第二部 低迷期もあったというドニー・イェンの俳優人生とは?
この夏、日本で公開される香港ノワール「追龍」で実在した伝説の麻薬王ン・シーホウを演じたドニー・イェン。最近のドニーにとっては珍しい悪役で、中国本土・潮州人特有のなまりを習得し、特殊メイクで人相を変えるという凝った役作りにも挑戦。アクションスターはとかく格闘シーンばかりが注目されがちだが、同じく実在した香港警察のリー・ロックを演じたアンディ・ラウとW主演でがっぷり組んだ演技合戦も見どころたっぷりだった。
今や中華圏のトップスターでハリウッドでも大活躍するドニーだが、低迷期があったことはあまり知られていない。「ドラゴン危機一発’97」で狂熱的なエネルギーを爆裂させ、アクションファンの度肝を抜いたのが34歳のとき。その後、自分の制作会社が倒産。俳優活動をやめてドイツや日本でアクション監督に徹していた時期があったのだ。「当時は預金が1,500円しかなかった」と後述している。
転機となったのは2001年。クェンティン・タランティーノ監督の後押しで「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアンモンキー」(1993)が全米公開されてスマッシュヒット。さらにチャン・イーモウ監督の「HERO」(2002)でジェット・リーとの再共演が話題を呼んだのだ。このときドニー38歳。アクションスターとしての年齢から考えると遅咲きといえるだろうが、ここからドニーの快進撃が始まる。
総合格闘技の要素を取り入れた「SPL/狼よ静かに死ね」(2005)「導火線FLASHPOINT」(2007)で自分のアクションスタイルを確立。そして2008年に出会った運命的な作品、それが「イップ・マン」だった。
「イップ・マン序章」「イップ・マン葉問」「イップ・マン継承」「イップ・マン完結」と4本製作されたこのシリーズでドニーは〝ただ強いだけのヒーローではなく、家族と国を愛する善良な人格者〞を演じた。「僕の人生に寄り添ってくれる役に出会えた。よい人生経験になっている」と語ったドニー。11年にわたりこの役を演じ続けたことが、演技者ドニー・イェンを深く静かに成熟させていったのである。
ハリウッド超大作でも活躍を続けるというブルースの夢を叶えた?
2016年には「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」で盲目の戦士チアルート・イムウェ役を好演。「自分が『スター・ウォーズ』シリーズに出演する最初の中国人俳優でとても光栄。子どもたちにとって〝クールなパパ〞になれて最高だよ!」と語り、チャイニーズ・シアターに手形・足形を残すという偉業を達成、名実ともにハリウッドスターの仲間入りも果たした。憧れのブルースも叶えられなかった夢を実現させたのだ。
さらに2020年にはヒロインの師となるタン司令官を凛々しく演じたディズニー映画「ムーラン」も公開を控えているドニー。〝宇宙最強〞というキャッチフレーズで知られるドニーだが、歩んできた道は決して平坦ではなく、己のあくなき向上心に突き動かされるようなドラマチックな俳優人生だった。
モデルだった奥さんとはおしどり夫婦として知られ、ローティーンの長女ジャスミンと長男ジェームズも芸能界入りが囁かれている。〝宇宙最強ファミリー〞の誕生も近いかもしれない。
『ブルース・リー 4Kリマスター復活祭』2020年7月3日より開催中!
『猛龍生誕80周年!』と銘打って、7月3日からブルース・リーの真髄を込めた主演作4本が4Kリマスター・バージョンとなって上映される“復活祭”が東京・アップリンク吉祥寺などで全国的に開催!上映作品は「ドラゴン危機一発」(1971)「ドラゴン怒りの鉄拳」(1972)「ドラゴンへの道」(1972)「死亡遊戯」(1978)といったゴールデン・ハーベスト社の誇る必見作だ(いずれも配給はツイン)。最高の映像と音声で贈る〈世界初・日本限定バージョン〉というファン垂涎の復活を見逃すことはできない!