『子供っぽい映画』と『子供の気持ちに寄り添う映画』は違う
クリスマスイブに可愛いペットのモグワイが恐るべきモンスター、グレムリンへと変身する「グレムリン」、高校生がタイムマシーンに乗って30年前の我が町へとワープする「バット・ トゥ…」、少年たちが宝探しに出かける「グーニーズ」etc、80年代のスピルバーグ映画を『どれも子供向け』と揶揄する意見が散見されたこともある。
例えば、「グーニーズ」の中でチャンクが偽物のゲロを映画館の2階から1階にぶちまけたところ、1階のお客たちが気持ち悪くなってゲロを吐くというオゲレツ場面は、スピルバーグの実体験に基づいたアイディアだとか。
また一方で、スピルバーグは撮影最終週に主要キャストの子供たちに対して、わざと監督のリチャード・ドナーに冷たく接するように指示。そして、撮影終了後、ドナーがハワイにある自宅のビーチハウスに戻ったところ、予めハワイに先回りしていた子供たちが熱狂的に出迎えるという計画を立案、実行する。
そんな風にオンでもオフでも、言われてみれば確かに子供みたいなスピルバーグだったが、彼が抱き続ける童心は、本人の手によって、また、同じ思いを共有する同業者たちによって、1級のエンタメに昇華されていく。その作業こそが大人で超一流なのだ。
単に子供っぽい映画と、子供の気持ちに寄り添う映画とは、例え大人が主人公の場合でも、出来上がりが違う。スピルバーグの映画は完全に後者で、だからこそ、子供たちは熱狂し、童心を捨ててない大人たちをいつだって、イノセントな時代へと引き戻してくれるのだ。
80年代は気楽で最もイノセントな時代だった』と述懐するスピルバーグ
「レディ・プレイヤー1」ブルーレイ/ DVDリリース中
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and RatPac-Dune Entertainment LLC. All rights reserved.
一昨年、80年代カルチャー満載の監督作「レディ・プレイヤー1 」(2018)のキャンペーンで13年ぶりに来日した際、スピルバーグは1980年代を振り返って、『気楽でイノセントな時代だった』とコメントしている。『あの頃は地球規模の混乱もなく、経済は安定していて、映画と言えばエスケープのためのエンターテインメントだった。人々は映画の中に現実逃避していたんだね。最もイノセントな時代だったんじゃないかな』と。
そんな時代の空気感とスピルバーグの映画人としての個性が、イノセントという言葉で繋がれていた1980年代。もうあんな時間は2度と帰って来ないのかもしれない。
その後、戦争の壮絶を描いた「シンドラーのリスト」(1993)や「プライベート・ライアン」(1998)でヒットメーカーとしてだけでなく、監督として頂点に上り詰めたスピルバーグ。そんな彼の変容ぶりを指して〝童心の終焉〞と表現する意見がある。
それは同時に、見る側も大人になった証拠。しかし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「グーニーズ」を観れば、少なくとも純粋だったあの頃にタイムスリップできる。それは永遠に時間の洗礼を受けない、映画ファンだけのお楽しみなのだ。