ当時のトムは、その続編をかたくなに拒否していたのだ。
そんななか登場したのが『ミッション:インポッシブル』だった。子どものころからオリジナルのTVシリーズ『スパイ大作戦』が大好きだったというトムはこの作品を、ポーラ・ワグナーと一緒に立ち上げた製作会社、クルーズ/ワグナー・プロダクションの第1作目に選び、主人公のスゴ腕スパイ、イーサン・ハントを演じた。そういう意味でも思い入れが強いのだ。
1作ごとに個性的な監督を次々起用してトム自身のセンスも発揮できることに
トムが選んだ記念すべき1作目の監督はブライアン・デ・パルマだった。『アンタッチャブル』で往年の人気TVシリーズを見事に大スクリーンに蘇らせた経験をもつ個性派監督に白羽の矢を立て、あの名シーンを誕生させたのだ。
僅かな変化だけで警報が鳴り響くというコンピュータルームに宙づりになり情報を盗み出すイーサン・ハント。水一滴落ちてもダメ、室温の変化でもダメなこのシチュエーションで、イーサンの眼鏡には大粒の汗が!汗一粒でこれだけドキドキしたのは初めてという人もたくさんいたのではないだろうか。まさにスパイサスペンスの醍醐味を凝縮させたような名シーンだった。本作は世界中で大ヒットし、トムにとっては初の続編、初のシリーズものとなった。
そして、2作目の監督にトムが選んだのは何とジョン・ウーだった。当時のウーは『フェイス/オフ』等を大ヒットさせ、ハリウッドで熱い視線を浴びていた時期。このとき監督候補として挙がっていたのがデビッド・フィンチャーだったことを考えると、常にトムは個性の強い監督をチョイスしていたようだ。
3作目はTVシリーズの『LOST』で注目されていたJ・J・エイブラムス、そして4作目は『Mrインクレディブル』でピクサーアニメーションの新境地を拓き、実写はこれが初めだったブラッド・バードを選んでいる。
この監督選びによってトムは、プロデューサーとしてのセンスと大胆さも知らしめたことになる。とはいえ最近は、『5』で初タッグを組み、意気投合しまくったクリストファー・マッカリー一筋になっているけれど。
体当たりアクションがシリーズを追うごとにエスカレートしシリーズの魅力に
が、それはさておき、本シリーズでトムの魅力がもっともダイレクトに伝わってくるのは、彼が披露する数々のリアルアクションだ。VFXには頼らず、スタントマンを使うこともなく、トム本人が命がけでやるハードアクション&スタントの数々。ファンはそれを待っていると言っても過言ではない。
アクションが本格的に注目されるようになったのは第2作『M:I-2』から。休暇中のイーサン・ハントがそそり立つ絶壁をロッククライミングしているという度肝をぬくシーンで始まるのだが、このシーンのトムは本人。よく見ると装備はほぼナシで、何と手だけで登っている!こういうスタントの場合、普通は保険会社がOKを出さないのだが、本シリーズのプロデューサーはトム自身なので強硬的に実行したという。以来、トムのこの体当たりアクションがシリーズ最大の魅力になったのだ。
続く3作目「M:I:Ⅲ」のハイライトは橋の上での攻防戦。捕らえた武器商人の奪還を謀る軍人たちが走行中のイーサンたちを攻撃。爆風によって体を叩きつけられたり、滑ってきた大型トラックをすり抜けてみたりと、0.1秒タイミングが狂っただけで大惨事のシーンも本人がやっている。