1990年代
──今に繋がるファッションが最も開花した時代
1990年代はファッションに大きな変化があった時代。派手な装飾が目立った1980年代への反動から、デニムやスニーカーがヒットアイテムになり、ヒップホップやグランジ、フレンチ・カジュアルなど、普段通る“街角”から流行が生まれて行った。今に繋がるストリート・ファッションが最も花開いたのは1990年代だった。
ここでは、そんな時代の空気をもろに取り込んだ、90年代テイストむんむんの映画の中から、ファッションに特化して「これは無視できない」という代表的な作品を何本かテーマ毎にピックアップしてみよう。
ロックから影響されたグランジ・ファッション
まずは、グランジ。元々は、1989年頃からアメリカのシアトルを中心に巻き起こったロック・ミュージックのジャンル名で、彼らが着ていたダメージジーンズやTシャツやネルシャツも同じくグランジ(薄汚い)と呼ばれて若者たちに浸透していく。
そんな時代のシアトルに住む若いカップルの恋を描いた「シングルス」(1992)では、マット・ディロンが演じるロッカー志望の青年、クリフが着るでれでれショーツ&スパッツにハイカットブーツ&ソックスという汚れコーデがグランジ感満載。
また、「エンパイア・レコード(1995)で老舗レコード店のアルバイト店員、コリーに扮するリヴ・タイラーが着こなす、クロップト丈ニットのヘソ出しグランジもあっけらかんとしていて可愛かった。
そして、この時代のグランジクイーンはウィノナ・ライダーだ。「リアリティ・バイツ」(1994)で彼女がトライしたシャツドレスやオーバーサイズのTシャツの着こなしは、グランジにインスパイアされたレトロ感覚がとても新鮮だったものだ。
また、イキリスのウェールズが舞台の「トレインスポッティング」(1996)では、ユアン・マクレガーが裂けたデニムにカットオフのTシャツ、腰にネルシャツを巻いて街を駆け抜ける。ダボついたトレーナーやジャージ、ユアンの坊主頭(“オシャレボウズ”と呼ばれて今も人気です)も含めて、「トレスポ」は映画自体もファッションもカルチャーも、全部まとめてカルトとして長く愛される作品だ。
ストリート・ファッションとフレンチ・カジュアル
次に、テイストとしてはグランジと被る部分も多い、ずばりストリート・ファッション。話題の90年代回顧映画「mid 90sミッドナインティーズ」のインスピレーションにもなったという「KIDS/キッズ」(1995)では、野球帽にブランド名入りのスケーターTシャツとダボダボのチノで少年たちがワシントンスクエアに集まってくる。
これが映画デビューのクロエ・セヴィニーがジーンズに赤いスケーターベルトを締めていたのも印象的だ。「レオン」(1994)で当時13歳のナタリー・ポートマンが、エッジィなショートボブにチョーカー、それに、90年代のトレンドを代表するMA-1のフライトジャケットで登場した時の新鮮さも忘れられない。今もそんな”マチルダ”を街で見かけることがよくある。
ここにも登場するウィノナ・ライダーが、「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991)で見せるミリタリー・テイストのジャケットにオーバーサイズのカーゴパンツを合わせた男前なコーデにもクラっと来た。咥えタバコでハンドルを握る女性タクシードライバーという設定も粋だったし。
いわゆる”フランス人の日常着”として男女を問わず90年代に流行ったフレンチ・カジュアル。フランス人デザイナー、アニエス・ベーが巻き起こしたブームを映画に取り入れたのは「バッファロー’66」(1998)で、ヴィンセント・ギャロが着こなす体型にアジャストしたレザー・ブルゾンにスラックス、足元のレッドブーツ、それに、スリムフィットパンツの腰から白いグンゼが半ケツで覗くアンバランスなスタイルは、他のヒットアイテムに比べてワンランク上な感じがする。